イメージの力を育てるための3つの視点

イメージ力と学びの関係

イメージは学びの本質です。
教科を問わず、学習にイメージ力は欠かすことができません。
たとえば、算数・数学において、条件や数字、文章をイメージ化しなければ、問題の本質を捉えることはできません。
また、国語や作文など、文章を読んで情景を想像したり、自分の中の印象や思いを表現したりする際、イメージ力はその原動力となります。
さらに、社会や理科などにおいても、事実や現象を抽象化したり、他の知識の関連させて記憶したりする際に、イメージは大きな力を発揮します。

いわゆる「9歳の壁」と呼ばれるように、中学年以降、学習内容はどんどん抽象化し、目に見えるものから見えないものへ、関係の中で変化するものへと、考える対象が変わっていきます。
書かれていないテーマの読み取り、距離と速度と時間の計算、電気や磁力のふるまいなどを理解するためには、イメージ力が必要不可欠なものとなります。

イメージが苦手な理由

イメージは学びの本質です。しかし、イメージをするのが苦手な子もいます。
それには次のような理由が考えられます。

  • 集中力が続かない
  • 自分の内面に気づけない
  • イメージの材料となる知識や体験がない

今回は、そうした場合にできるサポートを考えていきます。

イメージ力を育てるサポート

1. 集中力を上げるには

イメージというのは、持続しないという特徴があります。意識的に維持しないと、すぐに消えてしまいます。
目の前に一つのりんごをイメージしたとしても、別のことを考えた瞬間、そのイメージはどこかへ行ってしまいます。
イメージしたものを角度を変えて見たり、触ってみたりと、イメージをコントロールするときにも、集中力が求められます。

集中力を育てるのは、簡単なことではありません。ただ一つのことに集中すればよいというわけではなく、自分の集中の状況を理解したり、違う対象に集中を切り替えたり、集中しながらも全体を意識したりすることは、認知の発達段階とも密接に関わっています。

講師と対話をしながら課題を進める生徒の様子

集中力をすぐに伸ばすのは難しくても、環境を整え、集中しやすくすることはできます。イメージの力が求められる作文や読解では、いかにリラックスできるかが重要な鍵を握ります。集中力には限りがあります。読めない・書けないことにプレッシャーを感じるような環境では、そうした現実への対処にリソースが割かれてしまい、さらに読めなく・書けなくなります。
安心できる環境をつくるには、周りにいる保護者や指導者の姿勢が重要です。読ませるのではなくともに楽しむ、書かせるのではなくともに考えるといった、サポーターとしての姿勢が重要になります。

教室では、20分集中したあとは5分休む、というサイクルで授業が進みます。

休憩と集中のメリハリをつけることも大切です。集中すればするほど、疲れがたまっていきます。いつ終わるかわからないとなると、なおさらです。タイマーを使って、20分勉強したら5分休むなど、適度な休憩をとり、体と心をリフレッシュさせながら進めていくことで、イメージに集中するエネルギーも持続しやすくなります。

メモを元に読書感想文の構想を練っている様子

また、イメージを図式化したり、メモをつくったりすることで、消えていくイメージを留めておくことができます。
特に算数・数学や作文などは、図やメモがなければうまく考えをまとめることはできません。
ことばのやりとりだけでなく、一緒に図やメモを作り、一緒にそれを眺めて、一緒に考えてあげることで、子どもたちはイメージを使って考えるプロセスを身につけることができます。

2. 自分の内面に気づくには

自分の内面に意識が向くようになるのは、小学校中学年以降です。
低学年の子は、自分がいまどんな気持ちなのか、どうしてそんな気持ちになっているのかを、うまく捉えられないことがあります。それは、自分と他者の違いがあいまいだったり、イメージをとらえることばや、手がかりとなる体験がまだ足りなかったりするためです。
中学年以降、「自分を見るもう一人の自分」ができてきます。しかし、まだまだ場面ごとに異なる自分がおり、一貫した人格を持つ「自分」という感覚ではありません。学校には学校の自分が、家には家の自分がいるのです。
そのため、過去のことを書こうとしたり、どんな場面にも共通する自分の心を捉えたりすることが、うまくできないことがあります。

生徒の話に耳を傾けることから、授業は始まります

こうした場合、子どもたちが自分の内面にアクセスできるようなサポートが必要になります。まずは、肯定と共感を大切にしながら、子どもの話に耳を傾けます。気持ちに寄り添い、理解しようと努めることで、子どもたちは、自らの内面について考えるようになります。まだことばになっていない気持ちやイメージを共有し、ことばに置き換えてあげることも、とても大切です。

授業で作成したミニジオラマ。作りながら、どんどんイメージの世界が広がっていきます。

また、ことばだけでなく、遊びや工作など、ことば以外の表現を共有することも、内面の理解を深めるよいきっかけとなります。自由に楽しく自分を表現する中で、新たな自分の内面に気づくこともあるのです。

3. イメージの源泉をつくるには

イメージには、その元となる現実の体験や知識が必要です。体験や知識がなければ、鮮明なイメージをつくることはできません。
イメージの源泉となる体験は、どこからくるのでしょうか。
私たちは日々生活する中で、たくさんの情報や物事にふれているはずですが、多くはただ通り過ぎていき、イメージとして蓄積するものは少ないと言えます。
重要なのは、質感です。
なぜなら、イメージとはまだことばになっていない心象であり、記号や情報ではないからです。
暮れていく空の色、木の幹の手ざわり、夕飯のにおい、窓ガラスの温度、遠くを走る電車の響きなど、五感を通して得た質感が、鮮明なイメージの源となります。

授業でひまわりの花を観察している様子。

また、直接体験をしなくても、読書や映画などで、自分とは異なる世界を追体験することもできます。氷河期の人類の暮らし、湿った沼に住む動物たち、まだ誰も見たことのない未来の街など、たくさんの作家やクリエイターが作り出した世界を通して、新たなイメージを獲得することができます。

直接的な体験にしろ、間接的な追体験にしろ、急いで通り過ぎるのではなく、そのイメージが子どもたちの内面で像を結ぶよう、ゆとりのある時間が求められます。

豊かなイメージをつくるための出発点

ここまで、イメージをつくるために、集中力を維持するサポートの方法、自分の内面に気づけるようにする接し方、また、イメージの源泉をつくる習慣について書いてきました。
子どもたちの内面にあるイメージは、目で見ることができません。そのため、私たちは、「イメージをつくる」過程を無視して、結果ばかりを求めてしまいがちです。

まずは子どもたちと同じものを見て、同じイメージを共有することから初めていただければと思います。

この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

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カテゴリー: 教育コラム

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