個性に合わせた学習支援・中3T君の取り組み

T君の個性に合わせた学習支援≒マルチ能力の視点から

教室では、特別な支援を必要とするお子さんの学習サポートにも取り組んでいますが、その際、マルチ能力理論の視点からお子さんの学習にアプローチしていきます。

人間は日々さまざまな能力を駆使して生活しています。その能力を8つの要素(言語能力、論理的-数学的能力、空間能力、身体-運動能力、音感能力、自己観察能力、人間関係形成能力、自然との共生能力)にわけたのがマルチ能力理論です。

特別支援学級に通う中学3年生のT君は、話すことや読み書きが苦手なため、昨年より教室で学び始めました。

話すことにおいては、質問の意図を理解することが苦手でちぐはぐな返答をしてしまったり、知識と実体験を混同してしまい、対話の相手に誤解を与えてしまったりしてしまいます。書き言葉においては、主語-述語の関係が複数入る文や、受け身の関係を表現することが苦手です。また少し長い文章になると因果関係の把握が難しくなってきます。

しかしその一方で、絵を描くことがとても得意です。学校の授業で協同で新聞づくりをするという時には、彼は率先してイラストを担当するそうです。そして漢字も得意です。大人でも難しい漢字をよく知っていて書くことができます。漢字を視覚的なイメージを捉えているのでしょう。

また、身体を動かすことも得意です。太鼓やフライングディスク、ポートボールなどさまざまな活動に意欲的に参加しています。体で表現することも得意です。言葉で表現するときに、彼は大きくボディランゲージを使います。身体表現が先行する形で言葉をつむいでいるようです。

つまり、マルチ能力の視点から見ると、T君は言葉を使うことは苦手でも、色や形で表現したり身体を使って表現することは得意であるといえます。

こうした個性を持つT君にとって、言葉の学びはそれ単独で学ぶよりも彼の得意なことを介して学ぶことによって意味のある(=楽しく興味の持つことのできる)取り組みになります。得意なことが苦手なことを牽引してくれるのです。

このような視点で、T君が意欲的に取り組んでいるのが次の二つの取り組みです。

1. イラスト要約

短編作品を読み、それをマンガ仕立てにコマわけしてイラストと単文を使って要約します。その後、原稿ノートに作文するのです。「絵を描く」という彼にとって自信のある取り組みを介することによって、その取り組みは驚くほど生き生きとします。

※付せんは、イラストを書いた後に、接続詞や気持ちに関する言葉を考えて追加したものです。

星新一『きまぐれロボット』(理論社)よりイラストを使った要約

〈星新一『きまぐれロボット』(理論社)よりイラストを使った要約〉

試作品(要約)
中3 T君

エム博士の研究所は、静かな林の中にありました。博士はそこにひとりで住んでいました。ある日、そこにあまり人相のよくない男がやってきました。男はポケットから拳銃を出し、それをつきながら「強盗だ金を出せ。」といいました。しかし博士は貧乏でした。そして強盗に「試作品をよこせ」といわれて博士は、「だめだ渡さない」と言いました。強盗は博士の手を引っ張って研究所の中を調べまわりました。そして最後に小さな地下室をのぞきました。そこには、机とイスが置いてあるだけでした。博士はついにさびしい地下室に押しこまれてしまいました。一週間たち十日が過ぎました。まだ博士は降参しませんでした。そのころになると反対に強盗のほうが弱ってきて、あきらめて帰ってしまいました。ついにエム博士は地下室から出てきてほっと息をつきました。博士の完成した研究とは、食べることのできる机やイスだったのです。

2. 生活することと言葉を結びつける

洗濯や部屋の掃除、料理といった日々生活するための様々な仕事を宿題として、取り組んできてもらいます。仕事をきちんと達成するためには、その手順を確認したり、実際に行動したり、その結果について振り返ったりする作業が含まれます。そうした確かな経験を授業の中に言葉におこしていくのです。またこうした体験をご家庭で見守っていただくことで、ご家族と生徒さんとの交流も生まれます。

お好み焼きの作り方をイラストを使って説明する

お好み焼きの作り方をイラストを使って説明する

お好み焼きを作る
中3 T君

これから、お好み焼きのを作るて手順を説明します。

まず、ボウルにお好み焼き粉を二五〇g入れます。次に卵三個を割ってボウルに入れてから水を入れます。それから、千切りにしたキャベツを入れてこぼさないようによく混ぜます。そして、あげ玉と紅生姜を入れて、また混ぜます。

ホットプレートにたねを入れて豚バラ肉を二枚ずつ載せます。五分が経ったらフライ返しでひっくり返します。そしてもう一回タイマーをセットします。五分が経ったら同じようにひっくり返します。

最後にオタフクソースとマヨネーズと青海苔と鰹節をかけて完成です。

自分の作ったお込み焼きは、狐色できちんと焼けていました。厚く焼けました。お皿と同じくらいの大きさです。香りは、ソースの香りがします。食べてみるととてもおいしかったです。美味しさのひけつは、紅生姜でした。紅生姜を入れるピリッとした味がします。

子どもたちには、一人ひとり、得意なこと・苦手なことがあります。その子なりの考え方・理解の仕方・表し方があるにも関わらず、画一的な基準によってのみ指導がなされると、その子の多様な可能性を生かす機会が失われてしまいます。T君の場合、これから自立のためにまだ多くの課題を抱えているかもしれません。そうした課題に一つひとつ向き合っていくために、彼の得意なこと・好きなことは、大いに助けになるのです。

この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

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カテゴリー: 授業報告, 生徒作品

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