それぞれの課題図書の紹介と考えるポイント、声がけのヒントなど、読書感想文に役立つ情報を、順次公開しています。
内容の紹介
ルワンダの内戦から逃れ、イギリスにやってきたクリストフ。学校にも慣れてきますが、本を読むのはどうしても好きになれません。おじいちゃんのバビが言った「お話は本に閉じこめてはいけない」という言葉を信じているからです。やがて、クリストフは、内戦を逃れ、イギリスにやってくるまでのできごとを、クラスのみんなに話すことになります。
読む前の下ごしらえ
考えてほしいこと
読む前に、次のことを考えてみましょう。
- 「戦争」について、どんなことを知っていますか?
- 「戦争」や人の争いはなぜ起こるのでしょうか。考えてみましょう。
読んだ後に
読み終わったら、次のことを考え、書いてみましょう。
考えるヒント
- クリストフの話を読んで、あなたはどんなことを感じましたか? 思ったことや、疑問に感じたことなどを、くわしく書いてみましょう。
- クリストフの話が文字にされ、本になったことは、いいことだと思いますか? また、それはなぜでしょうか。
- みんなの前で語ることは、クリストフにとってどのような意味があったと思いますか?
- 戦争や争い、あるいはいじめや差別をなくすために、あなたはどのような人になりたいですか?
保護者の方へ
上記の「考えるヒント」を参考に、対話をしながらアイデアを拡げてください。アイデアのメモをたくさん作り、並べ替えながら、感想文の構成を練りましょう。
あとがきにもあるように、ルワンダでは1940年から紛争が起き、末期の1994年には、およそ50万人から100万人が犠牲になったと言われる大量虐殺が発生しました。主人公クリストフとその家族はイギリスに逃れてきますが、悲しみや恐怖で深く傷ついた心は、まだ癒えていません。
クリストフは、新しい学校で、差別的ないじめに遭います。クリストフがした仕返しについて、お父さんは、否定もしなければ、肯定もしません。クリストフのいじめを通して、国を襲った差別や迫害は、どこへ行っても起こるものだと、やるせない思いを抱いていたのでしょう。
学校になじんでいくクリストフですが、自分の体験を文字にすることを嫌がります。そこには、祖国においてきたバビの教えを裏切りたくないという思いと、心の整理がつかないまま、自分の体験を文字に「閉じこめてしまう」ことへの抵抗があるのだと考えられます。
ただし、クラスメイトの前で自分の体と声で語る時、クリストフは、戦争の悲惨さを伝える使命感ではなく、純粋に表現者としての喜びを感じ、どう演出すればよいかを考えていることに注意しましょう。彼は、当事者であると同時に、バビと同じ「表現者」なのです。それゆえ、自分の体験や感情を客観的にとらえているのですが、それは、恐ろしい体験や悲しみを乗り越えるために必要なことでもあったのかもしれません。その上で、彼は、言葉を文字にすることに同意します。ここにも「聞いてもらう人は多ければ多いほどいい」という、表現者としての素直な思いがあり、同時に、自分の体験が「語られるもの」として、自分を離れた瞬間でもありました。
クリストフの「お話」は、本になり、多くの人に伝わります。同時に、文字になったことで、クリストフが語った時のような表現の熱は、少なからず失われることになります。ただ文字を読むだけでは、前半のクリストフのように、本に何の意味も見出せません。書かれていることを追体験し、想像の世界を広げること、すなわち、「閉じ込められたお話」を頭の中でもう一度解放することが「読む」ことであり、やがて、世界を変える力になっていくはずです。
読書感想文を通して考えてほしいテーマ
- 戦争と差別
- 表現の力
声がけのヒント
子どもたちにとって、物語の背景となっている紛争などは、イメージしにくいと思います。世界平和などを感想文の主なテーマにすると、実感のない薄い内容になりがちです。それよりは、クリストフの話を聞いて感じたこと、思ったことを、素直にことばにしたほうがよいと思われます。もし、活字では想像しにくいようでしたら、クリストフやフィンチ先生がしたように、読んで聞かせてあげてください。その上で、争いをなくすために「自分」はどうあるべきかを考えましょう。身近なけんかやいじめを例に考えてもよいと思います。
今年の読書感想文課題本で、戦争を扱ったものとしては、『パオズになったおひなさま』があります。こちらは、第二次世界大戦末期の大連を舞台に、心を通わせる日本と中国の少女が描かれます。リテラでは『【2015読書感想文特集】『パオズになったおひなさま』(中学年向け課題図書)』で紹介しています。
構成について
構成にルールはありませんが、どう書いたらいいかわからない時は、次のことを参考にしてください。「誰に、何を伝えたいか」
- ことばは、他者に思いを伝えるためのものです。考えたことやメモを元に、書き始める前に、「誰に、何を伝えたいか」を考えましょう。「伝えたいこと」は、できるだけ一つにしぼりましょう。
- 誰に……例)家族、友人、先生
- 何を伝えたいか……例)本の面白さ、感動したところ、自分の想い
- 「伝えたいこと」をしぼることで、構成を立てやすくなります。
文章の構成
- 文章は、三つのパートに分かれることが多いようです(※三段落で書かなければならないという意味ではありません)。
- 【はじめ】
- この文章で「伝えたいこと」や、あらすじを、簡単に書きます。なお、あらすじの有無を学校から指定されることもあります。
- 【なか】
- 本に貼った付せんや、考えたこと、メモを元に、「伝えたいこと」をより詳しく書いていきます。
- 物語の内容と自分の体験を交えると、「伝えたいこと」の説得力が増し、生き生きとした作品に仕上がります。
- 物語で印象に残った場面や人物について書きましょう。また、それに対しどう感じたかを書きましょう。
- 関連する自分の体験を書きましょう。「いつ、どこで、誰が、どうした」から書き始めるとよいでしょう。
- 体験は、過去の思い出だけでなく、本を読んだ後に人に聞いたことや、調べたことでもよいでしょう。
- 体験の最後には、その体験を通して学んだこと・感じたことを、物語の内容と絡めながら書きましょう。
- 学んだことを実行するのはなぜ難しいのか、そのためにはどうすればよいのかといった、より現実に根ざした内容の段落を追加すると、深みが増します。
- 【おわり】
- 「伝えたいこと」をもう一度強調し、未来につながる決意や前向きなことばで締めます。