
選択肢問題はできるのに、記述問題になると鉛筆が止まってしまう――そんな悩みを解決する、体系的な記述力育成メソッドをご紹介します。
記述問題は、次の思考ステップで進みます。また、この連載も、このステップのそれぞれに対応しています。
第3回となる今回は、過不足のない解答文を作るための考え方を見ていきます。
はじめに:記述の「過不足」問題に終止符を! 文章フレームが解決の鍵
前回、記述問題では「根」(語尾)と「幹」(根につながるシンプルな一文)を先に決めることが大切であることを解説しました。根と幹があれば、子どもたちは記述の方向性を見失わなくなります。
しかし、次に立ちはだかる壁が「内容の過不足」です。
「内容が足りないと言われたが、どこが足りないのだろう」
「内容が多すぎて、言いたいことがまとまっていないと指摘された」
こうした過不足は、文章の種類(物語文か説明文か)によって、展開の「フレーム(枠組み)」が異なるために生じます。記述問題の解答作成とは、本文の情報を、その文章が持つフレームに沿ってまとめ上げる作業なのです。
今回は、枝をつけることの前提となる、文章の「展開のフレーム」と、記述内容の情報源となる参照範囲の特定について見ていきます。
1.物語文のフレーム:感情・行動の理由をもれなく説明する「状態 → 展開 → 結末」
物語文の記述問題で最も多く問われるのは、「人物の感情や行動の理由」です。
子どもたちがよくするミスは、「直接的な原因」のみで答えを完結させてしまうことです(例:「約束を破られたから」)。しかし、第二章で登場した「ポンコツロボ」(一切の配慮をしない架空の採点者)は、その人物がなぜその約束をそこまで重視していたのかという前提(状態)を知りません。
物語文の合格答案に必要なのは、以下の3つの要素を過不足なく含むフレームです。
物語文のフレームと意味

- 【状態】 前提となる状況や設定。人物の性格、それまでの努力、置かれた立場など。感情や行動が生まれる背景を示す。ここを省くと「情報不足」になりやすい。
- 【展開】 直接的なきっかけや出来事。誰かの発言、予期せぬアクシデントなど。感情や行動を引き起こした原因を示す。「幹となる一文」の直接的な根拠。
- 【結末】 出来事の結果、人物がどうなったか、どう感じたか。設問の起点になりやすい。
たとえば、登場人物の行動の理由を問う次のような設問があったとします。
「太郎が混乱してしまった理由を具体的に説明しなさい」
この設問に対し、次のような回答があったとします。
「先生に、リレーに勝つことよりも仲良く練習しろと言われたから。」
これは直接的な「展開」の部分のみで、十分な内容とは言えません。合格答案では、次のように、状態 → 展開 → 結末をそろえる必要があります。

「運動会のリレーでクラスが勝つために意気込んで練習していたのに(状態)、先生にリレーに勝つよりも仲良く練習をすべきと言われ(展開)、どうすればよいのかわからなくなったから(結末)。」
2.説明文のフレーム:主張と事例の関係を整理する「抽象 ↔ 具体」の論理構造
説明文の記述問題は、「筆者の主張(抽象的な意味)」と「それを裏づける具体的な事例」の関係性を問います。本文は、抽象的な主張と具体的な事例が交互に現れる「抽象 ↔ 具体」の構造を持っています。
説明文で求められるフレームは、以下の要素の適切な組み合わせです。
説明文のフレームと意味

- 【背景】 主張が生まれる時代や社会の状況。前提となる事実。主張の重要性につながる。物語文の「状態」に相当。
- 【抽象的な意味づけ】 筆者の意見、主張、テーマ。「〜ということ」「〜という点」でまとめられる内容。記述の「ズーム」(抽象度)が合う中心点。
- 【具体的な事例】 比喩、データ、実例、歴史的事実など。抽象的な主張を具体的に補強する要素。
たとえば、コミュニケーションについて論じた説明文で、次のような設問があったとします。
「「私達は多様な顔を持つ」とありますが、どういうことですか。簡潔にまとめなさい」
この設問に対し、具体的な事例が書かれた段落を参考に、次のような解答を書いたとします。
「私達が、家と学校によって言葉遣いを変えたり、人によって話す内容を変えたり、目的によって話し方を変えたりすること」
この解答は、あくまで本文の「具体的な事例」の要約に過ぎません。しかし設問は、その事例が示す「抽象的な意味づけ」を求めています。「ポンコツロボ」は、これらの事例(言葉遣いを変えるなど)から、「場面に応じてスタイルを変えること」という抽象的な意味を読み取ってくれないため、筆者の抽象的な言葉を使ってまとめる必要があります。

