意味のある学びを
中学1年生のO君は、どちらかと言えば、作文が好きではありませんでした。当初、作文というものについて、苦手意識を抱いていました。
そんなO君が好きなことは、国際関係のニュースを読むことです。現在の国際関係について豊富な知識を持ち、中でも、軍事についての知識は大人顔負けでした。
教室のプロジェクトでは、基本的に、その子の興味や指向に合った題材が設定されます()。国際関係や軍事に関係する題材となったのも、自然な流れでした。
教育において、軍事を題材にするということに、抵抗がある方もいるかもしれません。軍事という題材は、戦争にまつわる様々なことを含みます。人の命に関わることですから、軽はずみに扱うことはできません。だからといって、現在の国際関係、そして、これからO君たち若い人が生きていく未来の国際関係から、目を背けることはできません。平和は、当たり前にあるものではなく、作り続けなければならないのです。
今回、このプロジェクトを進めていく最中にも、日本と諸外国に関する様々な報道や、政権の交代がありました。O君ともたくさんのことを話しましたが、揺れ動く国際社会の中、日本がどのように国を守り、平和を維持していくか、そうした大局的な視点から物事を考えていることがよくわかりました。
レポートを書くに当たっては、まず、資料を集め、自分の意見を決めました。そして、さらに資料を補強しながら、全体の構成を練りました。講師とのディスカッションも何度も行いました。そうして準備をしてから取りかかったわけですが、このレポートを書いている時のO君は、物言わず、こちらの指示も仰がず、黙々と机に向かい続けました。作文は苦手だとこぼしていたO君とは、姿勢も顔つきも違いました。意見の誘導は、いっさいしていません。それは、自分にとって意味のあることを、自分の判断において進めている姿でした。
自分にとって意味を見いだせる学びは、その子本来の集中力や技術を引き出すことになります。まだまだ課題はあります。しかし、人にとって、克服するべき課題がなくなることなどあり得ません。努力することに意味を見出し、「自分で乗り越えていこう」とする姿勢を身につけることが、何よりも重要なのです。
なお、時事・軍事という題材の性質上、資料・データが十分な形で揃っているとは言えませんでした。また、表現において、資料からの「切り貼り」になっていると見受けられる箇所もあります。より精度の高い文献を読み、総合的な知見を得ていく演習を、今後積んでいくことになります。
作品紹介
確認事項
作品
『次期戦闘機FX(Fighter-eXperimental)におけるユーロファイターの優位性について』
中1・O君
【序論】
FXとは、次期戦闘機(Fighter-eXperimental)の略だ。航空自衛隊は2011年3月末現在、F15(202機)、F2(92機)、F4(67機)の三種類の戦闘機を配備している。このうち、1973年から配備しているF4が老巧化し、後継機の導入を計画している。
FXの候補
FXの候補には、ボーイング社のFA18、米ロッキード・マーチン社製のF35、英BAEシステムズ社のユーロファイターの三機種がある。
ユーロファイター 全長、14,9m 全幅、11,0m 全高、5,3m 自重、10,995t 最大速度、M2,0 乗員、1~2名 |
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F35A 全長、15,07m 全幅、10,07m 全高、4,60m 自重、12,426t 最大速度、M1,7 乗員、1名 |
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FA18 全長、17,07m 全幅、11,43m全高、4,66m 自重、10,81t 最大速度、M1,8 乗員、1~2名 |
この中で、航空自衛隊は、ステルス性を備えた最新鋭の〈第5世代機〉として最有力とされるF35を導入するようだ。
しかし、自分は、F35よりユーロファイターの方が良いと思う。なぜなら、戦闘能力にすぐれており、生産・開発コストも安く済むからだ。
【本論】
性能
ユーロファイターの性能は、他の2機種と比べ高い。
まず、パイロットの負担が少ない。ユーロファイターのコックピットは、飛行中、デジタルコンピュータによる常時制御がなされており、パイロットの命令に従って安全な飛行姿勢が維持できる範囲で最適化され、超音速飛行時だけでなく、低速時も安定性が確保される。
次に、兵装能力が高い。ユーロファイターのハードポイント(武器の搭載数)は13箇所、FA18は11箇所、F35Aは10箇所(ステルス時は4箇所)と、ユーロファイターは、他の2機と比べ兵装能力が高い。
最後に、加速性能が高い。ユーロファイターは世界で初めてアフターバーナー無しのスーパークルーズ(超音速による長時間巡航)が可能な戦闘機であり、これにより、日本の広い領空でのスクランブルに即応できる。また、旋回性能や加速性能はF35を凌ぐ。
相互運用性
ユーロファイターと日本が使用している兵器とのシステムの連携には問題は無い。欧州機のユーロファイターには、当初、米軍機との共同運用に不安の声があったが、2008年5~6月にネバタ州ネリス空軍基地で行われた共同演習〈グリーンフラッグウェスト〉に参加し、アメリカ空軍やアメリカ陸軍地上部隊との共同作戦をこなしていることから、BAEシステムズ社は、タイフーンのアメリカ軍兵器システムとの相互運用性について問題はないとしている。一部メデイアでは、タイフーンはアメリカ軍との共同作戦が難しいといった誤った報道をしているが、ユーロファイターは、MIDS(多機能情報伝達システム)端末を搭載している。これにより、イージス艦、地上部隊との効率的な総合作戦が可能となるのである。
生産許可、独自改良許可
ユーロファイターの生産は日本の航空産業に良い影響をもたらす。英BAEシステムズは、三菱重工に対してライセンス権の供与を認めている。その他、アビオ二クス(飛行のために使用する電子機器)を初めとする、日本製電子機類への換装や、日本製誘導弾搭載のための改良の許諾を与える方針を打ち出している。機密保持を前提とした軍用機の技術が公開されることで、日本の航空業界が活性化する。なお、F35を売り込んでいるロッキード幹部も機体の一部の日本生産を認める〈特例〉を設けている。しかし、F35は機密保持のため一部生産しか出来ないので、〈日本人の手で、日本のために製造できる〉とは言えない。
その上、ユーロファイターの機体は各段階に分けて各地で生産されているので、一つのメーカーにかかる負担が少なくて済む。このような欧州の戦闘機を選定することにより、欧州の高い航空技術を学び、そこから、日本独自の戦闘機が作れる。
コスト
ユーロファイターは性能が高い割に購入費が安い。ユーロファイターは、一機35億円である。航空自衛隊は一機あたりの購入予算を百数十億円と見ている。これは、ユーロファイター三機分にもなる。F35は一機150億円と、ユーロファイターの4倍の価格である。戦力とは総合的な力である。つまり、戦闘機や武器の総数による。従って、一機あたりの購入費は安い方が良い。
予想される反論
防衛省は、F35を総合的に優れているとして、選定している。しかし、F35は戦闘能力と開発期間でユーロファイターより劣っている。
確かに、ステルス性ではF35の方が高い。しかし、豪州の外事・武器・貿易同委員会がF35とロシアのSU35sによる空中戦のシミュレーションを行ったところ、F35はSU35sに太刀打ち出来ないという結果となり、豪州空軍はF35を調達するべきではないという結論を出した。それに比べ、ユーロファイターは、1機撃墜されるまでにSU35sを4、5機撃墜できるとイギリスのDERAが発表した。つまり、ステルス性が高いだけでは空中戦を制することができないのだ。
また、航空自衛隊は、2015年度までに次期戦闘機を配備しようとしているが、F35は、開発の遅れが指摘されており、米軍の初期作戦能力獲得予定は2017年の後半になっている。それに比べ、ユーロファイターは準備ができ次第導入可能であり、日本の広い領空をカバーできる。これにより、周辺国空軍機による領空侵入が起きても即応できる。
【結論】
ユーロファイターは他の候補よりも、性能、戦闘能力、開発体制やコストで優れている。現在では、戦闘能力が高く、コストパフォーマンスが優れている兵器が求められている。これを満たしているのがユーロファイターであり、財政難の日本でも導入できる。
このことから、自分はユーロファイターを導入するべきだと思う。
【参考】
- Wikipeda
- 「Eurofighter Typhoon」
- 『自衛隊・新世代兵器PERFECTBOOK 2035年兵器カタログ』 (別冊宝島)