リテラでは、生徒一人ひとりの興味・関心に基づいた学びの成果を、様々な方と分かち合う場として、年に一度、『生徒作品発表会』を開催しています。
今回は、『量子コンピューターの世界』(R・Nくん 新中2)を掲載致します。
もののしくみを知るのが大好きなRくん。知ることの大切さを伝えたいと、ずっと気になっていた「量子コンピュータ」について調べることにしました。どのような文章を、どのような図で説明すれば、そのしくみをわかりやすく伝えられるだろうか。悩み考えながら研究をまとめていきました。
作品について
本人の振り返り
- これはどのような作品ですか?
- 興味のあることを調べる楽しさを、量子のふしぎな性質を通して知ってもらうための作品です。
- どうしてこの作品をつくりたかったのですか?
- 量子コンピューターの面白さを知ってほしかったからです。
- 作品づくりで楽しかったことは何ですか?
- 本によって、書いてあることに多くの差があることに驚きました。量子ビットは、1回しか振ることのできない、不思議なサイコロだという説明が、とても面白かったです。
- 作品づくりで難しかったことは何ですか?
- 量子のふるまいが、とてもややこしく、まとめるのが難しかったです。
- 作品作りを通して学んだことは何ですか?
- 道具は、どうやって使うのかがとても重要だということです。
- 次に活かしたいことや、気をつけたいことはありますか?
- もっと長い時間をかけて、もっと詳しく調べなければ、まとめる時、とても苦労することになります。
- 来年、研究したいことはありますか?
- シミュレーションについて研究したいです。
- この作品を読んでくれた人に一言
- 興味を持ったことを調べるのはとても面白いですよ。
生徒作品
『量子コンピューターの世界』(R・Nくん 新中2)
皆さんは量子コンピューターを知っていますか。量子コンピューターを一言でいうと、量子の性質を応用して動くコンピューターです。僕は、モノの仕組みを調べることが好きで、しくみがわかると、とてもわくわくします。これまでも、自動販売機や折り紙の性質を利用した医療器具について調べてきました。この楽しさを知ってほしくて、量子コンピューターのことを発表することにしました。
まずは量子とは何か説明します。量子とは、ものを形作る原子や、原子を構成する電子や陽子、中性子のことです。原子の大きさは約0.1ナノメートルほどですが、量子はそれよりもさらに小さく、正確な大きさはわかっていません。1ナノメートルは1メートルの10億分の1なので、0.1ナノメートルは1メートルの100億分の1の大きさです。
量子には、とても不思議な性質があります。その不思議さを実感できる実験として、「二重スリット実験」があります。この実験は、量子を、二つの並んだ隙間に向けて発射したとき、何が起こるのかを調べる実験です。
この実験を、量子ではなく、水面の波でやったとしましょう。すると、隙間を通った波は、干渉し、壁にしま模様があらわれます。
では、電子を一つずつ、連続して発射して、同じことをします。電子は粒子です。ということは、隙間の先に、二つの線が現れるはずです。しかし、結果はこの予想と全く異なります。電子を発射することを何度も繰り返すと、電子が当たった場所と、当たらなかった場所が、しま模様のように、交互に現れます。この結果は、水面の波で行った結果と、よく似ています。
なぜこの結果になるのか。それは、二つの隙間を通った電子が、水面の波のように、干渉したからであると予想されます。電子が干渉するには、二つの隙間を同時に通らなければいけません。しかし、電子が二つに分裂して同時に二つの隙間を通ることはできません。そこで、科学者は、「電子は、左の隙間を通った可能性と、右の隙間を通った可能性が、重ね合わさった状態になっていて、2つの波が干渉し、この結果になった」と考えました。つまり、電子は、波として広がり、さまざまな場所に存在する可能性を持ちながら進み、干渉する、ということです。
量子を、2本の隙間のちょうど真ん中から発射して、二重スリット実験を行うと、隙間を通り抜けた波の大きさは、どちらも同じになります。これは、左の隙間を通った可能性と、右の隙間を通った可能性が、同じ割合で重ね合わさったということです。
では、二つの可能性が重ね合わさってすぐの、干渉を起こす暇もないうちにスクリーンに当ててみましょう。右の隙間か左の隙間、どちらを通ったかは、同じ確率で重ね合わさっていますが、干渉せず、スクリーンの左か右に現れます。その確率は、重ね合わせの割合を反映して、50%ずつです。
では、量子を打ち出す位置を斜めにしたとします。すると、偏っているほうの隙間を通り抜けた波のほうが、大きくなります。波の大きさは、重ね合わせの割合を表すため、右に偏っていると、右の隙間を通った可能性のほうが、大きな割合で重ね合わされます。先ほどと同じように、干渉する前にスクリーンに当てると、重ね合わせの割合を反映し、右に当たる確率が高くなります。
量子コンピューターは、この性質を利用しています。重ね合わせ具合は、「波の大きさの比」と、「振動のタイミングのずれ」で決定します。波の大きさは、そこに存在する可能性と、二つの可能性を重ね合わせる割合に相当します。また、タイミングをずらすことで、干渉の仕方をコントロールします。
私達が使う普通のコンピューターは、ビットと呼ばれる情報の最小単位に1つの数字を対応させ、数字を入れ替えたり、反転させることで計算を行います。「そこの人、1の旗を揚げて、その奥にいる人は0の旗を揚げて」と指示を出しているような感じです。
量子コンピューターは量子ビットに0と1のパターンを対応させて計算を行います。このパターンは、重ね合わさって存在しているため、「0」「1」のどちらもを取りながら計算を行うことができます。重ね合わせの具合は、波であらわされています。音に例えると、さまざまな音が混ざりあった状態です。そして、最終的に「さまざまな音が混ざっている音に、別の音を干渉させるなどの操作をして、一つの音だけを取り出す」といった感じです。
量子コンピューターを使えばどんな計算も早くなると思われがちですが、それは一部の計算だけで、ほとんどの計算は、普通のコンピューターと同じくらいの速度だと考えられています。量子コンピューターは、量子力学に従うため、今のコンピューターで計算するのが難しい、電子のような、量子力学に従うもののふるまいを、効率よく計算することができます。たとえば、原子や分子の性質は、電子の運動によって決定します。電子のふるまいを再現できれば、分子の性質を、合成する前から知ることができます。量子コンピューターを使えば、いまのコンピューターを使って計算するよりも、効率よく、高い精度で再現できるようになると考えられています。それにより、薬の開発が今よりも早くなったり、解明されていない現象がなぜ起きるのかを説明できるようになったりするのではないかと期待されています。
今、実用化に向けた研究や、どう活用するかなどの研究が行われています。量子コンピューターには、良い面がたくさんありますが、一方で、兵器のような、人の命を奪うための道具の開発にも使うことができてしまいます。量子コンピューターはまだ実用化には至ってはいませんが、どのように使うべきなのか、考える必要があると思います。
ものの仕組みを考えて、調べることは、とても楽しいです。この楽しさをまだ知らない人は、頑張って探してみてください。
これで発表を終わります。聞いていただきありがとうございました。
- 藤井 啓祐(2019). 驚異の量子コンピュータ: 宇宙最強マシンへの挑戦 岩波書店
- 木村直之(編)(2020). Newtonライト2.0 13歳からわかる最強の物理学超入門 量子論 ニュートンプレス
- 髙嶋秀行(編)(2018). ゼロからわかる量子コンピューター ニュートン, 38(5), 24-37