【記述の壁を破る 第4回】記述の成否は「ズーム」と「キーワード」で決まる! 設問の条件と解答欄で決める情報の「抽象度」

選択肢問題はできるのに、記述問題になると鉛筆が止まってしまう――そんな悩みを解決する、体系的な記述力育成メソッドをご紹介します。

記述問題は、次の思考ステップで進みます。また、この連載も、このステップのそれぞれに対応しています。

  1. 設問の読解(第1回
    • 問われていること、条件(字数、指定)を確認する。「方向」と「ズーム」を捉える。
  2. 「幹」となる一文をイメージ(第2回
    • 語尾(根)と、シンプルな結論(幹)を定める。「手が止まる」のを防ぐ。
  3. 範囲の特定(第3回
    • 文のフレーム(状態・展開・結末など)から根拠の範囲を特定する。「内容の過不足」を防ぐ。
  4. キーワードの選定と幹の修正(第4回
    • 本文からキーワードを選び、幹を本文表現に即して修正する。「抽象度(ズーム)」を合わせる。
  5. 文章化(第5回
    • 選定した要素を幹につなげ、過不足なく伝わる文をつくる。「不自然な文」から脱却する。

第4回となる今回は、記述の核となる、キーワードの選定と幹の修正について見ていきます。

はじめに:方向が合ってもズレる理由! 記述を分ける「抽象度(ズーム)」とは

前回までに、記述問題の解答作成では、その文章が持つ展開のフレームを意識しながら、問われている範囲を要約することが大切であることを解説しました。しかし、生徒の答案の良し悪しを分けるもう一つの決定的な要因があります。それが「抽象度(ズーム)」のコントロールです。

望遠鏡で遠くを見るときのことを想像してください。私達は、まず望遠鏡の「方向」を合わせます。そして、レンズを調節して「ズーム」を合わせ、より広い範囲を見るか、より細部を見るかを決めます。

記述では、「方向」と「ズーム」は次のように対応します。

  • 「方向」:設問が問うている内容(解答の核)
  • 「ズーム」:解答に求められている抽象度(具体的か、抽象的か)

方向が合っていても、ズームがずれていれば正答にはなりません。情報過多や情報不足の多くは、このズームのズレによって引き起こされます。このズームを合わせるためのヒントは、「設問そのもの」に隠されています。

1.設問の条件文から求められる「ズーム」を捉える

設問では、採点者が「どのレベルの理解を求めているか」を、条件を通じて示しています。記述においては、これらの条件をしっかりと捉えることが大切です。

設問の条件:求められる抽象度(ズーム)

「簡潔に」「まとめて」「どういうことか」

高い抽象度が求められています。本文の主題や主張を抜き出し、「まとめる言葉」で短く要約します。具体的な事例はできるだけ省きましょう。

「具体的に」「詳しく」「どんなことか」

低い抽象度が求められています。具体的な行動、事例、数字、引用など、本文の細部に焦点を当てて説明します。なお、低い抽象度であっても、合格答案は「要約」であるという原則を徹底しましょう。ほとんどの記述問題が求めるものは破綻しない長さの一文であり、本文よりも長く記述する必要は、原則としてありません。幹となる一文をイメージし、設問のズームに応じて、情報の取捨選択を行う練習が必要です。

実践例:ズームがずれた答案の添削

情報過多(ズームした範囲が狭すぎて、全体像が見えない)

設問
「筆者が宇宙開発に携わりたいと思うようになったきっかけを、簡潔に説明しなさい」

ズームがずれた答案
「父親に連れて行かれた天体観測で、点滅せずに宇宙を進んでいく国際宇宙ステーションのあかりを見たから」

設問の条件「簡潔に」を無視し、具体的なエピソードのみを記述してしまったため、設問が求めている答えとずれています。具体例ではなく、筆者の考えや感じたことが簡潔に述べられた範囲を参照します。

情報不足(ズームした範囲が広すぎて、細部が見えない)

設問
「筆者が宇宙開発に携わりたいと思うようになったできごとを、具体的に説明しなさい」

ズームがずれた答案
「境界を越えていく人の力に感動したから」

設問の条件「具体的に」を無視し、抽象的な説明をしてしまったため、設問が求める答えとずれてしまいました。具体例や実際の行動などが書かれた範囲を参照します。

2.解答欄のサイズで「情報量の上限」を逆算

ズームを調整するもう一つの具体的なヒントは、解答欄の大きさです。

解答欄が大きい場合
文章の「展開フレーム」(物語文の状態・展開・結末や、説明文の背景・意味づけ・事例)の複数の要素を含むものと想定し、情報量を増やして説明する。

解答欄が小さい場合
 最も重要な「核となる一文」(高い抽象度)のみを求められている可能性が高いため、簡潔な文を作る。

解答欄のサイズは「設問者が許容している情報量の上限」です。物理的な制約から逆算して、要約のレベルを決めましょう。

3. キーワードを捉え、「幹となる一文」を修正する

参照する範囲がイメージできたら、そこから、記述に含める「キーワード」を考えます。記述問題の採点者は、事前に決められたキーワード(またはそれに類するワード)が含まれているかどうかで、加点方式で点数をつけます。ですから、「キーワード」の選定は、点数に直接関わる重要なポイントです。

