- 作者名:ヴァルシャ・バジャージ
- おすすめ:小学校5~6年
- ジャンル:物語(現実的)
- キーワード:人権 責任 勇気 2025年読書感想文
こんな子におすすめ!
- 世界の水問題や環境問題に関心がある子
- 異文化や海外の暮らしに興味がある子
- 社会問題について考えたい子
- 困難に立ち向かう勇気や行動力を学びたい子
- 家族の絆や友情の大切さを感じたい子
- 日常の「あたりまえ」について考えてみたい子
- インドの文化や社会に興味がある子
本の紹介
インド有数の大都会ムンバイ。12歳のミンニと15歳の兄サンジャイが暮らすスラムには、ムンバイの人口の40パーセントが住んでいるにも関わらず、水は市全体の5パーセントしか供給されていません。
水不足が厳しくなる3月のある夜、サンジャイが「水マフィア」を目撃してしまい、命の危険にさらされることに。さらに母親は病気になり、ミンニは学校に通いながら母親の代わりに裕福な家庭で家政婦として働くことになります。
詩を書くのが好きな少女ミンニは、厳しい現実の中でも夢を持ち続け、水マフィアの不正と闘う決意をします。家族の絆、友情、そしてインドの「今」を生きる子どもたちの勇気と成長の物語です。
「人は、水なしでは生きていけない。でも、ほんとうに必要なのはそれだけじゃない!」
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本の解説
この物語の舞台となるインド第2の都市ムンバイのスラムでは、約1,200万人の人口のうち40%近くが住んでいるにもかかわらず、水は市全体の5%しか供給されていません。慢性的な水不足に陥り、上下水道も完備されていないため、水を手に入れるためには毎日水を汲む列に並ばなければなりません。

Kounosu, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
主人公の12歳のミンニは、慈善団体の運営する私立の学校に通いながら、このムンバイのスラムで両親と兄と暮らしています。詩を書くのが好きで、コンピューターの使い方を学ぶ機会も得た彼女は、どんな環境でも学ぶことをあきらめません。
物語は、ある日の夜のドライブ中に、ミンニと兄のサンジャイ、友だちのファイザが、水マフィアが水を盗む現場を目撃することから動き出します。この事件をきっかけに、家族はばらばらになってしまいますが、ミンニは諦めることなく、勇気を持って問題に立ち向かっていきます。
「この大人になるってことは、大変だ ― なにも気にしなくてよかったわたしの子ども時代は、もうもどってこないかもしれない。でも、わたしには、助けてくれる人がたくさんいる。」(P105)
ミンニのこの言葉には、急に大人の責任を背負うことになった少女の複雑な心情が表れています。最初の部分では困難さと喪失感を表現していますが、続く「でも、わたしには、助けてくれる人がたくさんいる」という言葉には、希望と感謝の気持ちが込められています。どんな困難な状況でも、周りの人々の支えがあることで前向きに生きていく強さがミンニにはあるのです。彼女は母親の病気をきっかけに、学校に通いながら家政婦として働くという重い現実に直面しますが、周囲の人々の支えを力に変えていきます。
本書の魅力は、貧しい環境にありながらも、誠実に生き、強く前を向いて歩いていくミンニと彼女を取り巻く人々の姿です。彼女が勉強を続けられるように手を差し伸べてくれるシャー先生、娘の未来のためにこっそりパソコン教室の奨学金を申し込んでくれていた母、コンピューターの世界を教えてくれるプリヤ・ディディなど、厳しい環境の中でも希望を持って生きる人々の姿が描かれています。
水は命に直結する大切なものです。日本では蛇口をひねるだけで安全な水が得られますが、世界では約20億人以上の人々が安全な飲み水を日常的に手に入れられません。本書を通して、私たちが当たり前に思っている「水」の大切さを改めて考えるきっかけになるでしょう。
また、本書はインドの文化や社会状況も垣間見ることができます。カースト制度の影響が残る社会構造、家族の絆の強さ、インドの食文化(ロティやチャパティなどの伝統食)など、異文化理解の観点からも興味深い作品です。
人生には水と同じくらい大切なものがたくさんあります。家族、友情、夢、希望、そして「大人になる」ということ。この物語は、どんな逆境に置かれても明日に希望を抱き、たくましく前に進んでいく子どもたちの姿を通して、私たちに生きる勇気と希望を与えてくれるでしょう。
読書感想文のヒント
読む前に考えてみよう
- あなたが毎日使っている水の量はどれくらいだと思いますか?
- 水道の蛇口をひねると水が出てくることを、あなたは当たり前だと思っていますか?
- 世界には水が不足している地域があることを知っていますか?
- もし、あなたの家に水道がなく、水を汲みに行かなければならないとしたら、生活はどう変わると思いますか?
- インドについて知っていることはありますか?
考えを深めるための質問
- ミンニと家族が直面した水問題について、どのように感じましたか?
- 水マフィアの存在は、社会にどのような影響を与えていると思いますか?
- ミンニが勉強を続けながら家政婦として働くことになった時、どのような困難があったと思いますか?
- シャー先生やプリヤ・ディディのような人々は、ミンニにとってどのような存在だったと思いますか?
- ミンニとファイザが水マフィアを告発するために取った行動について、あなたはどう思いますか?
- この物語を通して、「水」の大切さについて、どのようなことを学びましたか?
- あなたが日常生活で当たり前だと思っていることで、世界では当たり前ではないことは、他にどんなことがあると思いますか?
- もしあなたがミンニの立場だったら、どのように行動しますか?
考えてほしいテーマ
- 水問題
- 環境問題
- 貧困
- 社会正義
- 勇気
- 家族の絆
- 友情
- 教育の機会
- インドの文化と社会
- 子どもの権利
- 成長
理解を深めるために
インドの水問題について
インドでは急速な人口増加、都市化、工業化により水需要が増大し、多くの都市で深刻な水不足に悩まされています。特に都市のスラム地域では上下水道インフラが不十分で、安全な水へのアクセスが限られています。また、水質汚染も大きな問題となっており、不衛生な水による健康被害も発生しています。
ムンバイについて
ムンバイ(旧名ボンベイ)はインド最大の都市で、経済の中心地です。人口は約2000万人を超え、アジア最大規模のスラム「ダラヴィ」があることでも知られています。

