【2017年読書感想文特集】『霧の中の白い犬』アン・ブース 作(高学年向け課題図書)

霧のなかの白い犬




内容の紹介

大好きなおばあさんが白い子犬を飼うことになり、ジェシーは大喜びします。しかし、それはおばあさんの変化の兆しでした。認知症を発症したおばあさんは、少女時代の記憶を生きはじめます。ジェシーは、誰にも語ることのなかったおばあさんの過去を知ることになります。

読む前の下ごしらえ

考えてほしいこと

読む前に、次のことを考えてみましょう。

  • あなたの知っている「おとぎ話」を教えてください。
  • あなたは、多数決で物事を決めるときはありますか。
    • 多数派になったとき、あなたはどんな気持ちになりますか。
    • 少数派になったとき、あなたはどんな気持ちになりますか。
    • たとえ少数派になったとしても、あなたは自分の正しさを主張できますか。
    • 多数決の長所と短所は、それぞれどんなところでしょうか。

合わせて知りたい

  • 第二次世界大戦のころの時代背景について、社会の教科書を読んで確認しましょう。
  • 2016年6月23日、イギリスは国民投票でEUからの独立を決めました。この投票の焦点の一つに、この小説の背景として描かれるイギリスの移民問題があります。次の記事を読んで、イギリスの国民投票と移民問題について知りましょう。難しい場合は、大人と一緒に読みましょう。

読む

読む時は、印象に残った場面や不思議に思った場面など、「心が動いたところ」にふせんを貼りながら読みましょう。書く時の材料になります。
また、できれば、家族や友だちと、同じ本を読んでみましょう。自分と違う感想や考え方を知ると、感想文の内容がより深いものになります。

準備する

気持ち

本を読んで感じた気持ちをことばにするのは、なかなか難しいものです。読み終わったら、次の「気持ちについて考えよう」シートを印刷して、感じた気持ちに丸をつけてみましょう。対話のヒントになります。

体験

読書感想文では、本の内容と自分の体験を結びつけることが大切です。自分の体験が思いつかない場合は、このページの「考えるヒント」を参考にして、本のテーマについて誰かに聞いたり、調べたり、新しく何かをしてみたりするとよいでしょう。

考えるヒント

  • 「雑種犬は、この子とちがってずっと乱暴なんだから」(P76.12)というジャニスに対して、ベンのお母さんは、雑種犬を差別するのを許しません。「純潔犬も雑種犬も同じようにすばらしい」とベンのお母さんが考えるのはどうしてでしょうか。ベンのお母さんの家族について、振り返りながら考えましょう。
  • P99~103で、ジェシーは、 バスを降りようとしてニールを突き飛ばしたのががフランたちだと知りました。ジェシーは「でも、わたしにいったい何がいえただろう?」と自問し、自分を臆病者だと思います。しかし、P167~173では、フランと一緒に、両親に本当のことを話す勇気を持ちます。なぜ、このような心境の変化がジェシーに起こったのでしょう。この間に起こった出来事を振り返りながら考えましょう。
  • ハンター先生は、授業の中で「おとぎ話は、 愉快で楽しい安心できるものでなくていい。おとぎ話は、困難な世界を理解する手立てとなる 」と語ります。あなたは、この話を聞いて「おとぎ話」について、どのような考えを持ちましたか。直前のヤスミンの言葉なども振り返りながら、「おとぎ話」と「困難な世界を理解すること」の関わりについて考えてみましょう。
  • ドイツ語のボンフェッハー先生は第二次世界大戦中のナチスについて、「ああゆうことは、この国にだって起きる可能性はある。ドイツだけの話じゃない」と話します。
    • ボンフェッハー先生のいう「ああゆうこと」とは、どのようなことでしょう。社会の教科書を読んだり、べンのおばあさんの話を振り返ったりしながら考えましょう。
    • 「この国(イギリス)にだって起きる可能性はある」とは、どういう意味でしょう。具体的に考えてみてください。
    • それは日本でも、すでに起きていたりこれから起きたりする可能性があるでしょうか。考えてみてください。

保護者の方へ

上記の「考えるヒント」を参考に、対話をしながらアイデアを拡げてください。アイデアのメモをたくさん作り、並べ替えながら、感想文の構成を練りましょう。

読書感想文を通して考えてほしいテーマ

  • 多数派と少数派
  • 偏見と差別
  • 「おとぎ話」とは何か

この本について

この小説の背景では、経済危機や高齢化に関わるイギリスの社会問題が、不法就労移民の問題と結びつき、多くの人々が外国人労働者へ悪感情を持っていることが描かれます。

しかし、その一方で、ニールを助けようとする善意ある外国人労働者がいることや、ジェシーの父も出稼ぎ先では外国人としてマイノリティ(少数派)として位置付けられることを知り、ジェシーは、マジョリティ(多数派)の中にふくまれる「おとぎ話」に気がついていきます。

ハンター先生は「 おとぎ話は、困難な世界を理解する手立てとなる 」と語ります。しかし同時に、「おとぎ話」は、偏見や差別を生み出す言説にもなっています。そして、そう信じたい人々やメディアによって再生産され、やがてマジョリティと結びつき、社会に浸透していきます。第二次大戦中のドイツを生きた少年少女もそのような「おとぎ話」を生きたといえます。

多数派の支持を得たおとぎばなしは、ある種の「正しさ」を掲げることでしょう。

しかし、その「正しさ」が人権や社会の様々な実情に照らし合わせて本当に「正しい」といえるのかどうか、私たちは見極めなければなりません。作者は、「おとぎばなしにご用心」と警告を発して、この小説をしめくくっています。 この本の感想文を書くにあたって、ぜひお子さんと一緒に、私たちを取り巻く日本社会や国際社会、歴史の中にみられる「おとぎばなし」に目を向けてみましょう。

情報を鵜呑みにせず、多角的に検討・判断する力を「クリティカル・シンキング(批判的思考力)」といいます。

「おとぎばなし」を鵜呑みにせず、判断を誤らないためにも、私達は物事をクリティカルに(批判的に)検討する力を磨かなくてはなりません。


合わせて読みたい

『アンネ・フランク』

アンネ・フランクは、どこにでもいるようなふつうの女の子でした。ところが、「ユダヤ人を根絶やしにする」と公言していた当時のドイツの指導者、アドルフ・ヒトラーによって、ドイツに住むユダヤ人は、深刻な差別と迫害にさらされます。ユダヤ人であるアンネもその一人でした。過酷な状況の中で、アンネの心の叫びの記された日記は、のちに世界中の人々に読まれ、戦争の悲しみを伝えることになります。

『さくら』

さくらの花咲く三月、家族に祝福されて男の子が生まれます。しかし、日本は太平洋戦争に突入していきます。戦争は、どんどん激しくなり、先生も、ラジオも、本も新聞も、戦争をあおりたてます。敗戦後の苦しい生活の中で、軍国少年だった男の子は、戦争の悲しみを知ります。かつて、日本を覆っていた「おとぎばなし」について、絵本を通して知りましょう。

より深く知りたい

2016年度の読書感想文の高校生向け課題図書です。 第二次世界大戦時ドイツについて理解を深めるための映画や図書についてもおすすめしています。

小説内で語られる「盗賊の花嫁」です。  

構成について

構成にルールはありませんが、どう書いたらいいかわからない時は、次のことを参考にしてください。

「誰に、何を伝えたいか」

  • ことばは、他者に思いを伝えるためのものです。考えたことやメモを元に、書き始める前に、「誰に、何を伝えたいか」を考えましょう。「伝えたいこと」は、できるだけ一つにしぼりましょう。
    • 誰に……例)家族、友人、先生
    • 何を伝えたいか……例)本の面白さ、感動したところ、自分の想い
  • 「伝えたいこと」をしぼることで、構成を立てやすくなります。

文章の構成

  • 文章は、三つのパートに分かれることが多いようです(※三段落で書かなければならないという意味ではありません)。
  • 【はじめ】
    • この文章で「伝えたいこと」や、あらすじを、簡単に書きます。なお、あらすじの有無を学校から指定されることもあります。
  • 【なか】
    • 本に貼った付せんや、考えたこと、メモを元に、「伝えたいこと」をより詳しく書いていきます。
    • 物語の内容と自分の体験を交えると、「伝えたいこと」の説得力が増し、生き生きとした作品に仕上がります。
      • 物語で印象に残った場面や人物について書きましょう。また、それに対しどう感じたかを書きましょう。
      • 関連する自分の体験を書きましょう。「いつ、どこで、誰が、どうした」から書き始めるとよいでしょう。
      • 体験は、過去の思い出だけでなく、本を読んだ後に人に聞いたことや、調べたことでもよいでしょう。
      • 体験の最後には、その体験を通して学んだこと・感じたことを、物語の内容と絡めながら書きましょう。
    • 学んだことを実行するのはなぜ難しいのか、そのためにはどうすればよいのかといった、より現実に根ざした内容の段落を追加すると、深みが増します。
  • 【おわり】
    • 「伝えたいこと」をもう一度強調し、未来につながる決意や前向きなことばで締めます。
読書感想文の書き方・文例について、より詳しくは「テーマを考えてから書こう! ~読書感想文のコツ」をご覧ください。



2017年 その他の課題図書

随時追加していきます。

2017年 夏期講習

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この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

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カテゴリー: ブックレビュー

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