【2016年読書感想文特集】『シンドラーに救われた少年』レオン・レイソン(高校生向け課題図書)

シンドラーに救われた少年

内容の紹介

ポーランドの東にあるナフレカ村で、慎ましく穏やかに暮らしていたレイブ少年(のちの著者、レオン・レイソン氏)の一家の運命は、1939年、ドイツ軍のポーランド侵攻によって激変します。1933年にドイツ第一党となったナチスによるユダヤ人迫害政策のため、ユダヤ人は、略奪や暴力、虐殺の対象となったのです。レイブ少年は、家族と別れ、収容施設で強制労働に従事しながら、死と隣り合わせの少年時代を過ごします。その時、ナチス党員でありながら、レイブ少年や、迫害されるユダヤ人たち1300人もの命を救ったのが、オスカー・シンドラーでした。

読む前の下ごしらえ

考えてほしいこと

読む前に、次のことを考えてみましょう。

  • 人を差別した経験や差別された経験、または、差別を見た・聞いた経験はありますか。

読む

読む時は、印象に残った場面や不思議に思った場面など、「心が動いたところ」にふせんを貼りながら読みましょう。書く時の材料になります。
また、できれば、家族や友だちと、同じ本を読んでみましょう。自分と違う感想や考え方を知ると、感想文の内容がより深いものになります。

準備する

気持ち

本を読んで感じた気持ちをことばにするのは、なかなか難しいものです。読み終わったら、次の「気持ちについて考えよう」シートを印刷して、感じた気持ちに丸をつけてみましょう。対話や作文の際のヒントになります。

合わせて知りたい

当時の世界情勢

1940年ごろの世界情勢について、次の動画を見て確認しましょう。

ユダヤの人々を救った人

ナチスはたくさんのユダヤの人々の命を奪いましたが、逆に、たくさんのユダヤの人々の命を救った人もいます(日本の杉浦千畝もその一人です)。次に挙げるのは、そうした人々のごく一部です。調べてみましょう。

映画

『シンドラーのリスト』


自身の経営する工場に勤めるユダヤ人の命を救ったオスカー・シンドラーをモデルにした映画です。ホロコーストの残酷さと、当時を生きる人々の葛藤をリアルに描き出します。

『帰ってきたヒトラー』


ティムール・ヴェルメシュの風刺小説『帰ってきたヒトラー』(2012年 原題:Er ist wieder da 「彼が帰ってきた」)を元にした映画です。日本では2016年に公開されています。死んだはずのアドルフ・ヒトラーが現代のドイツに蘇ります。最初、人々は彼をものまね芸人だと思い、笑いの種にしますが、テレビやインターネットで広がっていく彼の弁舌と思想に、次第に心を奪われていきます。映画には移民問題や経済格差といった「現実」の問題が重ねられ、人々は、映画と知りながら、生の声をアドルフ・ヒトラーに投げかけるようになります。いるはずのないアドルフ・ヒトラーが、力強いビジョンを語るリーダーとして、人々の間で確たる地位を築き始めるーー。この映画は、狂気の時代が決して遠いものではないことを私たちに示唆します。

体験

読書感想文では、本の内容と自分の体験を結びつけることが大切です。自分の体験が思いつかない場合は、このページの「考えるヒント」を参考にして、本のテーマについて誰かに聞いたり、調べたり、新しく何かをしてみたりするとよいでしょう。

考えるヒント

戦争が生む差別や迫害について、あなたは、どのようなことを考えましたか。

  • レイブ少年の経験した差別や迫害について、あなたの心に残った内容を思い出してみましょう。
  • こうした差別や迫害がなぜ生まれるのだと思いますか。あなたなりに考えてみましょう。
  • ユダヤ人の歴史や宗教について、調べてみましょう。

レイソン氏は「英雄とは、最悪の状況の中で、最善をつくす、ごく普通の人」と述べています。

  • 「最悪の状況」「最善」「ごく普通」とは、この場合、どのような意味なのでしょうか。
  • 英雄がなぜ「普通の人」なのでしょうか。シンドラーをとりまく状況を思い出しながら、考えてみましょう。
  • もしあなたが「最悪の状況」に巻き込まれた場合、あなたは、「普通の人」でいられる自信はありますか。
参考「沈黙を破って:イスラエル元兵士たちの証言」:Breaking the Silence (1)


