【生徒作品】物語『大きくなったうさぎ』 高1・T君

大きくなったうさぎ
高1・T君

村はずれの野原に、小さなうさぎの巣穴がありました。その穴に一匹の小さなうさぎが住んでいました。うさぎは、「僕は、大きくなりたいんだ! 」と願っていました。

「大きくなったうさぎ」を書くために、T君の考えた地図 。右上にあるのが、うさぎの巣穴。右下にあるのが、農場。ウサギは、農場から左上にある町に向かって旅に出た。

物語を書くために、T君の考えた地図 。右上にあるのが、うさぎの巣穴。右下にあるのが、農場。ウサギは、農場から左上にある町に向かって旅に出た。

うさぎは、うす暗い穴から出ました。周りには、緑色の草がたくさん生えています。空は青く、小さな雲がたくさんうかんでいます。春風が気持よく吹いています。遠くには、農場があります。うさぎの目は、人間よりもいいのです。うさぎの耳には、鳥の鳴き声が聞こえます。うさぎは、お腹がすいていました。そこで、野原を走って、農場の畑へ行きました。

畑には、さつま芋や人参やカブなどが育っています。うさぎは、まず、トマトを一つ食べました。その時、うさぎは、自分のお腹がブルブルと震えるのを感じました。うさぎは、怖くなりました。すると、急に、手に持ったトマトが小さくなりました。それだけではなく、家も畑の野菜も小さくなってしまいました。うさぎは、自分がでっかくなったと気が付きました。なんとそのトマトには、成長促進剤が入っていたのです。

畑じゅうの野菜を食べつくすうさぎ

畑じゅうの野菜を食べつくすうさぎ

大きくなったうさぎは、畑の野菜を食べ続けました。夕焼けで空が赤く染まっています。畑じゅうの野菜を食べたうさぎは、お腹がいっぱいになりました。そして、空が真っ暗になると、うさぎは、荒れはてた畑で寝てしまいました。

やがて、にわとりの鳴き声の合図で朝になり、うさぎは、起き上がりました。うさぎは街に出かけました。うさぎは、大きな体でビルの上に登って飛び跳ねたいと思ったのです。そして、草原を歩いて行きました。少し風が吹いて、うさぎの毛がふわふわとそよいでいます。空は青く、大きな雲が風の力でゆっくり動いています。

トンビにおそわれるうさぎ

トンビにおそわれるうさぎ

やがてうさぎは、岩がたくさんある野原に通りかかりました。すると、突然トンビに襲われました。トンビたちは、茶色い翼を広げてバサバサと飛んできました。鋭い爪と口ばしでうさぎの全身を突いたりひっかいたりしました。うさぎは、痛さのあまりに叫びました。茶色い毛並みがぽつぽつと血で赤くなっています。こわくなったうさぎは、急いで川へ逃げました。うさぎは、水しぶきを上げて川へドボンと飛び込みました。滝のようなしぶきを受けて、びっくりしたトンビたちは、逃げていきました。

うさぎは、川にそって橋に向かいました。どんどん川を進んでいくと、橋があるはずでした。しかし、その橋は、古くなって壊れていました。

そこには、バスや車がじゅうたいの列をつくっていました。運転手さんたちは、クラクションを鳴らしながら怒っていました。歩いている人や、自転車に乗っている人も困っています。

向こう岸へ車をわたすうさぎ

向こう岸へ車をわたすうさぎ

それに気がついたうさぎは、バスを一台ずつ持ち上げて、向こう岸に渡しました。バスを運ぶときはヨイショと声をかけて運びました。小型車のときは、手をお椀のようにしてホイホイ運びました。歩いている人や自転車に乗っている人は、手のひらに乗せて運びました。人々は万歳をして喜びました。

町を去るうさぎ。勲章が光っています。

町を去るうさぎ。勲章が光っています。

その後、うさぎは、大きな光り輝く勲章をもらいました。町の広場に集まった人々は、せいだいな拍手をしました。うさぎは、ビルの上で飛び跳ねたいくらいうれしく思いました。でも、飛び跳ねませんでした。なぜなら、うさぎが飛んだら、ビルが一発で倒れて、人々が困ってしまうからです。

講師のコメント

『大きくなったうさぎ』いかがでしたか。ユーモアにあふれる設定、ドキドキする場面もあり、ほっと心温まる結末もある、素敵な作品ですね。味わいのある絵も魅力的です。

特別支援高校に通うT君は、やがて社会へ出て生きるために必要となる言葉の力を養うためにこの教室で学んでいます。

そんなT君が、今回取り組んだのは物語作りでした。物語を作ることを通して、「文脈」を理解することがこの取り組みの目的です。

そのため、場当たり的に物語の展開を決めていくのではなく、物語のアウトラインを作り、物語世界の地図を書き、「登場人物はどうしてそのような行動をとったのか」「出来事を通して、登場人物はどのように感じるのか」といった理由をきちんと考えながら、作品作りを進めました。T君は、逐一講師から「なぜ・どうして」と質問をされますが、自分自身が作者ですから、物語の責任は自分で取らなければなりません。T君は、講師に質問されるたびに、頭をひねりひねり、物語の筋道を整えていきました。

物語を作ることは、様々な学びが含まれるのみならず、子どもたちにとって大きな達成感と自信となります。物語作りを楽しかった、またやりたいと話してくれたT君の次の作品が楽しみです。

この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

タグ: , , ,
カテゴリー: 生徒作品

リテラ言語技術教室について

menu_litera