YGLvoices, CC BY 2.0 https://creativecommons.org/licenses/by/2.0, via Wikimedia Commons
超高層ビルが立ち並ぶ近代的な地区がある一方で、極度の貧困地域も存在する、格差の大きい都市です。インド映画産業「ボリウッド」の中心地でもあります。
世界の水問題
国連によると、世界では約20億人が安全に管理された飲料水を利用できず、約26億人が基本的な衛生設備を利用できていません。水不足は気候変動によってさらに悪化することが予想されており、2025年までに世界人口の3分の2が水ストレス下で生活すると言われています。水は基本的人権の一つとして認識されていますが、その確保は世界的な課題となっています。
参考
合わせて知りたい
- SDGs(持続可能な開発目標)の目標6「安全な水とトイレを世界中に」
国連が定めた2030年までに達成すべき17の目標の一つで、すべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保することを目指しています。
参考:持続可能な開発目標(SDGs)報告2024(国際連合広報センター) - 水の循環と浄化の仕組み
私たちが使う水がどこからきて、どのように処理されて家庭に届くのかを知ることは、水の大切さを理解するうえで重要です。
参考:飲み水はどこから?使った水はどこへ? 暮らしを支える「水の循環」(政府広報オンライン) - インドの文化と社会
多様な言語、宗教、文化が共存するインドの社会構造や、カースト制度の歴史と現在についての理解を深めると、物語の背景がより明確になります。
合わせて読みたい
『世界がもし100人の村だったら』池田香代子/再話(マガジンハウス)

世界を100人の村に縮小して考えると、そのうち何人が水や食料、教育などの基本的な権利にアクセスできているかを、わかりやすく示した作品です。
おすすめの理由:世界の資源や権利の不平等な分配について考えるきっかけになります。安全な水にアクセスできる人の割合など、具体的な数字で世界の現状を知ることができ、『スラムに水はながれない』の背景となる世界の水問題を理解する助けになります。
合わせて観たい
映画『スラムドッグ$ミリオネア』
ムンバイのスラム出身の少年がクイズ番組に参加し、一攫千金のチャンスを掴みます。しかし、不正の疑いをかけられてしまいます。ムンバイのスラムの様子や、インドの社会格差を視覚的に理解することができます。
ドキュメンタリー映画『プラスチックの海』
プラスチック汚染が世界の海や水源にどのような影響を与えているかを取り上げたドキュメンタリー。水質汚染という観点から、水問題について考えるきっかけになります。
構成について
構成にルールはありませんが、どう書いたらいいかわからない時は、次のことを参考にしてください。「誰に、何を伝えたいか」
- ことばは、他者に思いを伝えるためのものです。考えたことやメモを元に、書き始める前に、「誰に、何を伝えたいか」を考えましょう。「伝えたいこと」は、できるだけ一つにしぼりましょう。
- 誰に……例)家族、友人、先生
- 何を伝えたいか……例)本の面白さ、感動したところ、自分の想い
- 「伝えたいこと」をしぼることで、構成を立てやすくなります。
文章の構成
- 文章は、三つのパートに分かれることが多いようです(※三段落で書かなければならないという意味ではありません)。
- 【はじめ】
- この文章で「伝えたいこと」や、あらすじを、簡単に書きます。なお、あらすじの有無を学校から指定されることもあります。
- 【なか】
- 本に貼った付せんや、考えたこと、メモを元に、「伝えたいこと」をより詳しく書いていきます。
- 物語の内容と自分の体験を交えると、「伝えたいこと」の説得力が増し、生き生きとした作品に仕上がります。
- 物語で印象に残った場面や人物について書きましょう。また、それに対しどう感じたかを書きましょう。
- 関連する自分の体験を書きましょう。「いつ、どこで、誰が、どうした」から書き始めるとよいでしょう。
- 体験は、過去の思い出だけでなく、本を読んだ後に人に聞いたことや、調べたことでもよいでしょう。
- 体験の最後には、その体験を通して学んだこと・感じたことを、物語の内容と絡めながら書きましょう。
- 学んだことを実行するのはなぜ難しいのか、そのためにはどうすればよいのかといった、より現実に根ざした内容の段落を追加すると、深みが増します。
- 【おわり】
- 「伝えたいこと」をもう一度強調し、未来につながる決意や前向きなことばで締めます。
2025年 読書感想文課題図書のページ
随時更新していきます。
大人も書いてみよう、読書感想文!
2025年青少年読書感想文コンクールの課題図書『スラムに水は流れない』(ヴァルシャ・バジャージ)を読んで、講師自身が感想文を書いてみました。
読書感想文を書こう!
対話をベースに、世界で一つの読書感想文を書き上げましょう!