今回は、小学5年生のY君が二ヶ月に渡って取り組んだプロジェクトの紹介です。

Y君の書いた落語紹介新聞
テーマ選択
Y君は、三遊亭圓窓師匠の下、月に数回落語の稽古に励んでいます。小学校では、芸術鑑賞会で、全校生徒を前に落語を一席講じたこともある、小さな噺家さんです。
そんなY君が、11月の初めにプロジェクト(=数回にわたって、一つのテーマについて主体的に取り組む活動)のテーマとして「落語」を選択したのは、彼の興味・感心に沿った自然な選択でした。
そして落語をテーマにどのような切り口で、作品制作をするかということも、Y君自身に選択してもらいました。「落語」テーマに、「落語の歴史を調べてレポートする」、「いろいろな噺を参考に、オリジナルの噺を自分で考えてみる」などといろいろな案が出た中で、「落語の魅力を紹介する新聞作りをしよう」と決まりました。
インタビューする
自分の持っている知識や考えだけはなく、テーマに沿った新しい考えや知識を積極的に得て、自分の世界を押し広げるのがプロジェクトの醍醐味です。
そのため今回、記事を書くにあたってY君は、二度、三遊亭圓窓師匠にインタビューをすることにしました。
実はY君、初めのインタビューでは「落語の魅力とはなんですか?」と単刀直入に伺ったところ「落語とは世界で類を見ない話芸である」と返事をいただいただけで、お礼を言ってインタビューを終わらせてしまいました。これでは、記事としては内容が少なすぎました。
そこで授業の時に、Y君が学んだことは、「質問には、投げかけの質問と深めるための質問がある」ということです。
投げかけの質問とは、相手と話の糸口を見つけるための質問です。それに対して、深める質問とは、相手が話してくれた内容についてもっと詳しく尋ねたり、返答について別の視点から質問することで内容に広がりをもたせたりするための質問です。
そのため、二度目の質問では次のようなリストを考えてから臨みました。
- Q1.「落語とは世界に類を見ない話芸」というお話をうかがいましたが
- →世界に類を見ないってどういうことですか。
- →落語はどんなところが特別なのですか。
- Q2.落語はなぜ笑い話が多いのですか。
- Q3.どれくらいの落語を覚えているのですか。
- →それは他の落語家さんと比べて多いのですか。少ないのですか。
- →その中で師匠の得意な落語は何ですか。
- →自分が一番たくさんやった噺はなんですか。
- →どうしてそんなにたくさんやったのですか。
- Q4.落語をやっていてよかった。落語をとられたら何もできないからなというお話をうかがいましたが、
- →もしも、落語をやっていなかったらどんな仕事をしていたと思いますか。
- →落語をやっていてよかったと思ったときはどんなときですか。
- →反対に、落語をやっていないほうがいい、やめたいと思ったときはありますか。
- →そんなとき、どうやって立ち直ったのですか。
こうして、ただ質問を投げかけるだけではなく、相手がどんな答えをしてくれるだろうかと考えをめぐらせたり、相手が答えた後、その答えをより詳しく聞くためにはどんな質問をすればよいか考えることで、得られる学びはより豊かになります。
書くための読書
「書くための読書」は、それまでの「楽しむための読書」とは一味違った読み方が求められます。それは自分の問題意識にしたがって読む、ということです。
この新聞を書くにあたって、Y君は自宅で持っている本や、図書館借りた次のような図書を参考にしました。
- 『のんきでゆかいな町人たち 声に出して、演じる子ども落語』 (文・たかしま風太 絵・うちべけい/PHP研究所)
- 『落語いってみよう、やってみよう』 (林家 正蔵・著 /ホーム社)
- 『落語ー柳家花緑私がご案内します こども伝統芸能シリーズ』 (柳家 花緑・監修、文 /アリス館)
- 『柳家花緑の落語 (日本の伝統芸能はおもしろい (2)) 』(著・小野 幸恵/監修・柳家 花緑/岩崎書店 2002.3)
- 『落語ファン倶楽部vol.11』(編・笑芸人/白夜書房/2012.12)
この中からさらに、今回のテーマにあった本を選びました。 こうした自分が必要としている本かどうかを判断しながらざっと読む読み方を「点検読書」といいます。
そして、選んだ本の中から、さらに参考となるような情報を見つけます。参考にするためには、書かれていることと、自分の問題意識とが内容的に合致しているかどうか、という判断が必要になります。つまり文章の意味付けが不可欠です。
Y君の書いた記事
こうした取り組みを経て、Y君はテーマに沿った様々な記事を書き、レイアウトを考えました。
小5・Y君
この新聞は、落語の基本的なことから専門的なことまで紹介します。だから落語を知っている人、知らない人、両方に読んでもらえるといいと思います。
下の方の記事は、僕のおすすめの落語家さんと歴代の落語家さんの紹介なので、ここは落語を全く知らない方にはわからないかもしれませんが、ごかんべんねがいます。
世界に類を見ない話芸
ぼくは、2012年12月23日に三遊亭圓窓師匠にインタビューをしてきました。
まず「落語のみりょくを一言で言うと何ですか」と聞いてみました。師匠は次のように教えて下さいました。
「落語とは世界に類を見ない話芸です。世界に多くの話芸がありますが、落語のように座ったままで二十分も三十分も話し続ける人はいません。」
