【生徒作品】「日本は、准保育士制度を導入するべきか」Mさん・高2

昨今、保育園の待機児童の問題・保育士不足の問題が注目されています。2014年には、それらの解決策として、政府は、准保育士制度の導入を検討していました(参考:日本経済新聞より 「准保育士」導入を検討 政府、子育て経験女性を担い手に )。将来、保育士になることを希望しているMさん(高2)は、自分の目標と関わるテーマとして、「准保育士制度の是非」について考え、立論しました。

日本は、准保育士制度を導入するべきか
M・Tさん 高2

准保育士の定義

准保育士とは、乳児から就学前の幼児を保育するために必要な、保育士に準ずるものとしての資格を持つ者である。育児経験のある人が衛生や栄養に関する3ヶ月程度の研修を終了すると資格をとることができる。[注1]

准保育士が議論される背景

准保育士制度の背景には、待機児童という問題がある。待機児童とは、子育て中の保護者が保育所または学童保育施設に入所申請をしているにもかかわらず、入所できない状態にある児童のことだ。2013年の待機児童は22,741人、2014年は、21,371人と年々減少してきてはいるが、まだ多くの待機児童がいる。[注2]

待機児童問題の解消を目指し、国は230もの保育所を設置したが、保育士が不足しているのでなかなか大幅に改善されない。保育士は2017年末に7.4万人不足すると言われている。[注3]

待機児童がいるということは、その親など家にいる人が子どもの面倒をみなくてはいけない。つまり、共働きが難しくなる。育児休暇後や1回退職した人が仕事に戻れなくなる。共働きができないと家計が圧迫され経済状況が悪化する。また、子どもを産みたいという人が減り、今、社会問題の少子化が進むことにつながる。したがって、准保育士制度の導入によって待機児童の解消が検討されているのである。

主張

私は准保育士制度を導入すべきではないと考える。

なぜ保育士が少ないのか

保育士になろうと思っている人や資格を持っている人は少なくない。保育士の資格を持ってはいるが保育士にならなかった人を潜在保育士という。潜在保育士は、全国に約60万人もいる。[注4]なぜ、潜在保育士は、こんなにも多いのか。それは、重労働かつ低賃金であるため、離職率が高いからだ。

それではなぜ、保育士は低賃金なのだろうか。保育士の平均賃金は私立公立を合わせて月額20万7400円だ。全産業の月額平均29万5700円なので、大きく下回っている。一方、小学校教員は33万1600円だ。[注5]保育士と小学校教員の賃金には大きく差がある。保育士や小学校教員の賃金が公的な補助金と保護者からの養育費ではらわれていることは同じである。しかし、公的な補助金に差がある。

文部科学白書2009によると、日本の在学者1人あたりの公財政教育支出は、就学前教育2140ドルである。初等中等教育6996ドルと比べて3倍もの差がある。[注6]なぜこのような差があるのだろうか。

文部科学白書2009 第2節 教育投資の水準より

文部科学白書2009 第2節 教育投資の水準より

私はこの差は保育士と小学校教員の社会での重要度によるものだと考える。社会では、保育士の仕事は小学校教員とは違い教育でなく福祉と考えられている。教育は社会で生きる力を身に付ける場所、保育園は親が仕事をしている間、子どもの世話をする場所と考えられている。つまり、生きるための力を育むことと、世話をすることの専門性では、生きる力を育む方が高度だと考えられているため、保育士の価値が低くなってしまうのではないか。

一方、日本、アメリカ、米国、フランス、ドイツの五か国の在学者1人あたりの公財政教育支出を比較すると、五か国平均の就学前教育は4991ドルで、日本の就学前教育と比べると2倍以上の差がある。また、五か国の平均の初等中等教育は7277ドルなので日本の初等中等教育とほとんど変わらない。このことから、日本は欧米と比べて就学前教育の支出が少ないことがわかる。

以上より、日本の社会におけて就学前教育の価値が低く考えられ、公的財政支出が少ないことが保育士の低賃金につながっている。つまり、保育士を増やすためには、準保育士制度を導入するのではなく、就学前教育の価値を見直し、公的財政支出の増加に伴う保育士の待遇の改善が必要である。

准保育士制度の問題点

1.保育の質の低下

准保育士は、子育ての経験があり、三ヶ月研修をするとはいえ保育士には専門性の上で劣ると考えられる。

認可されている保育園と無認可の保育園では、事故の数が圧倒的に無認可のほうが多い。平成16年~26年の十年間で起きた事故で、少なくとも163人の子どもが死亡している。無認可の保育園の数は認可の保育園の三分の一しかないのにもかかわらず、事故の件数は、その約7割の事故が無認可の保育園で起きている。[注7]認可されている保育園と無認可の保育園の違いは、「保育所最低基準」を満たしているかどうかだ。その保育所最低基準の内容は、子どもの年齢や人数に対してどのくらいの広さが必要になるのか、保育士が何人必要かなどといったことだ。[注8]無認可の一部の保育園では、資格を持たずに保育補助のアルバイトとして働くことができる。

専門的な知識が保育士よりも少ない点では准保育士もアルバイトも共通するところがある。こうした、無認可保育園の事故の割合の高さは、一概に保育士の質の問題だけのせいではないが、知識の少ない准保育士を導入することは、保育園での事故が増える危険性がある。 そして、保育の質の低下は、親の不安につながり、親が安心して子どもを預けられなくなる。

2.賃金の低下

准保育士の導入は保育士全体の賃金を下げる危険性がある。保育士と准保育士だと保育士の賃金のほうがが高くなると予想される。保育園の経営側は、人件費が安いほうがいいので准保育士が多く雇用されるようになるだろう。一方、全てを准保育士に任せるわけにはいかないので、保育士の需要がなくなってしまうわけではないが、より安い賃金の准保育士に合わせて、保育士の賃金が全体的に下がってしまう可能性がある。すると、保育士が今よりも安い賃金を提示されてもそれに従うしかなくなる。そもそも、保育士が足りない理由は待遇の悪さだったにもかかわらず、今よりも賃金が下がってしまったら、もっと保育士が少なくなってしまう。

結論

就学前教育は生涯の中で自己形成の基礎が培われる重要な時期だ。その時期に他者とかかわり思いやりや協調性を身につけることで社会の一員としてより良く生活しやすくなる。その重要性は、初等教育に比べて劣るものではない。

そのほかにも、就学前教育を充実させることは親の共働きを可能にし、家計も豊かにして子どもを産みやすくする 。すると、少子化が緩和され労働人口の増加により、社会保障負担の増加や経済規模の縮小などの問題が改善される。就学前教育を豊かにすることは女性の社会進出を支えることにつながる。

したがって、私たちは、就学前教育の価値を見直し、保育士の待遇を改善するべきである。

また、准保育士を導入には、保育士の質の低下や賃金の低下などの問題がある。保育士の質が低下には、事故の増加の危険性があり、保育士の賃金が低下には、保育士のさらに待遇が悪くなる可能性がある。

以上から准保育士制度を導入するのではなく保育士の価値の見直しや待遇の改善をし、潜在保育士をどう活用するかを模索していく必要があると私は考える。

カテゴリー: 生徒作品

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