【アートメチエ報告】第四回千住アートメチエ文化教養講座『食の記号学――ワインと肉』報告

20130224

2013年2月23日 相模女子大学名誉教授河上睦子先生をお招きし、当教室のあるプティボワ―ビル一階の「Cafe kova Garden」にて、第四回千住アートメチエ文化教養講座 『食の記号学――ワインと肉』 が開催されました。

ワインと肉を切り口に西洋の食文化と人々の思想について、参加者のみなさんと共に考えました。

 

講座内容の抜粋

ワインと肉の表と裏

今回のテーマとなった「ワインと肉」は、それぞれ人が生きるための力や楽しみを与えてくれるものであると同時に、人間の本能的な側面をあらわにさせる可能性のあるものだと西洋では考えられてきたようです。そのため、肉とワインとと人間との関わりについて考えると、興味深い人々の思想が垣間見えます。

フランスでは、子どもの頃からワインを飲む?

人を開放的にするワインは美食文化の象徴であると同時に、人々に「節制」の意識を促すものとなりました。ワインを飲むと楽しい気分になりますが、我を失うほど酩酊することは、節度を知らぬ野蛮な行いであると人々は考えたのです。そのためフランスでは、子どものから水で薄めたワインを飲むことで、アルコールとの付き合い方を教えているそうです。日本では考えられないことですが、危険だからといって子どもからハサミを取り上げるのではなく、きちんと使い方を教えるのと似ています。

“イメチェン”に成功したワイン

また、洗礼の際にワインを飲むように、キリストの血にもなぞらえられるワインは、宗教的な意味においても人間的な「食」という文化が発展するために、なくてはならないものでした。旧約聖書において、アダムとイヴは神から食べることを禁じられた知識の木の実を食べて、善悪の判断を身につけました。この時の木の実は、リンゴなど諸説ありますが、一説にはブドウであるという説もあるそうです。河上先生は、ブドウが、アダムとイヴの犯した罪の象徴から、キリストの血=命の象徴へ転換していくことの面白さを語ってくださいました。

正しいお肉のさばきかたとは?

肉家畜の飼育に適した風土を持っていたヨーロッパでは、古くから肉食の習慣がありました。
肉を食べなければ力が出ません。しかし、肉を食べることは、ともすれば人間の動物的な側面と結びついてしまいます。そのため、肉食文化からも、節制や拒食・断食の思想が生まれていくのです。

肉を食べるためには、生きている動物を殺さなければなりません。日本では、近世まで、肉食を穢れとして忌避し、それに関することを生業としている人々への差別がありました。また、ユダヤ教では、流れ出た血に触れた肉を食べてはいけないという戒律があり、適切に処理された食材には、そのことを示すマークがつくそうです。

ヒトラーとベジタリアニズム

肉などの動物性の食物を食べない、または、品目や食べる頻度に指針を持っている人々を「ベジタリアン」といいますが、ベジタリアン=命を大切にする人、というわけでは必ずしもありません。歴史に名を残した人のうち、ベジタリアンだった人物は多くいますが、ヒトラーもその一人でした。ベジタリアニズムは、動物愛護法などと結びついてユダヤ人弾圧にも巧みに利用されていきました。家畜の処理の仕方を定めることによって、ユダヤ人に肉を食べさせないようにしたのです。また、民族に階級をつくったヒトラーは、犬の種類にも階級をつくり、ジャーマンシェパードはユダヤ人よりも階級が上とされたそうです。

人と動物の関係を考える

肉食を考える時、人間と動物の命の価値についても考えざるを得ません。動物愛護運動や捕鯨問題など、動物を利用することへの考え方の違いが、人々の間に対立を生むことがあります。文化の違いやその人の人間性ではなく、「人と動物の関係性をどのように捉えているか」という観点から、それぞれの立場を理解していくことが必要なのです。

参加していただいたみなさんの声

今回も、「Cafe Kova Garden」さんが、さわやかな風味のおいしいチーズケーキと、コーヒー・紅茶を用意してくださり、講座のテーマである美食文化=ガストロノミーを感じながら、リラックスして講座に参加することができました。

今回は、小学六年生から中高生、年配の方まで幅広い年代の方々にお越しいただき、河上先生も着席したアットホームな空気の中で講義が進みました。

アンケートからの抜粋

  • 日本には、花見や家族の団欒などヨーロッパでいうパーティに値するものがありますが、これらは必ず座って行うことです。しかしながら、ヨーロッパにおいては、立食パーティというように型にはまっていません。このあたりにヨーロッパの「対話」を重視する姿勢が見られると思いました。(高1の生徒さんより)
  • ベジタリアンは肉を食べないほかに、ワインも飲まない。とてもつまらない人生の気がします。けれど、栄養分は別のもので得るのだから、健康面では問題ない。節度も保ちやすい。ただし、おいしさや楽しさの面では「呑みにけーしょん」は大切だと思った。だからワインは食事として楽しんだらいいと思います。ガストロノミーはすごくいい!(社会人のお客さまより)
  • ヒトラーがベジタリアンだと知っておどろいた。たくさんの人を殺したヒトラーが。(小6の生徒さんより)
  • 日本には、昔は大皿からみんなでついばんで食べたり、飲んだりする文化がありませんでした。西洋との大きな違いで、宗教とも関わりますが、「ワイン(血)」を受け継ぐために飲み交わすところに、象徴を(記号化)食の中に取り込んで生活していたのだと思います。西洋の方が、美術、音楽、文学においてラベリングしていることが多々あります。これはキリスト文化の影響をうけていますが 、曖昧さをよしとしない考え方の反映かと思われます。ただ、宗教が生まれる以前の古代ギリシャ、ローマの神話、縄文、弥生時代の日本の「すべてに神がやどる」という神話の中身が時によく似ているところは一つの不思議といえます。今回は、食を通してからですが、1つのものから、多面的に派生する面白さに心ひかれました。ありがとうござました。(社会人のお客さまより)

この他にも、たくさんの声をいただきました。参加していただいた皆様、どうもありがとうございました。

この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

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カテゴリー: 文化教養講座

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