リテラでは、生徒一人ひとりの興味・関心に基づいた学びの成果を、様々な方と分かち合う場として、年に一度、『生徒作品発表会』を開催しています。
2020年は新型コロナウィルスの影響により、教室での発表となりましたが、生徒たちは、発表会に向けた様々な準備を進めてまいりました。
今回は、新中3 T・Nさん『自分の癖を意識してみた。』を掲載致します。
Tさんは、指の皮をガジガジ噛んでしまう自分の癖を治そうと「癖」について研究を始めました。そして見えてきたのは、人間の意識の不思議でした。
作品について
本人の振り返り
- これはどのような作品ですか?
- 癖を通して自分と向き合おうとした作品です。
- どうしてこの作品をつくりたかったのですか?
- 癖を治したいからです。
- 作品づくりで楽しかったことは何ですか?
- 心理学について調べたことです。
- 作品づくりで難しかったことは何ですか?
- 自分の言いたいことを文章にすることです。
- 作品作りを通して学んだことは何ですか?
- もっと周りの人に優しくされたい自分がいたことが分かりました。
- 次に活かしたいことや、気をつけたいことはありますか?
- 発表の際、言い間違えない!
- 来年、研究したいことはありますか?
- 人体の再生能力について研究したいです。
- この作品を読んでくれた人に一言
- ありがとうございました。
生徒作品
新中3 T・Nさん『自分の癖を意識してみた。』
私には指の皮をガリガリしてしまう癖があります。そのことを、母から何度も注意されています。しかし、いまだに治らず、癖とは何なのか、いったいどうやったら治るのかと、気になったので研究しました。
まず、癖に関するアンケートを実施したので、その結果から紹介します。
回答者の男女比は、女子が約38%、男子が63%という結果になりました。アンケートで「癖がある」と答えた人が75%、「ない」と答えた人は25%で、全体の7割ほどの人が「ある」と答えました。さらに細かく見てみると、癖があるのは男子の割合の方が若干多いようでした。しかし、癖があるにもかかわらず、自らに癖がないと思っている人もいるようです。これは、アンケートに答えてもらった生徒さんをよく知るリテラの先生からの報告でわかったことです。つまり、癖があるかないかの有無でなく、癖を意識しているか、していないかで考える方が正しいようです。
癖の種類として一番多かったのが、口癖など「コミュニケーションに関るもの」、次いで、ささくれを剥くなど「自傷的なもの」、貧乏ゆすりや手いじりなど、「動作として現れるもの」がありました。
では、どういった時に癖が出るのでしょうか。アンケートの結果、ずば抜けて多かったのは、上手くいかず悩んでいる時や、緊張した時、嫌なことと向き合っている時など、ストレスを感じた時でした。このことから、癖は、ストレスを感じた時に出やすいことが分かります。
癖の有無について、朝食や睡眠などが関係しているのかもしれないと思い、アンケートを取りましたが、特に関係はなさそうでした。
また、これは、癖をどれだけ注意されるかというアンケートです。7割近くの人が「注意されない」と答えた一方、残りの3割ほどの人は「注意される」と答えました。「注意される」と答えた人の癖を見てみると「爪をかじる」や「鉛筆の持ち方」など、日常的に支障が出る可能性のあるものが多いということがわかりました。
癖のある人は「癖を治したい」と思っているのか聞いたところ、ちょうど半々でした。癖にもよりますが、治したいと答えた人は、注意されることが多い人や、癖のせいで何らかの支障が出る人でした。また、「実際に癖を直そうと試みましたか」というアンケートも、ちょうど半々でした。癖対策として「意識する」や「我慢する」といったものから、「癖に対抗する」「工夫を凝らす」人などがいました。
では、効果はあったのでしょうか。アンケートの結果を見てみると、6割ほどの人が「効果があった」と答えました。今回、癖を治したい理由についてアンケートをとっていないので、効果が出たものと出なかったものの違いは明確にはわからないのですが、「注意されたから治す」といった受動的動機のものは治りにくいのではないかと考えます。私の場合も右を向けと言われれば左を向く性格から、やめろと言われてもやめられるものではありませんでした。また、意識しているのにも関わらず、どうしても止められない場合もあるのかもしれません。
そうなると、果たして、どこからが癖で、どこからが本能なのか? 意識しているのか無意識なのか? そもそも意識とは何なのか? これに対しカリフォルニア大学の下條信輔教授は、そもそも意識というものはその定義すら明確に定まっておらず、何を明確にすれば意識を理解したと言えるのか、研究者の間でも合意がない。「意識」というものの捉え方として、「意識がある」という側面と、「意識を向ける」という側面がある。あるいは「無意識」という観点から、意識について語ることもできると言っています。
癖と意識について語る時に重要なのが、アンケートにもあるように、癖が出ている時にはストレスがかかっている状態ということです。人はストレスを感じると、「前頭前野」という意識を司る脳の部分の働きが弱くなってしまいます。「前頭前野」は大脳皮質の約1/3を占め、高度に進化した領域です。そこには、抽象的な思考に関わる神経回路があり、集中力を高めて作業に専念させる役割を果たします。また、精神の制御装置としての役割も担っており、状況にそぐわない思考や行動を抑制しています。この領域は、他の脳部位よりもゆっくりと成熟し、20代になってようやく完成します。そのため、子どもの時は、前頭葉の部分に関わる能力はまだ十分に発揮することができず、癖をやめることや気づくことが難しいのです。つまり、癖を治そうとしたとき、癖そのものと向き合うのではなく、ストレスの原因や和らげる方法はないかと考える方が有効なのです。
もう一つ、癖を指摘する側にも注意が必要です。人は自分が意識していないことで怒られると「なぜ覚えてないことで怒られなくてはいけないのか」と怒りの感情がこみ上げてきたり、反対に自信を失ったりと、さらにストレス状態を引き起こしてしまう恐れがあります。
では、癖を注意する際、どのようにすればいいでしょうか。まず、相手がストレスを受けて行動の抑制がうまくいってない状態であること、不安や緊張を鎮めようとしているのだと理解してください。そして、ストレスを上手にコントロールする方法をアドバイスするなど、責めるのではなく寄り添い、決して否定せずに考えることが大切になってきます。
今回の研究を通して、癖を治そうと焦らず、一度距離を置き、落ち着くことが大切だと考えました。癖について研究をして、全く興味のなかった脳や意識についての興味も湧き、今後も学んでいきたいと思うことができました。
これで、発表を終わります。ご清聴ありがとうございました。
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