占領地で人々を虐げたのは、私たちと変わらない良心を持っていた、ごく普通の人々でした。モラルが忘れられ、暴力が日常的なものになっていく過程を、イスラエル軍の元兵士たちが、自ら告白します。

「お前たちは怪物か、とみんな思うでしょ。でも、僕はその原因を知っている。おととい銃の照準を合わせ、昨日は身分証明書を奪い、今日はジープから放り投げる。すべて堕落の中で起こったことなんだ」(「沈黙を破って:イスラエル元兵士たちの証言」:Breaking the Silence (3)

読書感想文を通して考えてほしいテーマ

  • 勇気
  • 宗教
  • 家族
  • 差別
  • 戦争
  • 歴史

この本について

この本を読むと、戦時下に生きた人々の過酷さに胸を痛めざるを得ないでしょう。そして、ユダヤ人への差別や迫害はなぜ生まれたのか、なぜホロコーストが引き起こされたのか、と問わずにはいられません。さまざまな疑問が読み手の胸に去来するはずです。こうした問いについて考えるためには、ぜひ関連する映像作品を鑑賞したり、図書を読んでみましょう。

現在、移民・難民問題やイギリスのEU離脱、世界的な不景気や格差の拡大、テロリズムなど、世界的な混乱が広がりつつあります。1920~30年代、ナチ党は、敗戦による莫大な賠償金と失業などの社会不安を背景に、急速に勢力を拡大しました。人々の不安や不満は、理性による解決ではなく、憎しみの対象を求めます。これは現代に生きる私たちも例外ではありません。

人の心は弱いものである、という前提に立って、日本や、世界のさまざまなところで問題となっている差別や迫害、あるいは、あなたの身近にある問題について考えてみましょう。

合わせて読みたい

『アンネの日記』


第二次世界大戦、ドイツ占領下のオランダ・アムステルダム。思春期の少女アンネ・フランクが、等身大のまなざしで、ユダヤ人狩りを避けて潜んだ隠れ家での生活を綴ります。

『夜と霧』


強制収容所に収容された著者は、恐怖と想像を絶する劣悪な環境の中、思索を深めていきます。人間の残酷さと偉大さが描かれる本書は、多くの人々に読み継がれています。

『ユダヤ人とドイツ』


ナチスによるユダヤ人への迫害は、なぜ発生したのか。その背景にある歴史を知りましょう。

構成について

構成にルールはありませんが、どう書いたらいいかわからない時は、次のことを参考にしてください。

「誰に、何を伝えたいか」

  • ことばは、他者に思いを伝えるためのものです。考えたことやメモを元に、書き始める前に、「誰に、何を伝えたいか」を考えましょう。「伝えたいこと」は、できるだけ一つにしぼりましょう。
    • 誰に……例)家族、友人、先生
    • 何を伝えたいか……例)本の面白さ、感動したところ、自分の想い
  • 「伝えたいこと」をしぼることで、構成を立てやすくなります。

文章の構成

  • 文章は、三つのパートに分かれることが多いようです(※三段落で書かなければならないという意味ではありません)。
  • 【はじめ】
    • この文章で「伝えたいこと」や、あらすじを、簡単に書きます。なお、あらすじの有無を学校から指定されることもあります。
  • 【なか】
    • 本に貼った付せんや、考えたこと、メモを元に、「伝えたいこと」をより詳しく書いていきます。
    • 物語の内容と自分の体験を交えると、「伝えたいこと」の説得力が増し、生き生きとした作品に仕上がります。
      • 物語で印象に残った場面や人物について書きましょう。また、それに対しどう感じたかを書きましょう。
      • 関連する自分の体験を書きましょう。「いつ、どこで、誰が、どうした」から書き始めるとよいでしょう。
      • 体験は、過去の思い出だけでなく、本を読んだ後に人に聞いたことや、調べたことでもよいでしょう。
      • 体験の最後には、その体験を通して学んだこと・感じたことを、物語の内容と絡めながら書きましょう。
    • 学んだことを実行するのはなぜ難しいのか、そのためにはどうすればよいのかといった、より現実に根ざした内容の段落を追加すると、深みが増します。
  • 【おわり】
    • 「伝えたいこと」をもう一度強調し、未来につながる決意や前向きなことばで締めます。
読書感想文の書き方・文例について、より詳しくは「テーマを考えてから書こう! ~読書感想文のコツ」をご覧ください。
この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

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カテゴリー: ブックレビュー

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