【プロジェクト】物語を作ろう!

storyリテラでは、「物語をつくろう!」という作品制作のプロジェクトに取り組んでいます。今回はその取り組みの目的について紹介します。

物語を作る目的を一言で言えば、「作家の視点を獲得する」ということです。とはいえ、私たちの教室は将来の小説家を育てる文芸教室というわけではありません。

作家の視点を得ることは、子どもたちの成長において重要な役割を果たすのです。

作者の視点が主題の理解を可能にする

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主題とは、その作品から読み取れる中心的な内容や意味のことです。

主題の理解は、子どもたちの成長においてとても重要です。なぜなら、それは書かれた内容の「意味」を問う視点だからです。たとえば、日々報道されるニュースについても、それらを単独の事実としてとらえるだけではなく、過去の出来事や国際的な出来事と関連づけながらとらえることで、その一つのニュースだけでは見えてこない視点が浮かび上がることがあります。

物語の主題、すなわち意味レベルでの理解も同様です。物語を出来事の連なりととらえるだけでは、その物語を「理解する」ためには不十分なのです。

物語の主題を問うことは、子どもたちの思考の段階をより高いレベルへと導きます。物語全体を俯瞰する視点を得ることができるのです。全体をとらえるということは、全体の「つくり=構造」を理解することでもあります。たとえば、ボールペン一つとっても、目的に合わせた「つくり」をしています。「意味・目的」と「つくり」は密接に関係しているのです。

子どもたちは、物語を書く下準備の段階で「誰に向けて書くか」「その物語を通して伝えたいことは何か」「どれくらい書くか」ということを考えます。

こうした視点の元に書くことで、「物語の主題」について考えたり「作者が物語に込めた思い」について考えたりするという発想が自然なものとして受け入られるようになるのです。

メタ的な読み方へ

作者の視点を獲得すると、読書の仕方にも変化が見られます。それまで物語世界に没入するだけだった生徒も、「この本は、どんな書き出しで始まっているんだろう?」とか「物語の中にどんな出来事がいくつあるんだろう?」といった、物語の作られ方にも注目することができるようになります。

つまり、自らも一人の小さな作家として、他の作品を分析したり評価したりする視点が育っていくのです。言い換えれば、よりメタ的な読み方が可能になるといえます。

主題 × 作者の意図 × 出題者の意図

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従来の日本の国語教育では、この意味レベルでの作品の理解へ導くために「この時の作者の考えを答えなさい」というような問いかけがされてきました。

ところが、国語が嫌いな子から、国語が嫌いな理由として「作者が何を考えるかなんてわからないから」という声を度々耳にします。そうした子の言葉には、怒りさえ含まれていることがあります。

実はそうした子の言葉にも一理あるのです。作者が何を意図して書いたかなんて、本当のところ作者に聞いてみなければわかりませんし、作者にだって出題者が考えた意図なんて想定していない場合だってあるのです。小説家の山田詠美さんも、センター試験に出題された自分の文章に対して、自らの意図と異なる見解が解答とされていたそうです。つまり、試験においては作者の意図というよりも、出題者の意図を正確に読み取ることが重要なのです。

国語嫌いな子の多くは、こうした多くの視点が存在していることを知らずに、自らの読みと、作者の意図・出題者の意図の間でひきさかれています。

試験問題を解くことが目的ならば、出題者の意図を理解することが重要でしょう。(参考リンク: 【受験と向き合う】 現代文 長文読解シリーズ 1

作者の思いを理解したいのであれば、本文そのものや、作品のあとがき、その作者の生い立ちなど多くの資料にあたってみたり、できるならばその作者に会いに行ってみると良いでしょう。(参考リンク: 【本の紹介】『小さな町の風景』(杉みき子作/偕成社)――本をめぐる旅

しかし、読書を楽しむことが目的ならば、作者の意図も出題者の意図もどうでもいい! という大前提も大切です。

作品は読み手に開かれています。まずは、その作品にどのような印象・感想・意見を持っても良いのだという前提を共有することが重要です。作者が何を言いたいかなんてわからないくて良い、というところから始めて良いのです。むしろ、読者としてその本文を元に何を読み取ったか、どうのように意味づけたのかの方がはるかに重要なのです。

そして、できればそれを他の人と話し合ってみましょう。様々な意見が交換されるはずです。すると、自然と、見えない作者と対話しているような感じがしてくるかもしれません。

書くことは楽しいこと

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「物語を書こう!」プロジェクトは、複数の生徒たちが同時並行で進めています。定期的に自分の作った作品について、中間報告をしながら、良いところを褒め合ったりアドバイスをし合ったりしながら、それぞれの作品を作るのです。

このような書くことを仲立ちにした交流も、プロジェクトでは重要です。なぜなら、だれかに読まれることを前提として書くことによって、書き言葉への意識が高まるからです。そして、こうした書くことへの強い動機づけがあると、子どもたちは自分からどんどん書いていきます。書くことを楽しみ、書くことへの自信をつけていくのです。

国立教育政策研究所が平成18年に行った「特定課題に対する調査(国語)(外部リンク)」によると、子どもたちは、「文章を書く学習は,ほかの教科や総合的な学習の時間などの学習に役立つ。」「文章を書くことは,日常生活の中で必要だ。」と考えているにも関わらず、学年を上がるごとに、文章を書く学習が嫌いになっているようです。

「物語を書こう!」プロジェクトは、こうした問題に対するひとつの有効なアプローチであると、私たちは考えています。

このようにリテラでは、子どもたちの言語技術とメタ認知能力を高めることを目的として、物語の制作プロジェクトを授業に取り入れています。

次のコラム「【生徒作品】物語『空の精霊たち』小4・Yさん」では、このプロジェクトの生徒作品を紹介します。お楽しみに。

この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

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カテゴリー: 教育コラム

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