2012年12月13日、東京電機大学理工学部 情報システムデザイン学系教授 石塚正英先生をお招きし、当教室のあるプティボワ―ビル一階の「Cafe kova Garden」にて、第三回千住アートメチエ文化教養講座 『サンタクロースの民俗誌』 が開催されました。
一人の聖人の物語が、各地の習俗と交わりながらどのようにして世界的な行事となっていったのか、また、各地にある死と再生の生命観について、参加者のみなさんと共に考えました。
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講座内容の抜粋
サンタクロースの原型
サンタクロースの原型は、小アジアの司教だった聖ニコラウス(271年頃~342年頃)であると言われています。貧しい家に金貨を投げ入れるなど、貧しい人々の救済に尽力した彼は、守護聖人として信仰されるようになります。その信仰はヨーロッパ各地へ伝わっていくことになりますが、その過程で、各地の習俗と結びついていきます。
恐ろしいサンタクロース
冬至祭・農耕儀礼など、各地の習俗と結びついた聖ニコラウス信仰は、様々なバリエーションのサンタクロースを生むことになります。たとえば、北欧アイスランドの「ヨールスヴェン」と呼ばれるサンタクロースのバリエーションは、巨大な悪鬼であり、悪い子どもたちを脅して回ります。ここには、各地に伝わる「死と再生」の生命観が見て取れます。
死と再生の世界観
様々なサンタクロースを生んだ背景にあるものは、各地の「死と再生」の世界観でした。ケルトにおいては、「ハロウィン」は冬至とともにもっとも重要な暦となっています。冬は太陽の日照時間が少なく、自然は停滞し、死に向かいます。しかし、「ハロウィン」の時期、亡者や自然の精霊が地上に現れ、再生・再興のパワーを与えてくれると人々は考えていました。多様な文化・習俗の背景には、ケルトの三つ巴「渦巻文様」に表れているような、生と死と再生がダイナミックに自然を作り出しているという直感・生命観があったのです。
現代のサンタクロース
時代が経るにつれ、サンタクロースは、その原型である聖ニコラウスから離れた独立したイメージを形成していきます。そして、現代アメリカでの大衆化と商業化と結びつくことにより、現代のサンタクロースのイメージが確立します。私たちになじみのある、赤いガウンをはおり、白いひげを生やしたおじいさんという姿のサンタクロースは、実は、1930年代前後にコカ・コーラ社が自社のイメージ・キャラクターとしてつくったものなのです。
参加していただいたみなさんの声
今回も、「Cafe Kova Garden」さんが、クリスマスにちなんだ素敵なケーキをつくってくださいました。
年末ということもあり、参加人数はいつもよりも少な目でした。しかし、そのぶん、クリスマスらしい親密な空気の中で講義が進みました。
アンケートからの抜粋
- サンタクロースに陽と陰の二面性があるとは思っていなかったので、驚きました。「赤い服装はシンボルで、形のないもの、人それぞれのサンタ像がある」という意見が面白いと思いました。
- なにげなかったサンタクロースについて教えて頂き、私の中で、ベールに包まれていた事が明確になった気がします。物事の起源を知ることは楽しく刺激的であることを体験させて頂きました。
- サンタさんがどのように今の世に伝い育ってきたのか、夢がこわれないお話でとても楽しかったです。
- 今回、サンタクロースはキリスト教によって広められ、人々に元気を与えるという、とても新鮮味のあるお話を楽しませていただきました。なかでも、サンタクロースの赤と白を基調とした衣装が、コカ・コーラ社の宣伝によって、今の私たちの意識に刷り込まれたものという事実に驚きました。一方で、ふと思ったことがあります。宗教が人々の笑顔を守る上でなくてはならないものである一方で、悲劇も生むということです。9.11事件がその一例ですね。宗教という人類の資産が、良くも悪くも興味深いものであると改めて感じさせられました(このご意見は、高校1年生の方から頂きました)。
この他にも、たくさんの声をいただきました。参加していただいた皆様、どうもありがとうございました。