キーワードの多くは、文中に含まれています。まずは、心の中で作った「幹となる一文」(くわしくは第1回をご覧ください)の内容について、文章の言葉に置き換えることができるかを考えましょう。

設問
「「祖父をどうしても好きになれなかった」とありますが、なぜですか。」

修正前(心の中で作った「幹となる一文」)
「祖父が何を考えているのかわからなかったから」
 ↓
修正後(文中のキーワードで置き換えた文)
「祖父には得体の知れないところがあったから」

「幹となる一文」の修正は、解答文を作っていく前の重要なステップですので、忘れないようにしましょう。

文中にキーワードがある場合/ない場合のメモ

文中にキーワードがそのまま書かれている場合は、キーワードを◯で囲んだり、線を引いたりしましょう。後で「幹となる一文」に枝をつけて文章を作る過程で、大切な目印になります。

文中にキーワードがない場合は、自分でワードを作る必要があります。記述のほとんどは要約ですから、作るワードは抽象的な「まとめる言葉」になります。考えたワードは、欄外にメモをしておくと、文を作る際に役立ちます。

キーワードより「幹となる一文」のイメージが先

設問を読んだ後、「幹となる一文」をイメージせずにキーワードを探してしまう子がいます。答えの方向や参照する範囲を意識せず、それらしい単語をつなげてしまうと、自分がなぜその答えにしたのか、また、なぜその答えが合っていたのか/間違っていたのかがわからなくなります。探し物は探すものを頭に思い浮かべながらするように、キーワードを探すのは、あくまでも、自分の中に答えのイメージを作ってからにしましょう。

【実践アドバイス】

文章にマークをつける

キーワードを◯で囲んだり線を引いたりすると、文章を作る過程で役立つことは、先程述べた通りです。その他、本文中の次のような箇所にもマークをつけると、読み直したときにわかりやすくなります。

【物語文】

人物の名前
名前など、人物を表す語を◯で囲みます。こうすることで、登場人物や最初の状況の見落としを防ぐことができます。

感情や考えを表す言葉
「うれしかった」「待ち遠しかった」などの気持ちを表す言葉や、内面の考えなどを表す言葉を◯で囲みます。人物の気持ちの流れを追う際に役立ちます。

象徴的なアイテム(キーアイテム)
物語文では、クラスの絆を表す「バトン」や、不安と安らぎを表す「水」など、象徴性を帯びたものが登場します。これらの「キーアイテム」は、テーマを読み解く鍵となりますので、◯で囲んでおくとよいでしょう。

【説明文】

「具体・抽象」の言葉

「つまり」「このように」
具体例から、抽象的な内容に移る際の接続語です。語の上に「▽」(横書きなら▷)などのマークなどをつけるとよいでしょう。

「たとえば」など
抽象的な内容から具体例に移る際の接続語です。語の上に「△」(横書きなら◁)などのマークをつけるとよいでしょう。

「理由・結果」の言葉

「だから」「そのため」
理由から結論を導く際の接続語です。語の上に「↓」(横書きなら「→」)などのマークをつけるとよいでしょう。

「なぜなら」
結論から理由を述べる際の接続語です。後の上に「↑」(横書きなら「←」)などのマークをつけるとよいでしょう。

【物語文・説明文 共通

たとえの表現
「まるで~のようだ」などのたとえの表現に線を引きます。比喩(たとえ)は、筆者が印象的に表現したいところで使われます。なお、「彼は歩く辞書だ」のように、「ような」が使われない比喩表現もあります。また、天気(雷や朝日など)を通して、その時の気持ちを表現することもあります。

マークはあくまでもサポートと考える

マークはあくまでも読解のサポートであり、マークをつけること自体が目的ではありません。細かくマークをつけたとしても、第3回で述べた「包括的読解」(個々の段落を越えて文章全体のテーマを読み取ること)ができなければ、深く読めていることにはなりません。

マークをつけた後は、改めてより広い視野を持って文章の流れを確認しましょう。また、マークをつけなくても大丈夫、という場合は、無理にマークをつける必要はありません。

【サポートのポイント】

キーワードとなる「まとめる言葉」を思いつかず、手が止まってしまう

キーワードは抽象的な「まとめる言葉」になることが多いのですが、文中にそうしたキーワードがない場合は自分で言葉を考える必要があります。この時、とにかく文中の言葉をつなげて答えればよいと考えてしまう子は、手が止まって、どうしたらいいのかわからなくなってしまいます。

書き抜きの姿勢から、自分で文を考える「記述」の姿勢に切り替えることはもちろん、適切な「まとめる言葉」、すなわち抽象的な語彙があることが重要になります。こうした抽象的な語彙は、日常の話し言葉ではあまり出てこないため、本や新聞などの文章を読むことが大切になります。

語彙が思いつかないことが多い場合は、説明的な本や新聞記事などを読む習慣をつけましょう。読み慣れていない場合は、一緒に同じ本や記事を読んであげて感想を言い合うなど、読むことを楽しめるよう伴走してあげましょう。

いよいよ解答文の作成へ

設問で求められている抽象度(ズーム)を意識しながら、キーワードの選定と、幹となる一文の修正をする過程について見てきました。最終回となる第5回では、これまでの記述の流れを確認しながら、いよいよ解答文の作成に入ります。

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この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

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