はじめての物語
教室では、年度末の発表会に向け、生徒たちはそれぞれの作品作り(プロジェクト)に取り組みます。
作品の内容はそれぞれに任せられますが、大別すると、新聞などのレポート作成か、物語などの創作課題に分かれます。
小5・E君は、最初、新聞を作成する予定でした。しかし、なかなか思うように進まない中、ふと目にした他の生徒の物語に刺激を受け、自分も物語を書くことにしたのでした。
最初に取りかかったのは、物語の構造を理解することでした。最初の状況と結末の対比や、主人公が求めているものとクライマックスの対比など、いくつかのポイントを整理しました。ここでは、普遍的に現れる物語のパターンを示しましたが、内容はまだ漠然としており、明確ではありませんでした。
次に進めたのは、挿絵を描くことでした。内容をより具体的に、しかし、流れを見失うことなくイメージを膨らませるには、挿絵は最適です。もともと絵を描くのが好きなE君は、どんどん物語の世界を拡げていきました。
また、並行して、文章も書き始めました。カリキュラムでは、まだ「書きことば」の基本の練習を始めたばかりのE君でしたが、表現することの楽しさに引っ張られ、どんどん書き進めることができました。
まだまだ荒削りなところもありますが、「物語」としてしっかり成立させることができました。
年度末発表会では、絵をスライドに映しながら物語を発表したE君。これからの成長が楽しみです。
宇宙生物ニョロタ
小5・E君
1. ウチュウの生物?
ある朝、ぼくはきみょうなヤツにあった。
ぼくの名前は「アキラ」。小学五年生。
今日は、虫とりに行った。そこで、ぼくは、そうぞうもできないようなことに出くわした。
なんと、空から隕石がふってきたのだ。
ぼくは、とつぜんのことにしりもちをついてしまった。次のしゅん間、その隕石めがけて雷が落ちてきた。すると、中から、不思議な生物が出てきた。
その生物は、「ニョロタ!」とさけんだ。そして、少しの間、空中にとまっていた。
ぼくは、そのすきににげだしたが、その生物は、ぼくを追いかけてきた。まるで「わたしの正体を知ったものは、ただでは、すませない」と、思っているようだ。
ぼくは息が切れるほど走り、家にたどりついた。でも、その生物には、いっさいつかれが見えない。逆に、まだまだ速く飛べそうなかんじだった。
そこで、ぼくは、おもいきって、その生物に話しかけてみた。
「どうして! ずっとついてくるんだよ」
すると、その生物は「ニョロ、ニョロロロ、ニョロタ」と言いかえしてきた。
ぼくは、なぜだか、その生物の話していることがわかってきた。
ぼくは、家に荷物を置き、急いで公園に行った。
さくら公園についたとたん、ボールが飛んできたので、あわてて、キャッチした。このボールをなげたのは、友達のタカシだ。あとの二人は、マサトとケンジ。ぼくらは、仲よしだ。
ぼくは、みんなに箱に入っている生物を見せた。みんな、目が飛び出しそうになった。
2. 基地を作れ!
不思議な生物を見た三人は、それぞれ声を上げた。
「どこでこいつをひろってきたんだ?」
とタカシが聞いた。
ぼくは、みんなにじっくり話した。
話が終わったあと、マサトがこの生物に名前をつけて、みんなでせわしようと提案した。さっそく、ぼくは言った。
「『ニョロタ』っていう名前は、どうかな」
どういう意味でつけたんだと、全員に聞かれた。
「こいつと出会った時さ、ニョロタ~って言ったんだ。だから、こいつの名前はニョロタだ」
ところで、ニョロタは、とくいわざみたいなものはないのかと、ケンジがバカにしたように言った。そうしたら、ニョロタは、少しおこった顔でダンボールから出て、まわりにある物を浮かした。
ケンジは、「ウソだろ、あんな重い5キロのロボを持ち上げるなんて」と叫び、こしをぬかした。
わざをはっきしたあと、ニョロタは、するどい目で、ケンジの顔をにらんだ。でも、ぼくがニョロタの頭をなでたら、いつもの顔にもどった。ぼくは、ふと、ニョロタは頭をなでられると、きもちやいかりがしずまるのかなと思った。
ぼくたちは、ニョロタのわざを見たあと、みんなでスーパーに行き、ダンボールをたくさんもらって、空き地に基地をつくりはじめた。でも、ダンボールだけでは作れないと知ったぼくは、急いで家にもどり、かたくてじょうぶそうな物と、つい最近おったビニールがさの骨組とビニールを持って、急いでみんなの所に行った。
そして、みんなといっしょに、きちを作った。ぼくは、きちの名前はどうするかと聞いた。話し合いの結果、空き地と基地を合わせて「空基地」に決まった。
3. 母との話し合い
基地を作り終わった時、「あっというまに夕方になっちまったな」と、タカシがつぶやいた。
