【生徒作品】『わかるとは何か』(新高1 S・Nくん)


リテラでは、生徒一人ひとりの興味・関心に基づいた学びの成果を、様々な方と分かち合う場として、年に一度、『生徒作品発表会』を開催しています。生徒たちは、発表会に向けた様々な準備を通して、実践的な発表の仕方を学んでいきます。

今回は、2019年3月に行われた「リテラ 生徒作品発表会」より、新高1 S・Nくん『わかるとは何か』を掲載致します。

「わかる」ということを根本的に考えてみたSくん。人の心の機能や考える姿勢について考えるうち、より広い世界が見えてきたようです。

その他の発表動画は、「2019年3月 生徒作品発表会 発表動画一覧」をご覧ください。

作品について

講師からのコメント

ものごとの根っこを理解しようとするSくんの姿勢は、素晴らしいですね。何かがわかった瞬間、これまで見えていなかった、より大きな疑問が、目の前に広がります。それでも考え続け、「わかる」ことをくり返しながら、私たちは、世界の深さと広さを知っていくのかもしれませんね。

本人の振り返り

これはどのような作品ですか?
人が理解する時の仕組みや、知識、価値観の広げ方をテーマにした作品です。
どうしてこの作品をつくりたかったのですか?
わかるとはどういうことなのかを知ることで、物事を理解しやすくなるのではないかと思ったからです。
作品づくりで楽しかったことは何ですか?
思考する際、自分の知識を通して見ていると知り、不思議に思いました。
作品づくりで難しかったことは何ですか?
理解に関係する性格・価値観を、どのようにして養えばいいかを考えた時です。
作品作りを通して学んだことは何ですか?
理解する時に、自分の知識や価値観を通して判断をしていると知り、自分に足りないものが分かりました。
次に活かしたいことや、気をつけたいことはありますか?
できるだけ聞いている人が分かりやすいように、原稿の他に、発表中の姿勢や態度にも気を配りたいです。
来年、研究したいことはありますか?
記憶の仕組みです。
この作品を読んでくれた人に一言
今回の研究で、本を読むことの大切さに、改めて気づきました。考え続ける姿勢は、生活の上でとても大事なので、皆さんもぜひ活用してください。

生徒作品

新高1 S・Nくん 『わかるとは何か』

僕は、読書や、読解文を解く際、内容を理解するのが、難しいと感じます。どのようにしたら、理解力は上がるのでしょうか。今回、僕は、理解するということ、つまり、「わかる」とは何かを、考えていきました。

研究は、思考に関する資料をもとに、進めました。

まず、「わかる」過程で、最も重要になってくる、思考について説明します。「思考」という言葉は、みなさんも聞いたことがあると思いますが、実際はどういう意味なのでしょうか。思考とは、自分が持っている知識と、対象の情報とを比べ、同じか違うかの認識を行い、その結果として、理解や判断をもたらす何らかのメッセージを得ることです。たとえば、友達が泣いていたとします。それを見た自分は、友だちが泣いているという情報と、人は悲しい時に泣く、という、すでにある知識を比べます。そして、友達は悲しんでいる、というメッセージを得ます。その結果、なぐさめるという行動が、今自分がするべき行動だと判断し、実際の行動に至るのです。

思考には、自分が持っている知識や、価値観も、大きく関わっています。たとえば、その友達は、ちょっとしたことですぐに泣いてしまう、という知識を持っていたり、悲しんでいたとしても、泣くのはよくないことだ、という価値観を持っていたとしたら、その後の判断や行動も、大いに変わってきます。つまり、同じものを見ても、思考の結果は、人によって変わってしまうのです。これを、思考の属人性と言います。「思考の属人性」には、知識の属人性と、性格・価値観の属人性の二つがあります。この二つについて考えることで、よりよく考えるには何が必要かが見えてきそうです。

それでは、まず、「知識」について見ていきましょう。先程、私たちは、考える際に、もともと持っている知識と、対象の情報を比べると述べました。しかし実際には、意識して比べているというよりは、新しく入ってきた情報を、知識の枠組みを通して、自動的に認識しているのです。この知識の枠組みを、スキーマと言います。スキーマには、一つ一つの知識や情報をつなぎ合わせ、まとめたり、取捨選択をしたり、まだ知らない未確認の内容を予測したりするなどの役割があります。例えば、次の文章を読んでみましょう。

