内容の紹介
1958年、北海道の森で、穴の中から一人の男性が見つかりました。その人の名は、劉連仁。中国から日本軍に連れ去られ、北海道の炭鉱から逃げ出して以来、実に13年もの間、厳しい自然の中を生き延びてきたのでした。劉連仁さんに何があったのか、彼が奪われたものは何だったのか、そして、生きる力はどこから生まれたのか。人が「生きる」とはどういうことなのかを、もう一度考えなおす機会となる一冊です。
読む前の下ごしらえ
考えてほしいこと
読む前に、次のことを考えてみましょう。
- あなたは、どんな時に「生きている」と感じますか。
- あなたは、北海道の山の中、道具も家もなく、たったひとりで何年も生き延びられると思いますか。
読む
読む時は、印象に残った場面や不思議に思った場面など、「心が動いたところ」にふせんを貼りながら読みましょう。書く時の材料になります。
また、できれば、家族や友だちと、同じ本を読んでみましょう。自分と違う感想や考え方を知ると、感想文の内容がより深いものになります。
準備する
気持ち
本を読んで感じた気持ちをことばにするのは、なかなか難しいものです。読み終わったら、次の「気持ちについて考えよう」シートを印刷して、感じた気持ちに丸をつけてみましょう。対話や作文の際のヒントになります。
体験
読書感想文では、本の内容と自分の体験を結びつけることが大切です。自分の体験が思いつかない場合は、このページの「考えるヒント」を参考にして、本のテーマについて誰かに聞いたり、調べたり、新しく何かをしてみたりするとよいでしょう。
考えるヒント
- 劉さんとその仲間は、北海道の厳しい環境の中、飢えと寒さに耐えました。
- あなたには、安全に生きるために必要な食べ物や環境がありますか。
- それは、誰が、どのように整えたものですか。住居・食べ物・衣服・健康・安全などについて、考えてみましょう。
- 劉さんを連れ去り、働かせた日本軍は、劉さんのことを一人の人間として見ていませんでした。
- あなたには、他者から一人の人間として尊重されているという意識はありますか。
- 誰かを無視したり、人間として接していないという事例は、学校やクラスなど、あなたの身の回りにありますか?
- 劉さんは、仲間と励まし合いながら冬を越しました。生きていくためには、互いに一人の人間として認め合える人間関係が必要です。
- あなたには、よい人間関係がありますか。
- 劉さんは、死ぬことができず、一人で生きることに決めました。
- 劉さんが戦争によって奪われたものは、何ですか。
- 劉さんの生きる力の源となったものは何だと思いますか。
- 「生きる」ことと「生き延びる」ことには違いがあります。
- あなたには、「生きがい」と呼べるものはありますか。
- あなたには、したいことがありますか。
- 今、それができていますか。
- あなたには、いつかこういう自分になりたいというイメージはありますか。
- そのイメージに近づいていると感じますか。
「だれかの目的(利益)のために、だれかが犠牲(生命・健康・希望・尊厳が犠牲)になっている構造」(204ページ)として、筆者は、非正規雇用労働者を挙げています。
- あなたが目にするニュースなどから、生きる尊厳・生きる意味を奪われる事例や事件が思いつきますか?
