
- 作者名:ビクター・ベルモント
- おすすめ:小学校3~4年
- ジャンル:ノンフィクション(社会)
- キーワード:人権 差別 芸術
こんな子におすすめ!
- 「なぜみんな同じものを違って見るの?」と不思議に思う好奇心旺盛な子
- 他の人の視点や考え方に興味がある子
- 絵や色、デザインに興味がある子
- 「違い」を理解し、多様性に触れたい子
- 自分とは異なる世界観を想像するのが好きな子
本の紹介
色覚に特徴のある少年トーマスが主人公の物語です。トーマスは自分の見ている世界と、家族やペットが見ている世界は違うのではないかと考えます。科学者のママ、ゲーム好きのパパ、画家のマルタおばさん、音楽家のおじさん、そして愛犬オレオ…それぞれの目を通した世界はどのように見えているのか?トーマスの想像力豊かな「見え方」の冒険を通して、私たちがかけている「目に見えないメガネ」について考えさせられる絵本です。
本の解説
『ねえねえ、なに見てる?』は2021年、スペインでもっとも歴史のある児童文学賞「ラサリーリョ賞」を受賞した作品です。著者のビクター・ベルモントはイラストレーター・デザイナーで、経営工学から視覚芸術の世界へ転身した経歴を持ちます。
本書は色覚異常のあるトーマスの視点から始まり、食卓を囲む家族それぞれの「見え方」を視覚的に表現しています。科学者のママは分子構造で世界を見る、画家のマルタおばさんはキュービスト風に世界を捉える、音楽家のおじさんは音符として世界を感じる…そして最後には犬のオレオまで。
英語版のタイトル「EYE OF THE BEHOLDER」には「人それぞれ見え方は違う」という意味が込められています。多様性と個性を尊重する大切さ、そして他者の視点を想像することで生まれる共感について、美しいイラストと共に伝える一冊です。
読書感想文のヒント
読む前に考えてみよう
- あなたの見ている世界は、お友達や家族が見ている世界と同じだと思いますか?
- もし違うとしたら、どのように違うでしょうか?
- 例えば、あなたのお母さんやお父さん、おじいちゃんやおばあちゃんは、あなたと同じものを見たとき、どんなふうに感じているでしょう?
考えを深めるための質問
- 本の中で、トーマスはどうして「みんなの見え方は違うのかな?」と考え始めましたか?
- 科学者のママ、画家のマルタおばさん、音楽家のおじさんがそれぞれ見ている世界は、どのように違いましたか?
- あなたが一番印象に残ったのは、誰の「見え方」ですか?それはなぜですか?
- あなたの家族や友達は、世界をどんなふうに見ていると思いますか?想像してみましょう。
- 「目に見えないメガネ」とはどういう意味だと思いますか?あなたはどんな「目に見えないメガネ」をかけていると思いますか?
- 人の職業や外見から、その人の考え方や価値観を想像することは、よいことでしょうか?それとも避けるべきことでしょうか?
- 「ステレオタイプ」(決めつけ)は、いけないことでしょうか?それとも必要な場面もあるでしょうか?
- 自分自身を「女の子だから」「男の子だから」「いい子でいなくちゃ」などと、決めつけて見ていることはありませんか?
考えてほしいテーマ
- 多様性
- 視点の違い
- 想像力
- 共感
- 個性
- 色覚感覚の違い
- 相互理解
- ステレオタイプ
- 固定観念
- 先入観
- 自己認識他者理解
理解を深めるために

人間の「見る」という行為は、単に目で光を感じるだけではありません。私たちの脳は、過去の経験や知識、興味関心によって、見えるものを解釈しています。例えば、空を見たとき、気象学者は雲の種類や天気の変化を、画家は色の美しさや光の表現を、宇宙飛行士は地球の外の宇宙を連想するかもしれません。
また、色覚は人によって異なります。日本人男性の約5%、女性の約0.2%に色覚異常があるといわれています。赤と緑の区別がつきにくい「赤緑色覚異常」が多いですが、これは「異常」というより「特性」という考え方が広がっています。トーマスのように色の見え方が他の人と違っていても、それは個性の一つなのです。
ステレオタイプと心のサングラス

私たちは無意識のうちに、他の人を「○○だから、きっと△△だろう」と想像することがあります。これを「ステレオタイプ」(固定観念や決めつけ)と呼びます。例えば「科学者だから論理的」「芸術家だから感情的」などです。この本では、トーマスが家族それぞれの職業や特徴から、その人の「見え方」を想像しています。
ステレオタイプは、複雑な世界を単純化して理解するために私たちの脳が使う「ショートカット」のようなものです。時には役立つこともありますが、時には誤解を生むこともあります。本当のその人を知るためには、実際に話してみることが大切です。
また、私たち自身も「女の子だから」「男の子だから」「○○小学校の生徒だから」など、自分自身を特定の「枠」に当てはめて考えてしまうことがあります。この本は、そんな「心のサングラス」について考えるきっかけを与えてくれます。
合わせて知りたい
色覚の多様性

