今回は、2013年の6月末から7月初めの二回の授業を使って取り組んだ『物語に登場するネコとネズミの比較』という授業の紹介です。
テーマを決めて複数の作品を読む
ネコとネズミの登場する作品を探してみると、実にたくさんの物語が見つかります。そして、テーマを決めて複数の作品を読んでみると、一つひとつの作品では気が付かなかった共通点や法則性が見えてきたり、類似する作品の中にある差異が際立って見えてきたりします。身近な動物であるネコやネズミたちに、私たちはどのようなまなざしを向けてきたのでしょうか。
表に整理する=分析する
小4のYさんとIさん、小5のRさんは、教室の本棚からテーマに合った本を次々と探し出すと、分担して、それぞれに登場するネコとネズミの特徴をまとめました。そして、それぞれの取り組んだ内容を発表し合って一つの大きな表を作りました。
- 『11ぴきのねこ』 作・馬場のