内容の紹介
ポーランドの東にあるナフレカ村で、慎ましく穏やかに暮らしていたレイブ少年(のちの著者、レオン・レイソン氏)の一家の運命は、1939年、ドイツ軍のポーランド侵攻によって激変します。1933年にドイツ第一党となったナチスによるユダヤ人迫害政策のため、ユダヤ人は、略奪や暴力、虐殺の対象となったのです。レイブ少年は、家族と別れ、収容施設で強制労働に従事しながら、死と隣り合わせの少年時代を過ごします。その時、ナチス党員でありながら、レイブ少年や、迫害されるユダヤ人たち1300人もの命を救ったのが、オスカー・シンドラーでした。
読む前の下ごしらえ
考えてほしいこと
読む前に、次のことを考えてみましょう。
- 人を差別した経験や差別された経験、または、差別を見た・聞いた経験はありますか。
読む
読む時は、印象に残った場面や不思議に思った場面など、「心が動いたところ」にふせんを貼りながら読みましょう。書く時の材料になります。
また、できれば、家族や友だちと、同じ本を読んでみましょう。自分と違う感想や考え方を知ると、感想文の内容がより深いものになります。
準備する
気持ち
本を読んで感じた気持ちをことばにするのは、なかなか難しいものです。読み終わったら、次の「気持ちについて考えよう」シートを印刷して、感じた気持ちに丸をつけてみましょう。対話や作文の際のヒントになります。
合わせて知りたい
当時の世界情勢
1940年ごろの世界情勢について、次の動画を見て確認しましょう。
ユダヤの人々を救った人
ナチスはたくさんのユダヤの人々の命を奪いましたが、逆に、たくさんのユダヤの人々の命を救った人もいます(日本の杉浦千畝もその一人です)。次に挙げるのは、そうした人々のごく一部です。調べてみましょう。
映画
『シンドラーのリスト』
自身の経営する工場に勤めるユダヤ人の命を救ったオスカー・シンドラーをモデルにした映画です。ホロコーストの残酷さと、当時を生きる人々の葛藤をリアルに描き出します。
『帰ってきたヒトラー』
ティムール・ヴェルメシュの風刺小説『帰ってきたヒトラー』(2012年 原題:Er ist wieder da 「彼が帰ってきた」)を元にした映画です。日本では2016年に公開されています。死んだはずのアドルフ・ヒトラーが現代のドイツに蘇ります。最初、人々は彼をものまね芸人だと思い、笑いの種にしますが、テレビやインターネットで広がっていく彼の弁舌と思想に、次第に心を奪われていきます。映画には移民問題や経済格差といった「現実」の問題が重ねられ、人々は、映画と知りながら、生の声をアドルフ・ヒトラーに投げかけるようになります。いるはずのないアドルフ・ヒトラーが、力強いビジョンを語るリーダーとして、人々の間で確たる地位を築き始めるーー。この映画は、狂気の時代が決して遠いものではないことを私たちに示唆します。
体験
読書感想文では、本の内容と自分の体験を結びつけることが大切です。自分の体験が思いつかない場合は、このページの「考えるヒント」を参考にして、本のテーマについて誰かに聞いたり、調べたり、新しく何かをしてみたりするとよいでしょう。
考えるヒント
- レイブ少年の経験した差別や迫害について、あなたの心に残った内容を思い出してみましょう。
- こうした差別や迫害がなぜ生まれるのだと思いますか。あなたなりに考えてみましょう。
- ユダヤ人の歴史や宗教について、調べてみましょう。
レイソン氏は「英雄とは、最悪の状況の中で、最善をつくす、ごく普通の人」と述べています。
- 「最悪の状況」「最善」「ごく普通」とは、この場合、どのような意味なのでしょうか。
- 英雄がなぜ「普通の人」なのでしょうか。シンドラーをとりまく状況を思い出しながら、考えてみましょう。
- もしあなたが「最悪の状況」に巻き込まれた場合、あなたは、「普通の人」でいられる自信はありますか。
参考「沈黙を破って:イスラエル元兵士たちの証言」:Breaking the Silence (1)
