【講師コラム】大人も書いてみよう、読書感想文
こんにちは、リテラ「考える」国語の教室の講師、黒木里美です。
2025年青少年読書感想文コンクールの課題図書『ライオンのくにのネズミ』(さかとく み雪)を読んで、わたし自身が感想文を書いてみました。

本を読んだときに湧き上がってきた思いを形にしたくて書いたものです。 これは決して子どもたちの「見本」になるようなものではありません。
むしろ、一人の大人として本と向き合い、自分自身の経験と重ね合わせて書いた素直な感想です。 でも、この感想文を読んでくださった方々が、「読書感想文ってこんな風に書いてもいいんだ」と感じていただけたら嬉しいです。大人の本音の感想が、子どもたちが自分の言葉で書くためのヒントになれば、という願いを込めています。
ぜひ、保護者の皆さん、読書感想文を指導される先生方も、一度子どもたちと同じ本を読んで感想文を書いてみませんか? 子どもたちと一緒に「書く」体験をすることで、新たな発見があるかもしれません。 それでは、わたしの読書感想文をご覧ください。
読書感想文のポイントはこちら
「〜言葉を越えて心をつなぐ勇気〜 ライオンのくにのネズミを読んで」
この本を読んで、まず思い浮かべたのは、幼い頃の弟のことだった。弟はとにかく人懐っこく、公園でも銭湯でも、気づけば誰かと仲良くなっていた。驚くのは、名前も知らない子とでもすぐに打ち解けて遊び始めること。
小学校2年生のとき、私と弟はデパートのおもちゃ売り場で外国の姉妹と出会った。金髪の女の子たちは、明るい声で話していたが、言葉は全く理解できなかった。私は身を固くした。以前、言葉が通じない子に噛みつかれた記憶がよみがえったからだ。でも、弟は違った。当たり前のように声をかけ、おもちゃの車を手に取ると、「ブーン」と音を立てながら走らせて見せた。女の子たちの瞳がきらりと輝いた。弟は次に、ロボットの変形の仕方を、大げさな効果音をつけながら実演した。姉妹はすっかり魅了され、弟の真似をし始めた。そして、弟は振り返ると、「ぼくのねーちゃん」と私を紹介し、4人で遊ぼうと言ってくれた。私は本当は遊びたかった。でも勇気が出せず、ただ弟を見つめていた。そんな私の気持ちに気づいて、みんなを巻き込んでくれた弟の優しさに、今思い返しても胸が熱くなる。
『ライオンのくにのネズミ』を読んで、そのときの気持ちが鮮やかによみがえった。異国の地で、誰よりも小さく、言葉も文化も違うなかで生きるネズミくん。彼の不安と緊張は、言葉の通じない相手に怖さを感じた私自身の体験と重なった。でも、ネズミくんはリスの友達が笑われたとき、「リスをわらうな!」と勇気を出して立ち上がる。たとえネズミ語でも、その声に込められた友を守りたいという強い思いは、ライオンたちの心に響いた。その瞬間、私はあのときの弟の姿を重ねて見た。
物語の中で、ネズミくんはサッカーを通じて本当の実力を発揮する。小さな体でも、誰にも負けない技術と情熱を見せつけた。これは弟が持つ「人とつながる才能」と同じだ。得意なことを通じて自信を持ち、その自信が勇気を生み、やがて心の扉を開く鍵となる。
私は今、言葉を大切に教える立場にあるが、この本を通してあらためて「言葉だけが伝える手段ではない」ことを思い知らされた。思いを込めた声、まっすぐな目、勇気ある行動――。それらは、たとえ言葉が通じなくても、相手の心に届く。ネズミくんがサッカーを通して仲間に認められ、お弁当を交換して友情が深まっていく過程には、弟がなぜあんなにも自然に人と打ち解けられるのか、その答えがあるような気がした。
「怖い」と感じるとき、人は一歩引いてしまう。でも、その一歩を踏み出すことでしか、心と心はつながらない。かつての私は、その一歩が踏み出せなかった。でも今なら、きっと違う選択ができるだろう。
現在、弟は大人になり、やっぱり誰からも頼られる存在だ。親戚の集まりでは自然と話の中心にいて、別れ際には大きな手で力強く握手を交わしている。相手の目をまっすぐ見つめ、温かな笑みを浮かべながら。その姿を見るたび、私は思う。あの日、デパートで見せた勇気と優しさは、今も変わらず彼の中に生きているのだと。
『ライオンのくにのネズミ』は、子どもだけでなく大人にとっても、「勇気」と「思いやり」と「行動」の大切さを教えてくれる本だ。あなたにも、勇気を出せずに一歩引いてしまった経験があるだろうか。でも、その一歩を踏み出すことで、きっと新しい世界が開けるはずだ。姉弟で握手をすることは現実的には難しいけれど、弟のように力強く相手を包み込み、安心してもらえるような握手ができる人になりたい。相手の目をまっすぐ見つめ、心を込めて手を差し出せる。そんな人間になりたいと、この本は私に教えてくれた。

読書感想文を書こう!
対話をベースに、世界で一つの読書感想文を書き上げましょう!