僕も『イソップ童話』などの外国の笑い話を読んだことがあります。しかし、外国の笑い話は短いので、どうしてそのような出来事が起きたのかが十分に書かれていません。それに比べて落語は、前置きがしっかりしているので、なぜそのようなことになったのかということがわかりやすくなっています。たとえば、登場人物の性格、特徴が自然と会話の中に組みこまれていたり、次に起こるおもしろい出来事の準備がしてあったりします。
つまり、落語とは、しっかりした前置きのあるわかりやすい話なのです。それで笑えるのだと思います。
落語は想像して聞くもの
落語とはなにかと聞かれて一番わかりやすい言い方は、「一人で演じているのに、いくらでも人物を演じ分けられる笑い話」だと思います。
そして、そのおもしろさは、聞く人によっていろいろな人物を想像できるところです。
たとえば、登場人物を熊さんだとします。もし聞いている人が五十人いるとすると、一人がそれぞれの熊さんを想像できます。つまり、五十人の想像された熊さんがいていいわけです。ひげづらの熊さん、八百屋の熊さん……そう考えると落語はすごく自由な想像力をふくらませられる世界なんです。
落語で身につく力
落語は、聞くだけではなく話すほうが楽しめると思います。さらに、日常生活の中で、役に立ちます。たとえば、次の三つのことが身につきます。
第一に、発表、会話の仕方が上手くなります。発表が上手くなると、説得力のある説明ができるようになります。
第二に、本を読む時に人物の気持ちがわかるので上手く話せるようになります。なぜなら、落語の時に一人で何人も演じるということは、それぞれ気持ちを変えて演じる必要があるからです。これができると相手がどんな気持ちかわかるようになります。
第三に、暗記の力がつく、ということです。落語では練習した話を覚えて話すのですから、もし忘れっぽいと、前に教わったことがわからなくなってしまいます。だから、暗記の力は大切です。
これは一部の例にすぎません。落語が話せると他にも生活に良い影響があると思います。
ぼくのオススメの落語家
ぼくのオススメの落語家は、入船亭扇辰さんです。それは人がらに気品があるからです。それに扇辰さんは、寄席を大切にしていて、お客さんをあきさせないところがいいところだと思います。
落語家さんには、それぞれ自分専用の手ぬぐいと扇子があります。扇辰さんの扇子には、「何しかし こころ許して 初笑ひ」と書いてあります。手ぬぐいには、空をおよぐ龍が扇をもっているがらが入っています。
また文左衛門さん、小せんさんと「三K辰文舎」というフォークトリオを組んで、ホールなどでコンサートをしています。
歴代の落語家
歴史を見てみると有名な落語家はたくさんはあがりません。でも有名な落語家はとてもすごい歴史を残していました。
たとえば、三遊亭歌笑。第二次世界大戦後、笑いを求めていた人にぴたっとはまって、銀座げき場を一人で満員にしたという伝説の落語家さんです。本も書いています。代表作は『歌笑じんじょう詩集』です。
ほかには、一龍斎貞水さん。講談師として初の無形文化財(人間国宝)になった人です。この人はおもに怪談をすることが多く、NHK番組にでていることがあるなど、落語ファンの人なら知らない人はいない名前です。
あとは、三代目三遊亭小さん。この小さんはすべての落語を知りつくした伝説の落語家と言われています。夏目漱石に「小さんは天才である。」とまで書かれた大変な人です。
【参考にした本】
- 『柳家花緑の落語 (日本の伝統芸能はおもしろい (2)) 』(著・小野 幸恵/監修・柳家 花緑/岩崎書店 2002.3)
- 『落語ファン倶楽部vol.11』(編・笑芸人/白夜書房/2012.12)
記事への反応
プロジェクトで制作した作品は、新たな交流や考えるための材料になります。書いたら書きっぱなし、では勿体ないですね。
教室では、制作した作品を展示して、それを読んだ生徒同士でコメントし合える環境を作っています。
コメントは付せんに書いて、作品と一緒に掲示します。作者への称賛、質問、アドバイス、記事を読んで考えたこと、さまざまな内容がコメントとして寄せられることで、作者は自分の作品を異なる視点が振り返り、より良くするための気付きを得ることができるのです。それになにより、自分の書いたものに反応があるということは、作り手にとって嬉しいことなのです。
Y君に寄せられたコメントの一部
- 自分の経験から落語について考えていて、すごいと思いました。それに見出しに色をつけて強調しているところがわかりやすくていいと思いました。(小4・Yより)
- 落語で身につく力、歴代の落語家などいろいろな見出しがあっておもしろかったです。参考にした本が書いてあったところが良いと思いました。(小4・Rより)
- この新聞を読んで、落語を日本の伝統文化としてきちんと伝えていきたいと思いました。それに、落語は聞く人の想像力をかきたてるというところにも思わずうなずかされました。落語紹介新聞第2号も期待しています!(講師より)
プロジェクトは、テーマ選択・計画・調査・実行・振り返り・他者との交流などさまざまな要素を総合した学びです。 こうしたプロジェクトを重ねていくことで、生徒たちは、作者としての視点を獲得し、主体的に学ぶ態度や、よりメタ的な思考を身に着けていくのです。