【2015読書感想文特集】『希望の海へ』(高校生向け課題図書)

希望の海へ

それぞれの課題図書の紹介と考えるポイント、声がけのヒントなど、読書感想文に役立つ情報を、順次公開しています。

内容の紹介

第二次世界大戦後のイギリスで戦争孤児となった幼いアーサーは、「児童移民」としてオーストラリアに送られ、引き取られた先の農園の「養父」から過酷な仕打ちを受けます。しかし、イギリスに帰るという夢を諦めなかったアーサーは、良き人々との出会いから生きるすべを学び、青年へと成長していきます。

読む前の下ごしらえ

考えてほしいこと

読む前に、次のことを考えてみましょう。

  • あなたにとって「海」とはどのようなものですか? 様々な海の風景を思い浮かべ、その時の気持ちを想像してみましょう。
  • 第二次世界大戦後、イギリスの戦争孤児たちをオーストラリアに送る「児童移民政策」が取り決められ、一万人を数える10歳に満たない子どもたちがその対象となりました。「児童移民政策」を調べて、その意図や問題の背景を調べてみましょう。
参考メディア

児童移民について書かれたノンフィクションです。イギリスのソーシャル・ワーカー、マーガレット・ハンフリーズは、ある日、自分の母親を探しているという女性と出会います。以来、彼女は、歴史の闇に置き去りにされていた「児童移民」という大きな問題に光をあて、被害者たちの訴えに耳を傾け続けました。

  • 映画『太陽とオレンジ』

上記『からのゆりかご―大英帝国の迷い子たち』を基に作成された映画です。まともな食事も与えられずつらい労働を課せられた、親の知らないうちにオーストラリアに送られた、性的虐待を受けた……。マーガレットは、脅迫に耐え、自らも精神的な傷を負いながら、被害者の訴えを聞き、ばらばらになった家族を結び合わせようとします。派手なアクションはありませんが、せりふや表情の一つひとつが、胸をうちます。

1987年、マーガレット・ハンフリーズが設立した、児童移民の家族を探すための基金のWebサイト(英語)です。児童移民の歴史は「Child Migration History(児童移民の歴史)」に記載されています。

読んだ後に

読み終わったら、次のことを考え、書いてみましょう。

考えるヒント

  • 史実に基づいた作品は、その時代背景を知ることで、作者の主張をより深く理解することができます。主人公の幼いアーサーは、苗字も年齢も曖昧で、家族の記憶すらおぼろげな幼少期からずっと「自分は何者なのか」ということに悩み続けます。過酷な労働、仲間との悲しい別れの中で、アーサーが希望を持ち続けられたのは、イギリスを離れる時、お姉さんから渡された「幸運の鍵」の存在でした。アーサーにとって、「幸運の鍵」やお姉さんの存在とはどういうものだったのでしょうか。また、第二章のアーサーの娘、アリーの航海に寄り添い続けた「アホウドリ」の存在についても同じように考えてみましょう。

保護者の方へ

上記の「考えるヒント」を参考に、対話をしながらアイデアを拡げてください。アイデアのメモをたくさん作り、並べ替えながら、感想文の構成を練りましょう。

第一部のアーサーの人生は、まさに航海そのものです。お姉さんを探したいという思いと、舟に携わる人々との良き出会いが、彼に幾度のなく訪れる困難を乗り越える力を与えてくれました。過酷な少年時代から抜け出すきっかけを与えてくれたメグおばさん。アーサーは、孤独な青年時代へて、良き理解者となるジータと出会い、家庭を築きます。愛情あふれる人々との出会いは、苦難の人生を送るアーサーに、安堵と幸福を与えてくれます。

第二部のアリーのイギリスへの単独航海も困難を極めます。しかし、父から受け継いだ夢をかなえたいという熱い思いと、父と共に培ってきた知識と技術が彼女の支えとなります。

幼い少年が苦難を乗り越え幸せになる姿、そして、次の世代に受け継がれる家族への思い。悲しい史実に基づいて書かれた作品ですが、「希望の海へ」というタイトルのように、歴史を背負って生きていく私達に希望を与えてくれる物語です。

読書感想文を通して考えてほしいテーマ

  • 歴史の担い手となること

構成について

構成にルールはありませんが、どう書いたらいいかわからない時は、次のことを参考にしてください。

「誰に、何を伝えたいか」

  • ことばは、他者に思いを伝えるためのものです。考えたことやメモを元に、書き始める前に、「誰に、何を伝えたいか」を考えましょう。「伝えたいこと」は、できるだけ一つにしぼりましょう。
    • 誰に……例)家族、友人、先生
    • 何を伝えたいか……例)本の面白さ、感動したところ、自分の想い
  • 「伝えたいこと」をしぼることで、構成を立てやすくなります。

文章の構成

  • 文章は、三つのパートに分かれることが多いようです(※三段落で書かなければならないという意味ではありません)。
  • 【はじめ】
    • この文章で「伝えたいこと」や、あらすじを、簡単に書きます。なお、あらすじの有無を学校から指定されることもあります。
  • 【なか】
    • 本に貼った付せんや、考えたこと、メモを元に、「伝えたいこと」をより詳しく書いていきます。
    • 物語の内容と自分の体験を交えると、「伝えたいこと」の説得力が増し、生き生きとした作品に仕上がります。
      • 物語で印象に残った場面や人物について書きましょう。また、それに対しどう感じたかを書きましょう。
      • 関連する自分の体験を書きましょう。「いつ、どこで、誰が、どうした」から書き始めるとよいでしょう。
      • 体験は、過去の思い出だけでなく、本を読んだ後に人に聞いたことや、調べたことでもよいでしょう。
      • 体験の最後には、その体験を通して学んだこと・感じたことを、物語の内容と絡めながら書きましょう。
    • 学んだことを実行するのはなぜ難しいのか、そのためにはどうすればよいのかといった、より現実に根ざした内容の段落を追加すると、深みが増します。
  • 【おわり】
    • 「伝えたいこと」をもう一度強調し、未来につながる決意や前向きなことばで締めます。
読書感想文の書き方・文例について、より詳しくは「テーマを考えてから書こう! ~読書感想文のコツ」をご覧ください。
この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

タグ:
カテゴリー: ブックレビュー

リテラ言語技術教室について

menu_litera