「その手順は、とても簡単である。はじめに、ものをいくつかの山に分ける。もちろん、全体量によっては、一山でもよい。これで準備完了である。一度にたくさんしすぎないことが肝心である。多すぎると、めんどうなことになりかねない。そうしなければ、高くつくことにもなる。最初は、こうした手順は複雑に思えるだろう。でも、すぐに生活の一部になってしまう。手順が終わったら、再びものを適切な場所に置く。それらはもう一度使用され、またこのサイクルが繰り返される。」

何のことを言っているのか、わかりますか? これは、「洗濯」のことを説明している文章です。「洗濯」のスキーマを活性化した状態、つまり、洗濯についての知識の枠組みを通して読むと、先程より、よく「わかる」と思います。多くの知識を持つということは、このような知識の枠組みを増やし、蓄えておくということです。知識の枠組みが増えるほど、様々なものを解釈し、理解できるようになります。つまり、よりよく考えるためには、より多くの知識のつながりが必要であるということです。

次に、思考を左右する、性格・価値観の属人性について考えてみましょう。先程述べたように、同じものを見たとしても、性格や価値観の違いによって、判断が変わってきます。特に、僕たち人間は、問題について、ある程度理解したところで、何となくの答えを断定してしまうことがあります。これでは、たとえ多くの知識を持っていたとしても、全く意味がありません。ではどうしたらいいのでしょうか。ここで最も大事なのが、常に考える習慣を持つということです。物事をある程度理解したとしても、それを断定するのではなく、一時的な結論、つまり仮説を持ち、本当にそれで合っているのか、なぜそのようになるのかと考え、その根拠を求め続けます。それによって、自ら考える姿勢を、自ずと持てるようになります。

しかし、自ら考え続ける人になるためには、いくつかの段階があります。その段階を示すものとして、「ペリーの認知的発達段階説」を紹介します。生徒が学習に期待するものを、発達段階の観点から分けたもので、「絶対主義段階」「相対主義段階」「評価主義段階」「コミットメント段階」に分かれます。簡単にまとめると、最初の「絶対主義段階」では、生徒は、知識は絶対に正しいと信じ、勉強の目的は知識を身につけるものであると考え、テストに出る知識を、教科書通りに教えてほしいと感じます。この点は知識を表していますが、それぞれがまだつながっていません。次の「相対主義段階」では、知識は必ずしも正しいわけではないことや、自分でその関連性を考え、誰もが自分なりの意見をつくり、平等に述べることができると感じます。知識がつながり、意見ができますが、どの意見も正しいと感じてしまいます。さらに、「評価主義段階」では、知識の正しさは文脈によると考え、意見は、論理や証拠で支えられなければならないと感じます。つまり、多様な意見を認めつつ、論理や証拠によって、その確かさが評価できるようになります。最後の「コミットメント段階」では、自分の価値観を作り出したり、人生の選択をしたりするために、学び、情報を統合し、活かしていきたいと感じます。この段階で、「自ら考え続ける」ことができるようになると言ってもよいでしょう。

この仮説は、私達はなぜ勉強をするのか、という問いへの答えを示唆します。皆さんの中には、親に言われて、いやいや勉強している人がいるかもしれません。しかし、学び考え続けることは、自分の価値観を持ち、自分の人生を選択していくことにつながるのです。さて、僕は、文章をよりよく理解するために、何が必要なのでしょうか。まず、たくさんの作品に触れ、様々な言葉を知るとともに、知識の枠組みであるスキーマを、たくさん作ることが必要です。また、本の内容を、ただ知識として得るだけでなく、それを自分の価値観に組み込んでいく姿勢も、大切です。

今回の研究を通して、僕は、理解することを理解するのは、難しいと感じました。しかし、学ぶ理由を知るためにも、様々なことを理解し続けたいと思います。皆さんも、今回発表したことを、自分の学びを考えるきっかけにしてくれたら嬉しいです。

これで発表を終わります。聞いてくださって、ありがとうございました。

この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

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カテゴリー: 生徒作品

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