- あなたの学校やクラス、身の回りで、そうした事例はありますか。
- 私たちは、どんな時に、そうした構造を受け入れてしまう・作り上げてしまうのでしょうか。
- そうした構造にのみ込まれないよう、私たちは普段からどのようなことに気をつけるべきでしょうか。
- 一人の人間として様々なことを判断し、行動するためには、何が必要でしょうか。
保護者の方へ
上記の「考えるヒント」を参考に、対話をしながらアイデアを拡げてください。アイデアのメモをたくさん作り、並べ替えながら、感想文の構成を練りましょう。
読書感想文を通して考えてほしいテーマ
- 仲間
- 勇気
- 友情
- 家族
- 生き方
- 故郷
- 戦争
この本について
1944年、中国・山東省で生まれ育った劉連仁さんは、ある日突然、日本軍に連れ去られます。炭坑での過酷な労働に耐えかねて逃げ出し、1958年に発見されるまでの約13年間、北海道の厳しい自然を生き延びます。
本書を読んでまず感じるのが、劉さんの生きようとする意志の強さです。大切なものから引き離され、仲間を失ってなお、劉さんは生きようとします。現代の社会に生きる私たちは忘れがちですが、自然の中で一人で生きていくのは、困難なことです。それに加え、見つからないように、行動や食べ物も制限されます。その過酷さは、私たちの想像をはるかに超えるものだったでしょう。
厳しい自然の中を13年間を生き延びた劉さんですが、それは本来の劉さんの「生き方」ではありません。「生き延びる」ことと、人として「生きる」ことには、違いがあります。劉さんは、戦争によって、生きるために必要な人の尊厳を奪われました。尊厳とは、人と人とが、互いを個人として尊重することです。
私たちが「私」であり続けることは、当たり前のことではありません。強引に、あるいは、気がつかないうちに、自分自身の眼差しと心を奪われ、何か大きなものに取り込まれることがあり得ます。劉さんも、劉さんを捕えた兵士も、戦争に巻き込まれたすべての人々が、個人の尊厳を奪われ、人として「生きる」ことを奪われました。戦争は、国を問わず、膨大な人のそれぞれの家族、故郷、仕事、生き方、良心、夢、さまざまなものを呑み込み、ただ「生き延びる」ことを人々に強い、ついにはその生命すらも奪い去ります。
すべてを奪われた劉さんは、一度は死のうとしました。しかし、死ぬこともできず、それならばと、生き抜くことを決意します。寒さや飢えに耐え、恐怖に心を蝕まれながらも命をつなぐことができたのは、劉さんの心にあり続けた故郷への思い、そして生命そのものの力強さ故でしょう。
「生きる」とは、どういうことか。本書を通して、人の尊厳を踏みにじる戦争の罪深さと、それでもなお生きようとする人の命の力強さ、そして、今を生きる私たちの生き方について、思いを馳せていただきたいと思います。
合わせて読みたい
劉連仁さんの山中での生活を綴った長編詩「りゅうりぇんれんの物語」を含む詩集です。
構成について
構成にルールはありませんが、どう書いたらいいかわからない時は、次のことを参考にしてください。「誰に、何を伝えたいか」
- ことばは、他者に思いを伝えるためのものです。考えたことやメモを元に、書き始める前に、「誰に、何を伝えたいか」を考えましょう。「伝えたいこと」は、できるだけ一つにしぼりましょう。
- 誰に……例)家族、友人、先生
- 何を伝えたいか……例)本の面白さ、感動したところ、自分の想い
- 「伝えたいこと」をしぼることで、構成を立てやすくなります。
文章の構成
- 文章は、三つのパートに分かれることが多いようです(※三段落で書かなければならないという意味ではありません)。
- 【はじめ】
- この文章で「伝えたいこと」や、あらすじを、簡単に書きます。なお、あらすじの有無を学校から指定されることもあります。
- 【なか】
- 本に貼った付せんや、考えたこと、メモを元に、「伝えたいこと」をより詳しく書いていきます。
- 物語の内容と自分の体験を交えると、「伝えたいこと」の説得力が増し、生き生きとした作品に仕上がります。
- 物語で印象に残った場面や人物について書きましょう。また、それに対しどう感じたかを書きましょう。
- 関連する自分の体験を書きましょう。「いつ、どこで、誰が、どうした」から書き始めるとよいでしょう。
- 体験は、過去の思い出だけでなく、本を読んだ後に人に聞いたことや、調べたことでもよいでしょう。
- 体験の最後には、その体験を通して学んだこと・感じたことを、物語の内容と絡めながら書きましょう。
- 学んだことを実行するのはなぜ難しいのか、そのためにはどうすればよいのかといった、より現実に根ざした内容の段落を追加すると、深みが増します。
- 【おわり】
- 「伝えたいこと」をもう一度強調し、未来につながる決意や前向きなことばで締めます。