占領地で人々を虐げたのは、私たちと変わらない良心を持っていた、ごく普通の人々でした。モラルが忘れられ、暴力が日常的なものになっていく過程を、イスラエル軍の元兵士たちが、自ら告白します。
「お前たちは怪物か、とみんな思うでしょ。でも、僕はその原因を知っている。おととい銃の照準を合わせ、昨日は身分証明書を奪い、今日はジープから放り投げる。すべて堕落の中で起こったことなんだ」(「沈黙を破って:イスラエル元兵士たちの証言」:Breaking the Silence (3))
読書感想文を通して考えてほしいテーマ
- 勇気
- 宗教
- 家族
- 差別
- 戦争
- 歴史
この本について
この本を読むと、戦時下に生きた人々の過酷さに胸を痛めざるを得ないでしょう。そして、ユダヤ人への差別や迫害はなぜ生まれたのか、なぜホロコーストが引き起こされたのか、と問わずにはいられません。さまざまな疑問が読み手の胸に去来するはずです。こうした問いについて考えるためには、ぜひ関連する映像作品を鑑賞したり、図書を読んでみましょう。
現在、移民・難民問題やイギリスのEU離脱、世界的な不景気や格差の拡大、テロリズムなど、世界的な混乱が広がりつつあります。1920~30年代、ナチ党は、敗戦による莫大な賠償金と失業などの社会不安を背景に、急速に勢力を拡大しました。人々の不安や不満は、理性による解決ではなく、憎しみの対象を求めます。これは現代に生きる私たちも例外ではありません。
人の心は弱いものである、という前提に立って、日本や、世界のさまざまなところで問題となっている差別や迫害、あるいは、あなたの身近にある問題について考えてみましょう。
合わせて読みたい
『アンネの日記』
第二次世界大戦、ドイツ占領下のオランダ・アムステルダム。思春期の少女アンネ・フランクが、等身大のまなざしで、ユダヤ人狩りを避けて潜んだ隠れ家での生活を綴ります。
『夜と霧』
強制収容所に収容された著者は、恐怖と想像を絶する劣悪な環境の中、思索を深めていきます。人間の残酷さと偉大さが描かれる本書は、多くの人々に読み継がれています。
『ユダヤ人とドイツ』
ナチスによるユダヤ人への迫害は、なぜ発生したのか。その背景にある歴史を知りましょう。
構成について
構成にルールはありませんが、どう書いたらいいかわからない時は、次のことを参考にしてください。「誰に、何を伝えたいか」
- ことばは、他者に思いを伝えるためのものです。考えたことやメモを元に、書き始める前に、「誰に、何を伝えたいか」を考えましょう。「伝えたいこと」は、できるだけ一つにしぼりましょう。
- 誰に……例)家族、友人、先生
- 何を伝えたいか……例)本の面白さ、感動したところ、自分の想い
- 「伝えたいこと」をしぼることで、構成を立てやすくなります。
文章の構成
- 文章は、三つのパートに分かれることが多いようです(※三段落で書かなければならないという意味ではありません)。
- 【はじめ】
- この文章で「伝えたいこと」や、あらすじを、簡単に書きます。なお、あらすじの有無を学校から指定されることもあります。
- 【なか】
- 本に貼った付せんや、考えたこと、メモを元に、「伝えたいこと」をより詳しく書いていきます。
- 物語の内容と自分の体験を交えると、「伝えたいこと」の説得力が増し、生き生きとした作品に仕上がります。
- 物語で印象に残った場面や人物について書きましょう。また、それに対しどう感じたかを書きましょう。
- 関連する自分の体験を書きましょう。「いつ、どこで、誰が、どうした」から書き始めるとよいでしょう。
- 体験は、過去の思い出だけでなく、本を読んだ後に人に聞いたことや、調べたことでもよいでしょう。
- 体験の最後には、その体験を通して学んだこと・感じたことを、物語の内容と絡めながら書きましょう。
- 学んだことを実行するのはなぜ難しいのか、そのためにはどうすればよいのかといった、より現実に根ざした内容の段落を追加すると、深みが増します。
- 【おわり】
- 「伝えたいこと」をもう一度強調し、未来につながる決意や前向きなことばで締めます。