リテラでは、生徒一人ひとりの興味・関心に基づいた学びの成果を、様々な方と分かち合う場として、年に一度、『生徒作品発表会』を開催しています。
2020年は新型コロナウィルスの影響により、教室での発表となりましたが、生徒たちは、発表会に向けた様々な準備を進めてまいりました。
今回は、新中3 N・Hくん『陰謀論についての研究』を掲載致します。
「陰謀論を信じている人」に興味があるというN君。アンケートを取り、陰謀論を信じている人の傾向や、どのような陰謀論が信じられているのかを調べました。また、なぜ人は陰謀論を信じてしまうのかを考える中で、科学的・論理的な思考の大切さを改めて知ることができました。
作品について
本人の振り返り
- これはどのような作品ですか?
- 陰謀論を信じる理由と問題点についてです。
- どうしてこの作品をつくりたかったのですか?
- テレビで見て興味がありました。
- 作品づくりで楽しかったことは何ですか?
- バイアスについて本を読んで調べたことです。
- 作品づくりで難しかったことは何ですか?
- アンケートのデータを読み取ることです。
- 作品作りを通して学んだことは何ですか?
- 自分の考えを正しいと決めつけないことが大事だということです。
- 次に活かしたいことや、気をつけたいことはありますか?
- 発表の時に言い間違えないようにしたいです。
- この作品を読んでくれた人に一言
- ありがとうございます。
生徒作品
新中3 N・Hくん『陰謀論についての研究』
現在、新型コロナウイルスによって、社会が不安におちいっています。そんな中、人々の中には、新型コロナウイルスを、武漢から漏れ出した人工的なウイルスであると信じている人たちがいます。もちろん、こうした噂は、今のところ、確かな証拠がなく、単なるデマである可能性が高いと考えられます。このような、ある出来事が政府などの大きな組織によって仕組まれたり、隠蔽されているという説を「陰謀論」と言います。他にも、ケネディ大統領の暗殺は政府が仕組んだとか、電子マネーは時代の変化に適応できない人を淘汰しようとする企みであるなど、様々な陰謀論があります。
僕も、テレビやインターネットで、よくこのような陰謀論を目にします。僕は、陰謀論は信じていませんが、陰謀論を信じている人に、興味があります。そこで、今回の研究では、こうした陰謀論と人の心について調べてみました。
まず、陰謀論を信じる人はどれだけいるか、また、どのような人が多く信じている傾向があるかを調べるために、アンケートを作成しました。アンケートには、9歳から57歳まで、35人が回答してくれました。男女比は、だいたい半々でした。
初めに、陰謀論に対する興味や信用度と年齢の関係について調べました。最初、僕は、年齢が低い方が興味や信用度が高いと予想していました。なぜなら、年齢が低い方が、テレビなどを見て怖がっているイメージがあったからです。これが、実際に年代と興味・信用度の関係をまとめたグラフです。意外だったのは、年長の方の方が、陰謀論に対しての興味・信用度が高かったことです。このような結果が出たのは、陰謀論が国家など社会に関するものが多いためだと考えました。陰謀論は、政府や国際関係などに興味がない若い世代より、社会経験の多い年長の方の興味を引くのではないかと思います。
次に、陰謀論をどのように知ったかという質問に対する回答では、テレビ・インターネット・本が上位を占めていました。上位のインターネット・本・テレビについて、年代別に見てみます。20代以下は、インターネットとテレビ、30代は本で、陰謀論を知ることが多いようです。40代は偏りはありませんが、複数の情報源から知ることは少ないようでした。
それでは、どのような陰謀論を皆、信じているのでしょうか。代表的な陰謀論から、信じているものを選んでもらいました。「第二次世界対戦の歴史の嘘が混じっている」と「ケネディ大統領暗殺事件には他に犯人がいる」という陰謀論が、多くの人に信じられていました。宇宙人や予言など、非現実的な、ファンタジー要素が強い話よりも、歴史や、実際に起きた事件など、現実的な陰謀論の方が信じられていると言えます。
陰謀論には、良いところと悪いところがあります。陰謀論のいいところは、物事の新しい捉え方を提供してくれるところです。一方、悪いところは、陰謀論をもとにしたデマによって、人々が混乱してしまうことがあることです。また、差別や迫害にもつながります。ハンス・ロスリングさんは、『FACT FULLNESS』の中で、私たちには、問題を引き起こした犯人を見つけたいという本能があり、そのせいで個人や集団に実際より影響力があると勘違いをしてしまうことがあると述べています。そして、誰か責める相手を見つけたら、その問題についてそれ以上考えようとしなくなってしまいます。そのため、犯人探しは、問題の解決につながりません。問題を解決するためには、犯人よりも、問題を引き起こしたシステムを見直すことが大切だと言えます。
また、確証バイアスと呼ばれる私たちの考え方の偏りも、陰謀論を信じてしまうことにつながっています。突然ですが、これは一般的な血液型による性格診断です。A型の長所は感受性が強いことや、要領がいいことです。B型の長所はおおらかで小さなことに悩まないことです。O型の長所は、几帳面なこと真面目なことで、AB型の長所は、好奇心旺盛なことです。当たっていると思う方も多いと思います。しかし、実はこれは、内容入れ替えたものです。元のサイトには、こう書いてありました。血液型診断を信じている人は、当てはまる特徴だけを取り上げて、診断が正しいと思い込んでしまうのです。そうでない行動は、血液型に結びつけて考えることがありません。このような感じ方・考え方の偏りを、「バイアス」と言います。「確証バイアス」は、自分の持っている仮説にとって都合のいい証拠ばかりを重要視し、都合の悪い証拠は無視してしまうという見方の歪みのことです。陰謀論を信じている人は、自分の考えが正しいことを期待しているため、都合の悪い情報を無視して、実際にはない因果関係を見出してしまったり、些細な事実を過度に重要視してしまうのです。
こうした歪みを現在のインターネットが助長しているという指摘もあります。現在、インターネットでは、ユーザーの関心がある分野をアルゴリズムによって解析し、ニュースやオススメ商品など、その人に合った情報を提示する仕組みがあります。これは、自分の考えと合致する情報ばかりが集まり、そうでない情報は目に触れないということを意味します。その結果、私たちは、新しい考えに出会うことができず、自分の考えをより強めてしまうのです。そして、考え方が偏っていることにすら気づかなくなってしまいます。
この研究を通して、楽しむぶんには、陰謀論は魅力的だけれど、信じきってしまうと混乱の原因となってしまうことを学びました。自分の考えや思考を客観視するのは難しいけれど、感情や願望をいったん抑え、科学的・客観的なものの見方を心がけていきたいです。そのために、正しい知識や、論理的な思考力を身につけていきたいです。
これで、発表を終わります。聞いてくださって、ありがとうございました。
参考文献— (リンクはAmazonのアフィリエイトリンクです)
『FACT FULLNESS』(日経BP)
ハンス・ロスリング (著), オーラ・ロスリング (著), アンナ・ロスリング・ロンランド (著), 上杉 周作 (訳), 関 美和(訳)
『科学技術をよく考える ―クリティカルシンキング練習帳― 』(名古屋大学出版会)
伊勢田 哲治 (編集), 戸田山 和久 (編集), 調 麻佐志 (編集), 村上 祐子 (編集)