【講師コラム】大人も書いてみよう、読書感想文
こんにちは、リテラ「考える」国語の教室の講師、黒木里美です。
2025年青少年読書感想文コンクールの課題図書『とびたて!みんなのドラゴン 難病ALSの先生と日明小合唱部の冒険』(オザワ部長)を読んで、わたし自身が感想文を書いてみました。

本を読んだときに湧き上がってきた思いを形にしたくて書いたものです。 これは決して子どもたちの「見本」になるようなものではありません。
むしろ、一人の大人として本と向き合い、自分自身の経験と重ね合わせて書いた素直な感想です。 でも、この感想文を読んでくださった方々が、「読書感想文ってこんな風に書いてもいいんだ」と感じていただけたら嬉しいです。大人の本音の感想が、子どもたちが自分の言葉で書くためのヒントになれば、という願いを込めています。
ぜひ、保護者の皆さん、読書感想文を指導される先生方も、一度子どもたちと同じ本を読んで感想文を書いてみませんか? 子どもたちと一緒に「書く」体験をすることで、新たな発見があるかもしれません。それでは、私の読書感想文をご覧ください。
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『とびたて!みんなのドラゴン』を読んで 〜 心の中のドラゴンを育てる教育の力 〜
『とびたて!みんなのドラゴン 難病ALSの先生と日明小合唱部の冒険』は、福岡県北九州市の日明小学校で実際にあった出来事をもとにしています。ALSという難病と闘いながらも合唱部の顧問として子どもたちと向き合った竹永先生と、内気で人前で話すことができないマナミをはじめとする個性豊かな合唱部員たちの1年間の挑戦を描いています。
本との出会い
読書感想文の指導をしている私にとって、夏は特別な季節です。多くの子どもたちが「先生、何を書けばいいんですか?」と尋ねてくる季節。そんな時、いつも私は「あなたの心が動いた場面を中心に書くといいよ」とアドバイスしてきました。
『とびたて!みんなのドラゴン』を読み終えた後、私の頭の中には一つの疑問が浮かびました。「もし私が竹永先生だったら、ALSという難病を抱えながら、子どもたちの前に立つ勇気を持てただろうか?」
『僕のドラゴン』と私の教室での日々
物語の中心にある合唱曲『僕のドラゴン』の描写は、特に印象に残りました。
「主人公の少年の心の中には秘密の泉があり、そこにはドラゴンがひっそりと棲んでいる。少年が悲しみやさびしさ、苦しさをがまんしたとき、誰かにやさしくできたとき、がんばったとき、そのドラゴンは大きく成長する。少年はいつかドラゴンの背中に乗って空に浮かぶ雲を飛び越えることを夢見る…」(P.66)
この言葉を読んだとき、昨年夏に出会った一人の中学生のことを思い出しました。彼女は「読書感想文が書けなくて困っている」と教室を訪ねてきました。彼女が選んだのは『走れメロス』でした。「好きな本なんだけど、どうして好きなのかがわからない」と彼女は言いました。
あらすじをまとめるところから始めた彼女は、1時間ほど経ったところで「王様と自分が少し似ているかも」とぽつりと言いました。「人を信じられなくなった時期があって……。不登校だったことがあるんです」と。過去のいじめ体験から人を信じられなくなった彼女が、一人の友人との出会いで再び前を向けるようになった経験を、静かに語り始めたのです。
彼女の書いた感想文には「グループに入ることよりも、一人ひとりと信じ合うことの方が、私にとって大切なんだと気づいたのです」という言葉がありました。この言葉を読んだ時、ぐんと成長した彼女の心を感じ取ることができました。
マナミの変化に見る自分の姿
『とびたて!みんなのドラゴン』の中で、私が最も心を動かされたのは、内気なマナミが少しずつ自分の声を見つけていく過程でした。彼女は「自分を変えたい」という強い思いから合唱部に入部します。そして、竹永先生や仲間たちとの関わりを通して、徐々に自分の声を取り戻していきます。
私はここに、読書感想文を通して自分の言葉を見つけていく子どもたちの姿を重ねました。特に、あの中学生の姿とマナミの姿は鮮やかに重なります。二人とも、他者との関わりを通じて自分の内なる力を見出していったのです。
