【記述の壁を破る第5回】記述指導の真のゴール:「読む力」が劇的に変わる「構造読解力」と「論理的思考力」の育て方

選択肢問題はできるのに、記述問題になると鉛筆が止まってしまう――そんな悩みを解決する、体系的な記述力育成メソッドをご紹介します。

記述問題は、次の思考ステップで進みます。また、この連載も、このステップのそれぞれに対応しています。

  1. 設問の読解(第1回
    • 問われていること、条件(字数、指定)を確認する。「方向」と「ズーム」を捉える。
  2. 「幹」となる一文をイメージ(第2回
    • 語尾(根)と、シンプルな結論(幹)を定める。「手が止まる」のを防ぐ。
  3. 範囲の特定(第3回
    • 文のフレーム(状態・展開・結末など)から根拠の範囲を特定する。「内容の過不足」を防ぐ。
  4. キーワードの選定と幹の修正(第4回
    • 本文からキーワードを選び、幹を本文表現に即して修正する。「抽象度(ズーム)」を合わせる。
  5. 文章化(第5回
    • 選定した要素を幹につなげ、過不足なく伝わる文をつくる。「不自然な文」から脱却する。

連載の第1回~第4回まで、記述問題で成功するための思考のステップを見てきました。最終回となる今回は、いよいよこれまでの思考を解答文にまとめます。

すぐに煙を吐く「ポンコツロボ」に通じる文を書くには

記述の解答文は、本文を読んでいない人であっても、その内容がわかるように書かなければなりません。それを子どもたちにわかりやすく伝えるため、第2回で、採点者は一切の配慮をしない「ポンコツロボ」であるという架空の設定を紹介しました。

「ポンコツロボ」は、次のような時、すぐに煙を吐いて止まってしまいます。

  • 指示語・代名詞:「それ」「彼」など、何を指しているかがわからない時。
  • 前提情報の欠落:「〜だから。」の前に、「なぜそうなったのか」という背景が抜けている時。
  • 文法の誤り:文の主語と述語が対応していないなど、正しく理解できる文になっていない時。
  • 意味がわかりにくい:文の前半と後半の関係がわからず、何を言いたいのかがわからない時。

「ポンコツロボ」が煙を吐くような、わかりにくい文になる原因として、本来独立した文をただつなげてしまったり、キーワードを無理にねじ込んでしまったりすることが多くあります。

「ポンコツロボ」でも理解できるように書くには、展開の「フレーム」を頭の中でイメージしながら、「幹」となる一文に、自然な形で文をつなげていく必要があります(枝を生やすイメージです)。この時、文のまとまりを作ることと、まとまりのつなぎ方が鍵となります。

自然な文のつくりかた

文のまとまりを作る:文をひっくり返す

今、次のような「幹となる一文」を考えたとします。

「太郎は、次郎の話が本当かどうか、確かめずにはいられなかったから」

この一文に枝(追加の情報)をつなげていくのですが、次のような文は、採点者に意味が伝わりません。

「太郎は、次郎がうそをついたことを許すことができなくて、次郎が白い花を見たという話をしているのを聞いて、本当かどうか確かめずにはいられなかったから」

意味が通りにくい文の特徴として、「て」つなぎが多用されていることが挙げられます。本来、2つに分ける文を、「~して」と強引に一文にまとめているため、前後のつながりがよくわからないのです。

こうしたときのコツが、「文をひっくり返す」ことです。

「次郎がうそをついたことを許せなかった太郎は、白い花を見たという次郎の話が本当かどうか、確かめずにはいられなかったから」

この例では、「(A)太郎は、(B)次郎がうそをついたことを許すことができなくて」を、「(B)次郎がうそをついたことを許すことができなかった(A)太郎は 」にし、「(A)次郎が(B)白い花を見たという話をしているのを聞いて 」を、「(B)白い花を見たという(A)次郎の話が」にしています。AとBをひっくり返すことで、文の構造がわかりやすくなるのです。 

記述では、複数の一文をつなげるのではなく、あくまでも「幹となる一文」に枝をつなげるイメージを持ちましょう。

文のまとまりを作る:繰り返しを省く

「AIがすぐに答えを与えてくれ、その答えだけで満足してしまい、その答え以上のことを知ろうとしなくなるから。」

これも、意味が伝わりにくい文です。文を見ると、「答え」という言葉が3つも繰り返されています。これも、いくつかの文を強引に一文につなげているために起こります。まとまりのある文には、繰り返しはあまり現れません。逆に言えば、繰り返しをどう省くかを考えることで、まとまりのある文になります。

「AIがすぐに与えてくれる答えだけで満足してしまい、それ以上のことを知ろうとしなくなるから。」

この例では、「AIがすぐに答えを与えてくれ、その答えだけで満足してしまい 」を「AIがすぐに与えてくれる答えだけで満足してしまい 」にし、「その答え以上のこと」を「それ以上こと」にしています。