人間の目の網膜には「錐体細胞」と呼ばれる色を感じる細胞があり、通常は赤・緑・青の3種類があります。色覚特性とは、これらの細胞の機能が一般的なものと異なる状態で、日本人男性の約5%、女性の約0.2%が持っているとされています。色の見え方に個人差はありますが、これは「異常」ではなく「特性」として理解されるようになってきました。色覚特性を持つ人がどのように世界を見ているのかを知ることで、トーマスの視点をより深く理解できるでしょう。
脳と視覚の関係
「見る」という行為は、目が光を捉えた後、脳がその情報を解釈するプロセスです。興味深いのは、同じものを見ても、人によって注目する部分や解釈が異なること。これは「選択的注意」と呼ばれ、自分の興味や専門知識によって無意識に注目対象が変わります。『ねえねえ、なに見える?』に登場する家族の「見え方」の違いは、まさにこの脳の働きを表現しています。科学者のママ、芸術家のマルタおばさん、音楽家のおじさんは、それぞれの専門性によって同じ食卓を全く違ったように「見て」いるのです。
キュービズム
キュービズム(立体派)は20世紀初頭に登場した芸術運動で、対象を複数の視点から同時に捉え、幾何学的な形に分解して表現する手法です。パブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックが中心となって発展させました。『ねえねえ、なに見える?』の中で、画家のマルタおばさんの視点はキュービズム風に描かれています。物や人が幾何学的な形に分解され、複数の角度から同時に見たような独特の表現になっているのです。キュービズムの作品を見ることで、「見る」という行為が単に現実をそのまま写し取ることではなく、解釈や表現を伴う創造的な活動であることを理解できるでしょう。
ステレオタイプと認知バイアス

「ステレオタイプ」とは、特定のグループに対して持つ一般化された考えや印象のことです。「認知バイアス」は、人間の思考や判断が特定の方向に偏る傾向です。これらは脳が情報を効率よく処理するための「ショートカット」ですが、時に誤った判断につながることもあります。本書では、トーマスが家族の職業から「見え方」を想像していますが、これを通じて多様な視点を理解するきっかけになります。子どもたちがステレオタイプや認知バイアスに気づくことで、より開かれた視点で他者を理解する力が育まれるでしょう。
自己認識と他者理解

「自己認識」は自分をどう理解しているか、「他者理解」は他の人の考えや感情を理解しようとすることです。子どもの発達段階では、4〜5歳頃から「心の理論」と呼ばれる、他者が自分とは異なる考えを持つことを理解する能力が育ち始めます。『ねえねえ、なに見える?』は、この「視点取得」能力を促す絵本です。本を読んだ後、「あなたは世界をどう見ているの?」「もし〇〇だったら、どう見えるかな?」と問いかけることで、自己と他者への理解を深めることができるでしょう。
合わせて読みたい

『りんごかもしれない』(ヨシタケシンスケ著)
あらすじ:主人公の男の子が「りんご」について考え始めます。普通に見るとただのりんごですが、よく考えてみると「宇宙からやってきた球体かもしれない」「巨人の涙かもしれない」など、想像次第でりんごの見え方はどんどん変わっていきます。同じものでも見方を変えれば全く違って見えることを、ユーモアたっぷりのイラストで表現しています。
おすすめの理由:『ねえねえ、なに見える?』と同様に「ものの見方の多様性」をテーマにしていますが、こちらはより想像力を解き放つ内容になっています。子どもたちが当たり前のものを違う視点で見る楽しさを知るきっかけになります。また、ヨシタケシンスケ特有のシュールな発想とシンプルなイラストが子どもの創造性を刺激します。物事を決めつけず多角的に見る姿勢を自然と学べる一冊です。
『もし、世界にわたしがいなかったら』(ビクター・サントス著、アンナ・フォルラティ絵、金原瑞人訳)

あらすじ:主人公の子どもが「もし自分がこの世界にいなかったら、世界はどうなっていただろう?」と考え始めます。家族、友達、通う学校、遊ぶ公園…自分がいないことで世界はどう変わるのか、そして自分の存在がどれだけ大切なものかを、美しいイラストと共に描いています。
おすすめの理由:『ねえねえ、なに見える?』と同じ翻訳者(金原瑞人氏)による作品で、個人の視点と世界との関わりを考えさせる点が共通しています。一人ひとりの存在が持つかけがえのない価値について考えるきっかけを与えてくれます。自分を大切に思う気持ちや、周りの人との繋がりの大切さを優しく伝えており、子どもの自己肯定感を育むのに最適です。
『ぼくには数字が風景に見える』(ダニエル・タメット著)