「じゃあ、また遊ぼうね」と、みんな帰っていった。
でも、ぼくは、お母さんが、ニョロタを家族の仲間としてみとめてくれるか心配だった。考えているうちに、家についてしまった。ぼくは、ニョロタのためだ、おこられても、めげずにたのんでみるよと、ニョロタに、にっこり笑って言った。そして、ぼくは、お母さんという名の大きなかべにいどんだ。
「お母さん! ただいま!」
「おかえりなさい」
と、ここまでは、順調だ。
「お母さん、話があるんだけど聞いてくれる?」
「うん。なーに」
「どうしても、この生き物をかいたいんだ!」
「でも、その子あぶなくない?」
「ぜんぜんあぶなくないよ」
「だからと言って、何かきっとかくしているのよ」
「おねがいします。ニョロタのためならなんでもするから!」
「じゃ、ニョロタのことは、アキラにまかせるわ」
「やったね、お母さん、許してくれたよ!」
「ニョロ~!」
ぼくは、夜ごはんの時に、ニョロタにチョコをあげてみた。ニョロタはよろこび、体を光らせた。ぼくは、ニョロタの好物は、チョコなんだと知った。
「よかったじゃない。これで、ニョロタの好物がわかったね」
お母さんが、やさしく言ってくれた。ぼくも、正直、うれしかった。
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わたしたちの子どもは、さらわれたのか
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ぜったいそうよ
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地球に行ってみるか。子どものためなら、はかいしてやろう
では、いくぞ
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でも、まだ宇宙船こわれてるわよ
くそ~
4. ニョロタとのわかれ
ニョロタがきてからの生活は、すごく楽しい。ぼくは一人っ子だから、兄弟みたいなかんじだった。
食べる時もいっしょ、おふろの時もいっしょ、遊ぶのもいっしょ、ねる時もいっしょで、ぼくは幸せだった。
そして、ニョロタが家族になってから一ヶ月がすぎた。ここ最近、ニョロタは、空を見てたまにうなっている時がある。ぼくは、体がわるいのかなと、心配になってきた。
町外れの森に、宇宙船が降りてきた。
「ここが地球か。さっそく子どもをさがすぞ」と言い、なぞの生物が浮かび上がった。
そんなことも知らず、ぼくは、ニョロタとキャッチボールをしていた。遊び終わった時、ぼくはニョロタに言った。
「家に帰ったら、ぼくからプレゼントをあげるね」
ぼくは、少しはずかしかった。
家に帰ったら、もうすっかり夜だった。ぼくは、ニョロタの首に、おそろいのネックレスをかけた。そして、「これでずっと家族だね」と言った。ニョロタは、ないて、ぼくにだきついてきた。
「このネックレスは、ぼくのとくっつけると、星の形になるよ」
次の朝、夏休み最後の日。ぼくは、ニョロタに、残りの時間たくさん遊ぶぞ、と声をかけた。今日は何をするかとニョロタに聞くと、ニョロタは、ゲームを指さした。ぼくたちは、今日が最後の日だとはまったく思っていなかった。
その夜、窓の外がいっしゅん光にそまった。外に出てみたら、宇宙船があった。その中から、ニョロタによく似た生き物が二匹あらわれた。そして、家の中に入ってきた。
お母さんは、その生き物を見て気ぜつしてしまった。ぼくは、おこっている生き物に、れいせいに話しましょうと言った。すると、その生き物は、すんなり、わかりましたとこたえた。話をきいてみると、二人は思った通りニョロタの母と父で、子どもがさらわれたのかと思い、この地球にはるばるやってきたということだった。ぼくは、今までのことを話し、ニョロタをつれて帰らないでくださいと、たのんだ。でも、だめだった。
「ごめんな、しかたないんだよ」
ニョロタの父さんはそう言って、ニョロタをつれていってしまった。ぼくは、ニョロタがつれさられたことを、ただ悲しむことしかできなかった。
悲しい気持ちが消えないまま、学校が始まってしまった。何をしていても、頭からニョロタのことがはなれない。ぼくは、悲しい気持ちのまま、校門を出た。帰り道、基地により、ニョロタのことを考えた。その時、どこからか、「アキラ~」と、ぼくを呼んでいる声がした。ぼくは、あわてて基地を飛び出した。すると、初めて会った時のように、空からニョロタがふってきた。
「どうしてニョロタがいるの!?」
「ニョロ、ニョロロロ~!」
アキラが大人になるまでいてもいいって、父さんと母さんが言ってくれたんだ、とぼくには聞こえた。
ぼくは、「お帰りニョロタ!」と言った。