P139に書かれた竹永先生の「もう上手に歌うとか、金賞をとろうとか、考えんでいいけんね。最初から目標にしていたとおり、日本でいちばん明るく、日本でいちばん元気に、日本でいちばんこころをこめて歌おう。日明小にしかできない歌声を観客席に届けよう」という言葉に、私は深く共感しました。
以前から、読書感想文の指導において「その子にしか書けない、心をこめた感想」をとても大切にしてきました。コンクールで入賞することではなく、本を読むことが好きになってほしい。コンクールの審査員に評価されることよりも、家族や学校の先生、クラスメイト、感想文を読んでくれる身近な人がくすっと笑えるような、温かい気持ちになる、元気になる、そんな読書感想文を書く手助けをしたいと思ってきました。
書くことは、勇気がいることです。特に自分の心の内側を言葉にすることは、子どもたちにとって大きな挑戦です。でも私は信じています。勇気を出して心を込めて書いた文章は、必ず読み手の心に届き、そこから新しい関係が生まれてくることを。書くことで、子どもたちは確実に成長していくのです。
ALSと闘う竹永先生の姿から学んだこと
竹永先生がALSという難病と闘いながらも、子どもたちの成長を第一に考え続ける姿には、教育者として深い感銘を受けました。彼の「病気でも強く生きていく」という決意は、子どもたちの「心のドラゴン」を育てる原動力となっています。
教育とは、知識や技術を教えることだけではなく、子どもたち一人ひとりの「心のドラゴン」を育てることなのではないかと。竹永先生は、自分自身の「ドラゴン」を子どもたちに見せることで、彼らの勇気を引き出したのです。
「≪僕のドラゴン≫は勇気の歌やね」と先生も言っていた。「ただ歌うだけでじゃなくて、みんなの心の中のドラゴンも育てていこう。先生も、先生のドラゴンを育てるけん」(P.66)
この言葉の通り、子どもたちに何かを教える前に、私たち大人自身も成長し続ける必要があるのだと感じたのです。
今、私の中で育つドラゴン
この本を読み終えた今、自分の指導の在り方を見つめ直しています。「世界に一つだけの読書感想文」を育む指導者でありたいと、強く思うようになりました。
あの中学生の『走れメロス』の感想文を読んだお母様は「いじめのことは知っていました。でも、こんなふうに考えていたなんて。今の元気な姿がある理由がわかった気がしました」と涙ながらに言いました。読書感想文は、ただの宿題ではなく、子どもと親と教師をつなぐ大切な「言葉の架け橋」にもなりうるのだと、その時感じました。
この本を手に取る人へ
この本を読んで、「たった一人でも歌うことが好きな子に読んでもらいたい」という思いが湧いてきました。また「たった一人でも自分の言葉を大切にしたい子に、この本を手に取ってほしい」とも強く感じています。
物語の中で、マナミは自分を変えたいという思いから一人で合唱部のドアを叩きました。そして竹永先生や仲間たちとの出会いが、彼女の人生を大きく変えていきます。私たちの人生も同じではないでしょうか。今は一人でも、勇気を出して一歩踏み出せば、必ずあなたの声に気づいてくれる誰かがいる。あなたの歌を聴きたいと思う誰かがいる。そして、いつか必ず大切な仲間にめぐりあえるのだと、この本は教えてくれているように思います。
あの中学生の感想文の最後の言葉を借りるなら、「もし物語に続きがあるなら」、竹永先生と日明小学校の子どもたちは、きっと今も自分たちの「ドラゴン」を育て続けているでしょう。そして私も、教室で出会う一人ひとりの子どもの「ドラゴン」を見守り続けていきたいと思います。
あなたの中にも、きっと素敵な「ドラゴン」が眠っています。それは勇気かもしれないし、思いやりの心かもしれません。読書を通して、あなたのドラゴンに気づき、育て、いつの日か大空へと羽ばたかせてください。そして、あなただけの言葉で、あなただけの物語を紡いでください。
あの中学生がそうだったように、あなたも必ず「今は大丈夫」と笑える日が来ることを、私は信じています。

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