内容の紹介
熊本県の五木村に、尾形さん夫婦は、たった二人で住んでいます。ダムを作る計画が始まり、村のほかの人々は、先祖代々住み続けた村を離れることにしたのです。昔から村を見守り続けてきた「田口の大イチョウ」も枝を払われ、根を切られ、移動されることになりました。ところが、ある日、ダムの計画が中止になります。すっかり変わってしまった集落に、尾形さん夫婦は、今も住み続けています。
読む前の下ごしらえ
考えてほしいこと
読む前に、次のことを考えてみましょう。
- あなたは、自分の住み慣れたところを離れてくらしたことはありますか。
- 近所に住む人や学校の友だちと別れたり、なじみのある風景が見られなくなるとしたら、どんな気持ちになるでしょうか。
読む
読む時は、印象に残った場面や不思議に思った場面など、「心が動いたところ」にふせんを貼りながら読みましょう。書く時の材料になります。
また、できれば、家族や友だちと、同じ本を読んでみましょう。自分と違う感想や考え方を知ると、感想文の内容がより深いものになります。
準備する
気持ち
本を読んで感じた気持ちをことばにするのは、なかなか難しいものです。読み終わったら、次の「気持ちについて考えよう」シートを印刷して、感じた気持ちに丸をつけてみましょう。対話や作文の際のヒントになります。
体験
読書感想文では、本の内容と自分の体験を結びつけることが大切です。自分の体験が思いつかない場合は、このページの「考えるヒント」を参考にして、本のテーマについて誰かに聞いたり、調べたり、新しく何かをしてみたりするとよいでしょう。
合わせて知りたい
田口の大イチョウ
画像奥のイチョウの木が「田口の大イチョウ」です。
あたりを見回し、歩きまわってみましょう(Googleストリートビュー)。
五木村について
五木村について、調べてみましょう。
考えるヒント
大切な場所について
尾形さん夫婦にとって、五木村はとても大切な場所です。
- なぜ尾形さん夫婦にとって、五木村は大切な場所なのだと思いますか。
- あなたには、大切な場所はありますか。
- それは、どんな場所ですか。また、どうしてそこが大切なのですか。
- もしも、その場所がなくなってしまうとしたら、どんな気持ちになりますか。
伝統について
伝統とは、人々が古くから受けついできたもののことです。それは、織物や焼き物といった形のあるものもあれば、舞踊や音楽、祭りといった形のないものもあります。伝統は、その土地の環境や人のくらしと深くかかわっています。
- あなたの住んでいる町や村に、昔から伝わっている行事や仕事はありますか。
- あなたの住んでいる町や村に、昔から変わらない風景はありますか。
- ご家族にも聞いてみましょう。
- あなたの家や親戚に、ずっと伝わっている行事や仕事はありますか。
- あなたは、あなたのおじいさんおばあさん、お父さんやお母さんが大切にしてきたものがあったとしたら、あなたも同じように大切にしたいと思いますか。それとも、そうしたものにしばられずに自由に生きたいと思いますか。
- お墓参りやお祭りなど、昔から伝わっている行事がなくなってしまったら、あなたはどう思いますか。
ダムと意見について
ダム建設には、ダムになる地域の生活が壊される・流域の生態系が影響を受ける などのデメリットがあります。しかし、ダムには、川の氾濫を防ぐ・水不足を防ぐ・水力発電ができる などのメリットもあります。
ダムの建設には、たくさんの人のたくさんの思いがからまりあっており、正しい・正しくないと、簡単に言える問題ではありません。
- 誰かと意見が食い違ったことはありますか。それは、どんな時でしたか。
- 多数決で、自分の意見が通らなかったことはありますか。その時、どんなことを考えましたか。
- あなたは、様々な意見がある問題に直面した時、どんな考え方を大切にしたいですか。また、それはなぜですか。
保護者の方へ
上記の「考えるヒント」を参考に、対話をしながらアイデアを拡げてください。アイデアのメモをたくさん作り、並べ替えながら、感想文の構成を練りましょう。
読書感想文を通して考えてほしいテーマ
- 家族
- 暮らし
- 生き方
- 伝統
- 故郷
- 「みんな」と「じぶん」
- 大切な場所
この本について
五木村が水没することになるダム建設は、昭和38年から三年連続で発生した豪雨による、球磨川流域の大災害がきっかけとなっています。(「川辺川ダム建設事業」より)
この本では、治水という公共事業の一方で、先祖代々住み続けた村を離れなければならない人々の、営みの歴史や文化、自然環境に焦点が当てられます。
公益が、一部の人々のかけがえのない犠牲を引き換えにして成り立つことに、簡単には割り切ることのできない心の葛藤を感じざるを得ません。
ダム建設計画が中止となり、田口に二人きりでくらす尾形夫妻の思いを、あなたはどのように受け止めるでしょうか。また、このような問題について、他の人たちはどのような考えを持つと思いますか。ぜひ家族で話し合ってみてください。
構成について
構成にルールはありませんが、どう書いたらいいかわからない時は、次のことを参考にしてください。「誰に、何を伝えたいか」
- ことばは、他者に思いを伝えるためのものです。考えたことやメモを元に、書き始める前に、「誰に、何を伝えたいか」を考えましょう。「伝えたいこと」は、できるだけ一つにしぼりましょう。
- 誰に……例)家族、友人、先生
- 何を伝えたいか……例)本の面白さ、感動したところ、自分の想い
- 「伝えたいこと」をしぼることで、構成を立てやすくなります。
文章の構成
- 文章は、三つのパートに分かれることが多いようです(※三段落で書かなければならないという意味ではありません)。
- 【はじめ】
- この文章で「伝えたいこと」や、あらすじを、簡単に書きます。なお、あらすじの有無を学校から指定されることもあります。
- 【なか】
- 本に貼った付せんや、考えたこと、メモを元に、「伝えたいこと」をより詳しく書いていきます。
- 物語の内容と自分の体験を交えると、「伝えたいこと」の説得力が増し、生き生きとした作品に仕上がります。
- 物語で印象に残った場面や人物について書きましょう。また、それに対しどう感じたかを書きましょう。
- 関連する自分の体験を書きましょう。「いつ、どこで、誰が、どうした」から書き始めるとよいでしょう。
- 体験は、過去の思い出だけでなく、本を読んだ後に人に聞いたことや、調べたことでもよいでしょう。
- 体験の最後には、その体験を通して学んだこと・感じたことを、物語の内容と絡めながら書きましょう。
- 学んだことを実行するのはなぜ難しいのか、そのためにはどうすればよいのかといった、より現実に根ざした内容の段落を追加すると、深みが増します。
- 【おわり】
- 「伝えたいこと」をもう一度強調し、未来につながる決意や前向きなことばで締めます。