あらすじ:自閉症スペクトラムと共感覚を持つ著者が、自分の目に映る世界について綴った自伝的作品です。著者にとって数字には色や形があり、複雑な計算も風景を見るように解くことができます。独特の感覚世界と、それを持ちながら生きてきた経験が描かれています。
おすすめの理由:『ねえねえ、なに見える?』では家族それぞれの見方の違いが描かれていますが、この本では実際に特別な知覚を持つ人の内面世界を知ることができます。これは単なるファンタジーではなく実在する感覚の違いであり、多様性への理解を深めるのに役立ちます。年齢が上の子ども向けですが、「見え方」の違いを実感するのに最適な一冊です。
『みんなちがって、みんないい』(金子みすゞの詩をもとにした絵本)

あらすじ:金子みすゞの有名な詩「私と小鳥と鈴と」をもとにした絵本です。「みんなちがって、みんないい」という言葉に象徴されるように、それぞれの違いを認め合うことの大切さが描かれています。小鳥は空を飛べるけれど、私は歌が歌える。鈴は美しい音が出せるけれど、私は泣いたり笑ったりできる…一人ひとりの違いが世界を豊かにしていることを伝えています。
おすすめの理由:個性の違いを肯定的に捉えるメッセージが『ねえねえ、なに見える?』と共通しています。シンプルながらも深い言葉が子どもの心に響きます。多様性を認め合う大切さを詩的な言葉で表現しており、視点の違いを「違い」として理解するだけでなく、「それでいい」と受け入れる心を育むのに適しています。
合わせて観たい
『インサイド・ヘッド』(ディズニー/ピクサー制作)

あらすじ:11歳の少女ライリーの頭の中で働く5つの感情キャラクター(ヨロコビ、カナシミ、イカリ、ムカムカ、ビビリ)が主人公の物語です。引っ越しを機に、ライリーの心の中で起こる変化や葛藤が描かれます。感情たちはライリーの記憶や性格の形成に関わりながら、彼女の成長を支えようと奮闘します。特に、リーダー格のヨロコビと、重要な役割を担うカナシミの関係性が物語の核心となっています。
おすすめの理由:『ねえねえ、なに見える?』が「外からの見え方」の違いを描いているのに対し、『インサイド・ヘッド』は「内側からの見え方」の違いを描いています。同じ出来事でも、それぞれの感情によって全く違った捉え方をすることが視覚的に表現されており、感情や視点の多様性を理解するのに最適です。また、他人を理解するためには、その人の内側で何が起きているかを想像することの大切さも学べます。子どもが自分や他者の感情について考え、共感する力を育むのに役立つ作品です。
構成について
構成にルールはありませんが、どう書いたらいいかわからない時は、次のことを参考にしてください。「誰に、何を伝えたいか」
- ことばは、他者に思いを伝えるためのものです。考えたことやメモを元に、書き始める前に、「誰に、何を伝えたいか」を考えましょう。「伝えたいこと」は、できるだけ一つにしぼりましょう。
- 誰に……例)家族、友人、先生
- 何を伝えたいか……例)本の面白さ、感動したところ、自分の想い
- 「伝えたいこと」をしぼることで、構成を立てやすくなります。
文章の構成
- 文章は、三つのパートに分かれることが多いようです(※三段落で書かなければならないという意味ではありません)。
- 【はじめ】
- この文章で「伝えたいこと」や、あらすじを、簡単に書きます。なお、あらすじの有無を学校から指定されることもあります。
- 【なか】
- 本に貼った付せんや、考えたこと、メモを元に、「伝えたいこと」をより詳しく書いていきます。
- 物語の内容と自分の体験を交えると、「伝えたいこと」の説得力が増し、生き生きとした作品に仕上がります。
- 物語で印象に残った場面や人物について書きましょう。また、それに対しどう感じたかを書きましょう。
- 関連する自分の体験を書きましょう。「いつ、どこで、誰が、どうした」から書き始めるとよいでしょう。
- 体験は、過去の思い出だけでなく、本を読んだ後に人に聞いたことや、調べたことでもよいでしょう。
- 体験の最後には、その体験を通して学んだこと・感じたことを、物語の内容と絡めながら書きましょう。
- 学んだことを実行するのはなぜ難しいのか、そのためにはどうすればよいのかといった、より現実に根ざした内容の段落を追加すると、深みが増します。
- 【おわり】
- 「伝えたいこと」をもう一度強調し、未来につながる決意や前向きなことばで締めます。
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