繰り返される言葉を省くことで、よりシンプルなわかりやすい文になります。 

まとまりをつなげる:情報のつながりを強める

「先生が演奏をほめてくれるだろうと期待していた直子は、先生にほめられず演奏のミスを指摘され、もうピアノをやめたいという気持ちになった。」

この文は、状態・展開・結果というまとまりを作ることはできています。しかし、情報のつながりが不十分で、不自然な印象を受けます。こうした場合、文の要素同士のつなげ方を次のように工夫します。

「先生が演奏をほめてくれるだろうと期待していた直子だったが、先生にほめられなかったばかりか演奏のミスを指摘されたため、もうピアノをやめたいという気持ちになった。 」

この例では、直子の期待とは異なる展開になったことを示すため、「期待していた直子は」を「期待していた直子だったが 」という逆接でつないでいます。また、「先生にほめられず演奏のミスを指摘され 」という箇所を、「先生にほめられないばかりか演奏のミスを指摘され 」というようにし、直子の期待をさらに裏切る展開があったことを示しています。最後に、「演奏のミスを指摘され」という箇所を、「演奏のミスを指摘されたため」 とし、原因と結果のつながりを強めています。このように書くと、文のメッセージがより自然に伝わります。

情報を「枝」としてイメージし、その枝を適切な位置に、適切な接続語を用いて、「幹」となる一文につなぐ練習をしましょう。これが、単語や文を並べるだけの「不自然な文」から脱却し、「論理的な合格答案」を生み出す技術となります。

読み直しをを必ずする

記述でなかなか点がとれない子の多くが、読み直しをしていません。読み直しは、文を書く上で、非常に重要なプロセスです。

料理が上手な人は、味見をして、しっかり味がついているか、食べる人の年齢や体質に合っているかを調節します。同じように、文章が上手な人ほど、何度も読み直しをして、違和感がないかを確かめます。

自分の意識を離れ、客観的な視点から見直す意識は、記述だけでなく、うっかりミスの防止や、適切な時間配分など、あらゆる場面で求められます。ただ、自分を客観的に捉える視点を取れるようになるには、ある程度成長を待たなければなりません。第2回でお伝えした「5秒ルール」と同じく、習慣になるまでは、声がけが必要です。特に、問題に取り組む前に声をかけてあげましょう。

記述指導の真のゴール:「読む力」が劇的に変わる「構造読解力」と「論理的思考力」の育て方

本連載を通じて、私たちは国語の記述問題にどう向き合うか、主に技術的な側面から考えてきました。しかし、記述指導の真のゴールは、単に満点を取れる答案を作らせることではありません。そのプロセスを通じて、子どもたちの「深い読解力」、すなわち「筆者の思考の構造を読み解く力」を育むことにあります。

記述問題は、その構造上、子どもに本文の「論理的再構築」を要求します。これこそが、選択肢問題では得られない、「構造読解の強化」という最大の恩恵です。

1.記述は「要約」であり、「構造の再構築」である

記述の本質は要約です。要約とは、「本文の情報を、設問の要求に応じて、論理的に再構成すること」。どの範囲を参照するか、どのくらいの抽象度でまとめるかを考えながら文をつくることによって、子どもたちは「ここは事実」「ここは意見」「ここは前提」といった本文の構造を意識できるようになります。

2.設問を「理解のガイド」に変える指導

より実践的な段階では、設問そのものを「本文理解のガイド」として活用します。よくできた国語の問題は、設問を考える過程で、自然と文章の構造やテーマを深く理解できるように設計されています。「何を問われているか」から「出題者がどの理解を試しているか」へ意識が変わることで、子どもはより能動的に文章を読み、設問に挑むようになります。

3.記述指導が生み出す「言葉の力」

記述問題を安定して解ける子の力は、次の二点に集約されます。

論理や感情の流れを構造的に把握する力
本文の要素をバラバラにではなく、文章の「展開のフレーム」として有機的に捉える力。

抽象度をコントロールする言語化能力
設問のズームに応じて、適切な抽象度の語彙を使い分け、自然な日本語で情報を整理できる力。

採点者の視点で自己点検し、文章フレームで構造を把握し、設問の意図でズームを合わせる——。記述に向き合うことは、国語の成績のためだけではありません。
それは、すべての教科の基盤となる「思考を言葉にする力」を鍛える営みなのです。

止まっている手が動き出す

記述問題が書けない子の中には、答えはわかっているけれど、書こうとしない子がいます。

「どうせできない」
「書いたら変になる」

そんな風に言う子もいます。おそらく、懸命に書いたのに、バツになってしまった経験があるのでしょう。そうして、なぜバツになってしまったのか、納得がいかないまま、苦手意識だけが育ってしまったのです。

記述問題は、一見「何を書いてもいい自由な作文」に見えますが、実際には「見えないルール」に縛られています。「記述の手順」を丁寧に追っていくことで、何ができていて、何ができていなかったのかがわかるようになります。

今回の連載が、記述問題で止まってしまった手が再び動き出すきっかけになれば幸いです。

連載目次

この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

カテゴリー: 教育コラム

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