今回は教室に通う中学3年生のA君の作品紹介です。
今年の春から、日本の90年代ポップスを代表するアーティスト・ZARDの魅力にどっぷりと浸かったA君は、ZARDというテーマで作品制作をすることにしました。
この作文を書く際、当初は、1600字程度を予定していましたが、終わってみると4000字近い労作になりました。A君の思いのこもった作品をぜひお読みください。
作品紹介
『ZARDの魅力』
中学3年 A君
《序論 テーマについての紹介》
皆さんはZARDというバンドを知っているだろうか。ZARDとは「負けないで」などのミリオンセラーとなった名曲を生み出した90年代を代表するアーティストである。
僕がこのバンドを知ったきかっけはアニメ『名探偵コナン』からであった。小学校3年生の時『劇場版名探偵コナン水平線上の陰謀』の主題歌にZARDの『夏を待つセイル(帆)のように』が使われていた。それを映画館で聞いた僕はこの曲のやわらかさに惹かれたのを覚えている。そして本格的に好きになったのは中学3年の4月末である。たまたま図書館に行きCDの棚を見ていたときにふとZARDの『ZARD BEST ~Request Memorial~』が目に入り借りて聴いてみたところ、繰り返し聞いても飽きることなく、自然と好きになっていた。
さて、現在はAKB48やKARA、嵐などのアイドルが日本の音楽業界を支えている。これらのアイドルはメディアの露出が多く、国民的アイドルとなり、ダンスやメンバー選抜総選挙などのイベントによって社会現象になっている。特にAKB48は世界一のメンバー数を誇り、その一人一人に幅広い世代の多くのファンがいる。そして新曲が出るたびにオリコンチャートでは、1位になり、CDの売り上げ枚数が日本の経済にも大きな影響を与えている。作詞はかつておニャンコクラブなどの有名な曲を手掛けた秋元康が全て書いている。
現代の音楽ブームは、アップテンポでのりやすい曲調が多い。それにより人々の気分を高揚させ、曲だけでなくダンスなどで曲全体が盛り上がるようになっている。
だが僕にとって、今のブームの曲は曲名を見ただけで、その曲の歌詞の内容を理解する事ができず、歌詞自体を読んでも何をこの曲で伝えたいのかが解らないことが多い。
こうした音楽が多い中で、僕はZARDには人々を引きつける力があると考えた。そこでZARDというアーティストの魅力を紹介したい。
《本論1. ZARDについての概要》
ZARDとは90年代を代表するバンドで、1991年2月10日に『Good bye My Loneliness』でデビュー。ボーカルは坂井泉水(本名 蒲池幸子)で歌詞は全て彼女が書いていた。ZARDはあまりメディアに露出せず、テレビ出演も7回と少なかったためか、人々にはZARD=坂井泉水として知られていた。そして1993年1月27日、「負けないで」を発売し164.5万枚というZARD初のミリオンセラーとなった。これによりZARDの知名度は一気に上がった。そして1999年8月31日に行った、豪華客船ぱしふぃっくびいなす号でのライブでは600名限定招待に対し、20万通の応募があり、倍率は約1700倍という高倍率となった。こうしてZARDは90年代を代表するグループのひとつとして一世を風靡した。
そして2000年代に入ってからも活動し続け、2004年にはデビュー14年目にして初のライブツアー『What a beautiful moment tour』が開催された。全11公演は満員御礼となり大盛況となった。
《本論2. なぜZARDが聴かれなくなってしまったのか》
このようにZARDが最も人気があったのは、約15年前だが、最近ではあまり聴かれなくなってしまった。その理由の一つは、すでに坂井泉水さんが亡くなっているために新曲が作られないからである。だがそれだけの理由ではないのではないだろうか? 僕は時代の変化と共に進化するメディアの影響があると考える。
名曲というものはその歌手が亡くなった後でも聴かれ続けていくもので、例えばジョンレノンの『イマジン』や坂本九の『上を向いて歩こう』などは今でも多くの人に聴かれている。では何故ZARDは聴かれなくなってしまったのか? その理由はメディアの発達がひとつの大きな理由だと思う。
現代では、メディアの進化によりタブレット端末やスマートフォンで動画がどこにでも持ち運びできるようになり、イヤホンやスピーカーなど耳からだけ楽しむのではなく、映像を通しても楽しめるように変化してきている。そのため、ダンスやファッションなどの視覚的要素が重要になってきた。そしてダンスとなると自然とアップテンポな曲が多くなってくるのである。つまり現代の音楽はアップテンポでダンスのある曲が流行っている。また現代の音楽グループはより多くテレビ出演をしてメディアの力を借りてそのグループの認知度を高めている。
それに対してZARDの活動スタイルは現代のそれとは正反対であった。ZARDはメディアにほとんど露出をしていない。なぜなら坂井さんが人前だと緊張する性格で、あまり自分からテレビやラジオに出るということはしなかったためだ。そのため人々の認知度が、低くなってしまったのだろう。
しかし、そうした活動スタイルだからこそ生まれるZARDの魅力もある。
《本論3. ZARDの歌詞は、聴き手に共感を持たせる》
それは、ZARDは坂井さんが書いた詩を自分で表現するので、聴いている側に歌詞の内容がリアリティーをもって伝わってくるということだ。
なぜなら坂井さんが書く詩はおそらく実体験を元に書いているからである。例えば「あの微笑みを忘れないで」のなかに「25時砂の上に車停めて語り明かしたあの夏 ぬるいコーラしかなくても夢だけで楽しかった」とあるが「ぬるいコーラ」というのは車の中に入れてあったためにぬるくなってしまったということで、実際に体験してみないと生まれてこない視点であると思う。