「私達が、場面に応じてコミュニケーションのスタイルを変えていること」
記述のほとんどは「要約」である:設問の要求から「参照範囲」を見極める
記述の多くは「要約」
記述のほとんどが、要約です。行動の理由であれば、その行動に至るまでの状態や感情の流れをまとめます。また、筆者の主張であれば、それが書いてある段落から要点をピックアップします。重要なことは、どの範囲をどのくらいの抽象度でまとめるか、という見極めです。問題によって、展開のフレームのすべての要素を含めなければならないわけではありません。しかし、文章の展開のフレームを捉えることで、どの要素の範囲を参照するかを、意識的に考えることができるようになります。
指示語の問題のポイント
記述問題では、指示語の内容を問う次のような問題がよくあります。
「「そのことは、私の人生に大きな影を落としたと思う」とありますが、「そのこと」とはどのようなことですか。具体的に書きなさい」
こうした指示語の問題では、より限定した範囲が対象となるため、展開のフレームというより、指示語の指す内容を追っていく必要があります。
指示語の内容はその直前に書かれていることが多いため、まずはその指示語の直前をチェックするのがセオリーです。ただし、記述になるような問題の場合、指示語の先にさらに指示語があってどんどん追っていく必要があったり、指示語が指しているのが段落全体であったりします。

解答が「書き抜き」ではない場合、まず頭を「記述」に切り替えることが大切です。指示語が指している範囲を定めた後は、改めて「幹となる一文」のイメージをつくり、文章にしていくステップに進みます。
【実践アドバイス】
文章全体の構造を読み解くには

読解には、段落単位の理解である「部分的読解」と、文章全体からテーマやメッセージをとる「包括的読解」があります。
「包括的読解」に関わる問題は、より広い範囲の情報を必要とするため、配点が高い傾向があります。本文を読むとき、「ここは事実」「ここは意見」「ここは前提」といったように、展開のフレームを意識しながら読むことが、全体を一つのまとまりとして読む「包括的読解」につながります。
物語文の「包括的読解」のポイント
物語文では、すべての前提となる「状態」を見落とさないことが大切です。主人公がどのような状況なのか、何を望んでいるのかといったことを正確に捉えるようにしましょう。特に、物語の途中から抜粋された文章の場合、それがわかりにくことがあります。本文の中に散りばめられた情報から推測するようにしましょう。
また、最初の「状態」と「結末」を比べ、人物がどのように変化したのかが、「テーマ」を考えるヒントとなります。
例えば、「ただ知識として原爆の被害を知っていた」(状態)主人公が、「実際の被爆者との出会いを通して」(展開)、「一人ひとりに人生があったと実感した」(結末)という物語があったとします。この時、状態と結末を比べて浮かび上がってくるテーマは、「実感の持つ力」といったようになります。

説明文の「包括的読解」のポイント
説明文では、論理的な内容の場合、「背景」「抽象的な意味づけ」「具体的な事例」は、それぞれ異なる段落に書かれます。この時、段落の「最初の一文」(トピックセンテンス)と「最後の一文」(コンクルーディングセンテンス)に注目すると、各段落の持つ意味がわかりやすくなります。

ただ、随筆文など、要素ごとに明確に段落が分かれていない文章もあります。この場合は、より注意して、各要素を読み分けていく必要があります。
【サポートのポイント】
情報の「範囲」が特定できない場合
記述の「幹」となる一文(結論)は考えられたものの、その根拠となる本文の範囲を特定できず、どこから情報を集めていいかわからなくて手が止まってしまったり、関係ない情報まで含めて書きすぎてしまったりすることがあります。特に、問われている内容が本文に点在している(例:物語文の「状態」が複数箇所に書かれている)場合に、こうしたことが起こりやすくなります。
範囲の特定が苦手な場合、「この段落は『状態』だね」「ここは具体的な『事例』だね」といったように、一緒に本文を読み、展開フレームの各要素がどこにあるかを一緒に探したり、簡単なメモを振ったりする練習をしましょう。
ズームの調整:どのくらいの抽象度で書くか
今回ご紹介した展開のフレームを、すべての記述問題に含めなければならないわけではありません。しかし、フレームを意識することで、どの範囲を、どのくらいの抽象度で書くかという、「ズームの調整」ができるようになります。
次回は、この「ズームの調整」の仕方を見ていきます。






