2013年4月20日 東京電機大学教授勝又洋子先生をお招きし、当教室のあるプティボワ―ビル一階の「Cafe kova Garden」にて、第五回千住アートメチエ文化教養講座『お面と祭りの文化考』 が開催されました。
高校生からご年配の方まで幅広い世代の方が参加されました。
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講座内容の抜粋
歴史的・世界的に見られる仮面文化
仮面の呼び名は、仮面、お面、マスク、マスケラなどさまざまですが、その用途も、死者の顔を覆うためもの、戦の際に顔を守るためのもの、魔除けや収穫感謝などの宗教的儀式や祭礼の際の変装するためのものというように、多様です。とりわけ重要なのが「他のものに成り代わる」という性質でしょう。
現在でもネパールやブータンなどでは、宗教行事、儀式などで使われ、また日本の能楽、韓国のマダン劇など仮面を用いた演劇や伝統芸能があり、世界中に仮面文化が受け継がれてきました。特に現代では、アニメやマンガ文化、「コスプレ」のアイテムとなり、ハリウッドの「スパイダーマン」や、日本の映画・テレビのヒーロー「仮面ライダー」「ウルトラマン」など映像空間の中で、脈々と生き続けています。
このように仮面には、ひと通りでは説明しきれないさまざまな魅力がありますが、今回は、ヨーロッパで仮面を用いる行事として、スイスや南西ドイツのファスナハトと、ヴェネツィアの仮面カーニヴァルとを紹介します。
ファスナハト・カーニヴァルとは?
キリストの復活祭(イースター)前には、四〇日間の節制期間があり、その間、人々は慎み深く生活し、肉を食べません。そのため、この節制期間を迎える前の謝肉祭(ファスナハト・カーニヴァル)では大いに肉を食べ、盛り上がるのです。
スイス・南西ドイツのファスナハト 暮らしを伝えるおじさんの仮面
スイスや南西ドイツのファスナハトでは、どことなく愛嬌のある、おじさんの仮面をかぶり、すきやくわを持った仮装行列が見られます。どうしてこのような身近な存在の仮面をわざわざかぶるのでしょか?
それは、ファスナハトが行われるヨーロッパ地域が農耕文化を持つことと関わっています。ファスナハトの中で、人々は、身体にカウベルをつけ、にぎやかに、冬男を追い立てながら、伝統的な農作業のあり方を伝えるのです。大人も子どももみんなが楽しく参加し、誰もがわかる、伝統の継承という側面がそこに見られます。
ヨーロッパのお盆? おばあさんの仮面
伝統の継承という側面では、おばあさんの仮面も見逃せません。ファスナハトの間には、先祖がこの世に還ってくるそうです。まるで、日本のお盆のようですね。
おばあさんたちはパフォーマンスを通して、今の世を生きる人に昔の暮らしぶりを伝えるのです。
ヴェネツィアの仮面カーヴァル お医者の面
ヴェネツィアは、七世紀頃ヴェネト地方の人々が異民族の侵入から逃れてアドリア海のひがたに築いた水上都市であり、地中海貿易に活路を見出しました。ところが海上貿易がもたらすものは富だけではありませんでした。度重なるペストの大流行のため、多くの人々が犠牲になります。その時、医者は鳥のくちばしのような仮面(マスク)をかぶり、くちばし部分にガーゼと薬草を詰めて患者の往診をしたそうです。
「市民」から「貴族」の象徴へ バウダ
ヴェネツィアの仮面は、カーニヴァルの期間だけでなく日常も使われたことに特徴があります。ヴェネツィアの人々に最も愛され、そして大切にされているお面と衣装は「バウダ」で、この仮装は、頭巾のついたシンプルな黒いマントからできています。顔は黒、または白い仮面でかくします。この仮面は、自由に話や食事ができるように下あごの部分があいた半仮面の形をしています。この仮面は、人々の素性を隠し、自由なふるまいを保証するものだったのです。
ところが十八世紀頃になると、きらびやかでぜいたくなバウダが出てきます。仮面は本来身分や社会階層を隠して、自由にふるまう役割がありましたが、逆に社会的身分の高さを示す象徴となっていくのです。
お面の下に隠されたお面?――マスケラ・リトュラット
この頃のヴェネツィアでは、なんとお面の下にもう一枚、著名人のお面をかぶることが流行したそうです。「お面の下は、素顔に違いない」という先入観を利用することによって、よりたくみに別人に成り代わるのです。こうした仮面を使って他人を装って夫が妻に近づき、その心を試したそうです。逆に夫婦の関係がこじれてしまいそうですね(笑)。しかし一方で、より匿名性が高くなることを利用して強盗が横行するようにもなり、このマスケラ・リトュラットは、何度も禁止されますが、それでも人々は根強くこの仮面を好んだそうです。
参加していただいたみなさんの声
今回も、「Cafe Kova Garden」さんが、マーマーレードのさわやかな風味のパウンドケーキと、コーヒー・紅茶を用意してくださり、イタリアの伝統音楽のBGMにエキゾチックな雰囲気の中、講座を迎えることができました。
今回は、多くの高校生、社会人のお客様に参加いただきました。フランスの歴史に詳しい方や、仮面の作り手の方、ベリーダンサーで仮面を取り入れたダンスを考えていらっしゃる方など、多様な視点から意見交換がされました。
アンケートからの抜粋
- 文化のお話を、とてもわかりやすく、写真もたくさんあってイメージもわき、あっという間に時間が過ぎてしまいました!もっと色々聞いてみたいです!!!気づくこともたくさんありました。ヴェネツィアにも行きたいと思いました!(社会人のお客さまより)
- アフリカの生命根源的な仮面のあり方、ドイツのファスナハトに見られた儀礼と生活に密着した仮面のあり方、ヴェネツィアの必要性から生まれた仮面のあり方の対比が大変興味深かった。(社会人のお客様より)
- 祭り、劇、物語、歌、など長くうけつがれていくものの根底には、暮らしや生命をつなぐという共通の人間の思いがあるということを知ることができました。流れていく日常生活の中で、ちょっと立ち止まり、なじんだ経験についての意味づけを知り、考える時間を作っていただき、ありがとうございます。次回も楽しみにしています。(社会人のお客様より)
- 仮面が象徴するものとは何か、それを人間がかぶることの意味とは何か、ということを掘り下げていくと、人間の精神の神秘のようなものの片鱗が見られるのではないかと思いました。講座の序盤で「死者の魂(生気)は顔から出て行き、それを覆うものがお面である」という話をされて、とても興味をそそられました。そこで一つ疑問に思ったのが、「その時、かぶせるお面はどのようなお面か?」ということです。もしこれが人外のお面であれば、他を寄せ付けなかったり、ふたをかぶせたりするような役割があると考えられそうです。また、ある映画の一場面で「男の仮面を取ると崩れ落ちる」というようなものがありましたが、この話を聞いて、なるほどと思いました。(高校生の生徒さんより)
- 仮面という、普段あまり目にすることのないものの講義が聞けてとてもおもしろかったです。講義を聞いていて、仮面とは二重人格に非常に似ていると思いました。また、今までお祭りのためだけにあると思っていたお面が、実は病気をうつされないために使っていたものであったり、日常的にかぶって町を歩いていたことなど、初めて耳にすることが多く、驚きと関心を持って聞くことができました。古代から仮面があることも知り、仮面の歴史がとても深いことも知りました。人生のためになる講義をありがとうございました。(高校生の生徒さんより)
この他にも、たくさんの声をいただきました。参加していただいた皆様、どうもありがとうございました。