【生徒作品】「使わなければ損」~ドイツのトイレの経営学~(高1・A君)

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2013年の夏、デンマークを旅行した高校一年生のA君は、面白い作文のテーマを見つけてきました。「ドイツで立ち寄ったサービスエリアのトイレのことなんですけど……」と、楽しそうに語るA君。視点のユニークな、A君らしい随筆文に仕上がりました。実体験をともなうことで、文章がいきいきするのは、低学年だけではなく、高校生や大人であっても同じだということを改めて感じることのできる作文でした。

作品紹介

「使わなければ損」
~ドイツのトイレの経営学~

A君・高1

この夏、私はデンマークへ旅行をし、その中でドイツを経由してオーストリアに行った。デンマークからは、バスでオーストリアまで行ったが、その途中、ドイツで休憩のためにいくつかのサービスエリアによった。休憩の度に私は、トイレに向かったが、そこで日本にはない面白いシステムを見た。トイレの入口にはゲートが設置されており、0,7ユーロ(約100円)を払わないとゲートが回らないようになっている。お金を入れ、ゲートが回ると同時に券が出てくる。券には、0.5と書いてあり、この券はドイツのサービスエリアで発行日時を問わず0.5ユーロ(約70円)の金券として使える。

トイレの使用料を払うともらえる金券(0.5ユーロ)

トイレの使用料を払うともらえる金券(0.5ユーロ)

私はトイレを利用した後、その金券を使用して飲み物を買い、バスに戻った。そしてバスに乗りながら、さっき利用したトイレについて考えていると、ふとこのサービスエリアの素晴らしい仕組みに気付いた。

サービスエリアでは、誰もが必ずと言っていいほどトイレを利用する。その為、トイレを利用した時点で、経営者側に利益が入ってくるというシステムになっている。

一回0.7ユーロは一見、高く見えるが0.5ユーロ戻ってくるとなると、実質利用者が払っている金額は0.2ユーロ(約30円)位になるため、不満を持たれにくくなっている。

それだけではない。この時、金券を受け取った人には、「金券を使わなければ損」という考えが生まれ、お金を出すことを肯定できるようになる。そして、金券を使い、何か飲み物や軽食を買おうとする。この時、金券ではお釣りが出ないため、端数の金額は自分のお金で払うことになるのだが、券によって割り引かれているため、品物が安く手に入った気になる。こうして最終的には、トイレの使用料による「損した気分」が、品物が安く手に入った「得した気分」に変わっていくのである。さらに、ここで店側にも利益が入ってくる。

これらのシステムは、人間の「使わなければ損」と思う心理を巧みに利用し、利用者にあまり不快な気分にさせずに儲けるという、画期的なシステムだといえる。

一方、現在日本の高速道路のサービスエリアでは、トイレを無料で提供している。更に、サービスエリア内にお茶や水のサーバーも用意されている。

このサービスの良さは日本人が得意とする「おもてなし」の精神であり、美点であるが、このドイツのシステムを導入することによって、もっと多くの利益を生み、高速道路を良くすることに繋がるのではないだろうか。おそらく、システムを導入することになると、今まで無料だったものが有料になるのだから、少なからず不満は出てくるだろう。しかし、その不満はあまり大きくなることはないと、私は考える。なぜなら、このシステムは、巧みに利用者の損した気分を得した気分に変えるものだからである。したがって、トイレを利用し、その後サービスエリアを利用した人の多くは、「これぐらいならいいか」と考えるのではないだろうか。

さらにこうして得た利益を高速道路の修復などに使用したら、より安全な高速道路になる。それは、公共の利益になると思う。

この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

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カテゴリー: 生徒作品

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