坂井さんはファンレターからも歌詞を書いている。そのファンレターにはとある高校の先生が担任していた生徒の事故死のことが綴られていた。その生徒は、ZARDのファンであり、3年G組の人気者でキーパーというあだ名だった。その手紙を読んだ坂井さんがアルバム「TODAY IS ANOTHER DAY」の中の「見つめてたいね」に「3Gのキーパーも天国から見てる」といった歌詞を書いている。このように坂井さんは送られてきたファンレターを喜んで読んでいて、妹がファンの宛先をリストにしていて、時折返事も書いていたことがある。
こうした実体験やファンとの交流を元に歌詞を書き、歌っているので、坂井さんの歌は聞き手の共感を生むのである。
《本論4. ZARDの魅力は歌そのものである》
またZARDは歌だけでZARDの魅力を伝え、CDの売上につなげていた。そのため、聴き手は、現代の音楽のように初回特典を狙ったり、総選挙の投票権を狙って買うということなく、歌そのものに共感してCDを買うのである。こうして多くのZARDの楽曲がミリオンセラーになっていた。
だからこそZARDの楽曲は多くの人々に勇気や希望を与えるのである。毎年、日本テレビで行われる「24時間テレビ」ではマラソンのコーナーのラストに「負けないで」が合唱されている。さらに最近では東日本大震災の後に「負けないで」や「あの微笑みを忘れないで」などが多く流れるようになった。やはりこの2曲はZARDを代表する2曲でもあり、ZARDの数少ない応援歌でもある。
《結論》
このように今ではあまり聴かれなくなってしまったが、ZARDには聞き手が共感できる思いの込められた歌がある。そしてその曲の歌詞は全て坂井さんが書いていた。これらの曲は聴き手を元気づけたり、勇気づけたりしてきた。
こうしてZARDは2011年デビュー20周年を迎えた。ZARDはこの20年色々な人から愛されてきた。しかしまだZARDを知らない人々や、坂井さんがどのような歌詞を書いていたかを知らない人がこの世の中多くいる。そこでメディアが発達した今、手軽に楽曲や動画が持ちはこべる今だからこそ時間が空いているときにZARDを聴いてもらいたい。そしてこれからもより多くの人にZARDを知ってもらい、ZARDの曲を坂井さんの詩を心に刻み込んでいってもらいたいと僕は願っている。
【参考】
- ZARDオフィシャルブック『きっと忘れない』ジェイロックマガジン社 2007年出版
- 『ZARD 永遠の坂井泉水』清水 將大著 コスミック文庫 2007年出版
- ウィキペディアより『負けないで』
コメント
ZARDに関する図書から情報を収集し、ZARDについて具体的な数字を上げながら、当時どれほど人気があったかを紹介したり、歌詞や歌にまつわるエピソードを紹介をしながら坂井さんの書く詞の魅力を説明することができました。
また、現在ZARDが聴かれなくなってしまった理由について、現在のメディア機器の発達という視点も交えながら考察している点も、単に個人的な好き嫌いを超えて、社会的な観点からテーマにアプローチしようという姿勢が見られます。こうした視点は今の彼にとってとても重要です。
本文からはカットしましたが、この作品の中で彼は次のような考察もしています。
では、なぜジョンレノンの「イマジン」や坂本九の「上を向いて歩こう」は今でも聴かれ続けているのか? それにはこうした名曲には、次のような共通する三つの特徴があるためである。
1つ目は時代背景がある点である。「イマジン」は1971年に発売されたが、その時期ベトナム戦争が始まっており、その戦争に反対する歌として作られた。それに対して「上を向いて歩こう」は、第二次高度経済成長の前の1961年に発売され、まさに高度経済成長の豊かさを表した曲である。
2つ目はどちらも世界中で売れているという点である。「イマジン」は発売当初からヨーロッパ、オーストラリア、アメリカ、日本などの国々でチャートで上位に入り、特にアメリカやオーストラリア、イギリスなどでは売上枚数が1位になった。一方「上を向いて歩こう」は発売してから約1年後にヨーロッパのアーティスト達により演奏され、海外でも大ヒットした。
3つ目は、多くのアーティストにカバーされることにより繰り返し聴く機会が増える点である。「イマジン」は日本国内では桑田佳祐や桜井和寿。海外ではクイーンやボンジョビ、マドンナ、アヴリル・ラヴィーン、にカバーされている。「上を向いて歩こう」は、徳永英明やトータス松本、海外ではマイケル・ジャクソンなどに毎年のようにカバーされている。
こうした曲と比べてZARDは、時代性の点から見て考えた時、ZARDを代表する「負けないで」が発売された1993年は、バブル崩壊のあおりを受けていた時代で、不況に苦しめる人々を元気づけた曲だった。しかし、世界的に聴かれていたかというと、そういうわけでもない。そして「負けないで」の場合、作曲者の織田哲郎のセルフカバーも含めて3回カバーされているだけである。こうした名曲に比べてもZARDの曲は日本でしか聴かれていなく、カバー数も非常に少ないため認知度が低くなってしまい、聴かれなくなってしまったのではないだろうか?
こうした考察を経て、社会的な影響力のある歌には、その歌を求めるその時代を生きる人々のニーズがあるという視点に気がつくことができたことは、今回の作品制作の一つの収穫でした。そうした視点は、ポップソングだけでなくあらゆる芸術作品についていえることであり、社会的・文化的・歴史的な視点の芽生えでもあります。
テーマにしたがって全体の構成を考え、書きながらそれに修正を加えて一貫性のある文章を構成していくことはまだまだ課題ですが、講師のサポートを得ながら、よく書き上げることができました。A君にはこうした作品制作を一つの自信にして、これからの取り組みに望んでほしいと願っています。