【記述の壁を破る 第1回】記述は「作文」ではない! 子どもが陥る「見えないルール」の正体

選択肢問題はできるのに、記述問題になると鉛筆が止まってしまう――そんな悩みを解決する、体系的な記述力育成メソッドをご紹介します。

はじめに:なぜ「選択肢はできるが記述はできない」のか? 〜記述問題の「見えないルール」

「選択肢問題は正解できるのに、記述問題になると鉛筆が止まってしまう」
「やっと書き上げたと思ったら、『内容が不十分』と赤ペンが入る」
「本文の言葉をつなぎ合わせただけで、何を言いたいのか分からない文になっている」

――そんなお悩みを抱えるご家庭は少なくありません。

国語の読解問題で乗り越えなければならない壁のひとつが、「選択肢問題はできるのに、記述問題になると手が止まってしまう」ことです。

熱心に読書をしている子でも、記述問題を安定して解ける子は多くありません。その理由のひとつは、記述問題の性質にあります。

子どもたちは、記述問題を見ると「何を書いてもいい自由な作文」と捉えてしまいがちです。しかし、実際はそうではありません。記述問題は、一見自由に見えて、実際には採点基準という「見えないルール」に縛られています。この「自由に見えて不自由」な構造が、回答者(生徒)と採点者(出題者)の間にズレを生み、子どもたちの混乱と苦手意識を生むのです。

この連載の目的は、そのズレを埋め、「記述の手順」を体系化することです。

記述の壁を越えるための思考法:国語記述力 5つのステップ

記述問題は、次の思考ステップで進みます。また、この連載も、このステップのそれぞれに対応しています。

  1. 設問の読解(第1回
    • 問われていること、条件(字数、指定)を確認する。「方向」と「ズーム」を捉える。
  2. 「幹」となる一文をイメージ(第2回
    • 語尾(根)と、シンプルな結論(幹)を定める。「手が止まる」のを防ぐ。
  3. 範囲の特定(第3回
    • 文のフレーム(状態・展開・結末など)から根拠の範囲を特定する。「内容の過不足」を防ぐ。
  4. キーワードの選定と幹の修正(第4回
    • 本文からキーワードを選び、幹を本文表現に即して修正する。「抽象度(ズーム)」を合わせる。
  5. 文章化(第5回
    • 選定した要素を幹につなげ、過不足なく伝わる文をつくる。「不自然な文」から脱却する。

第1回では、すべての前提となる「設問の読解」について解説します。

記述の出発点:設問の読解

国語でなかなか点数が伸びない子の解き方を観察していると、実は「設問を読んでいない」ということがよくあります。たとえば、次のような問題があったとします。

「「その希望は太郎の話によって、みごとに打ち砕かれてしまった」とありますが、どういうことが打ち砕かれたのですか。四〇字以内で具体的に説明しなさい」

こうした問題で起こりがちなミスを挙げます。

  • 太郎の話の内容を書いてしまう
  • 「打ち砕かれた」理由を書いてしまう
  • 答えになりそうな箇所を本文から抜き出そうとして答えられない
  • 具体的な説明ではなく、抽象的な説明になってしまう

この問題で聞かれているのは、「その希望」とは「どのような希望なのか」ということです。つまり、「その」という指示語が指している内容を具体的に書くというのが、答えの「方向」と「ズーム」になります(「方向」「ズーム」については第2回・第3回でくわしく解説します)。

「その」という指示語が指している内容を具体的に書くというのが、答えの「方向」と「ズーム」になる

ここで挙げたようなミスは、「太郎の話」「打ち砕かれて」といった短いワードによく考えずに反応してしまうことや、自分で文章を考えることを避けようとする姿勢から生まれます。

ご家族や友人など、誰かに何かを聞かれた時、まずはその質問の内容を理解しなければなりません。そして、相手の知りたいことに沿って、回答を組み立てます。テストの問題も同じです。誰かが何かを知りたくて、その問題を作ったのです。まずは問題(設問制作者)とコミュニケーションをとり、「方向」(何を答えるか)と「ズーム」(どう答えるか)を捉えることが、すべての出発点になります。

【実践アドバイス】

設問に線を引く

本文だけでなく、設問に線を引くことも、問題とのコミュニケーションに慣れていないうちは有効です。上記の例では、「どういうこと」「四〇字以内」「具体的に」といった、解答の内容や条件に関するところに線を引くと、見落としがなくなります。

解答の内容や条件に関するところに線を引く

指定された文の書き方を捉える

記述では、次のような文の指定があります。

  • 「抜き出しなさい」:本文からそのまま解答となる箇所を抜き出します。習っていない漢字であっても、そのまま書きます。
  • 「文中の言葉を使って」:複数の文から言葉をつなげてまとめます。抜き出しではないことに注意が必要です。使う言葉に印をつけ、つなげていきます。
  • 「説明しなさい」など:一見どのように書いてもいいように感じられますが、基本的には、文中の言葉を使います。ただし、それだけではうまく解答できない場合は、心情や意味内容などを表す言葉を自分で考える必要があります。

こうした指定は、読み飛ばさないようにしましょう。

【サポートのポイント】

問題の読み飛ばしを防ぐ

問題をよく読まずに出てくる言葉に反応して答えてしまうというミスは、国語に限らず、算数・数学の文章題など、さまざまな場面で起こります。特に、時間に追われるテスト中は焦りもあるため、普段からしっかりと問題を読む意識を育んでおくことが重要です。まずは「音読」がしっかりとできているかを確認しましょう。本文だけでなく、設問も含めて、一緒に音読をしましょう。その後、設問の解答の内容や条件に関するところに線を引く練習をしましょう。

学習を評価する物差しを変える

受験期では、計算問題や知識問題のように、スピードが評価される学習スタイルのみでは通用しなくなります。「結果」だけではなく、しっかりと内容を理解しているか、思考のプロセスは適切かといった、取り組みの「過程」を重視し、評価する声がけのしかたが大切になります。「よくできたね」「いい結果だね」だけでなく、「時間配分を工夫したんだね」「落ち着いて読めたね」といった、過程を評価する褒め方を意識しましょう。

次回:「手が止まる」を解決! 文章の「根」と「幹」を定める

記述問題の第一歩は、設問の読解であることを見てきました。しかし、設問が読めても、自分で文を作る段階になると、手が止まってしまう子は多くいます。

次回は、その壁を越えるため、記述における文章の「根」と「幹」を定めるコツを紹介していきます。

連載目次

この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

カテゴリー: 教育コラム

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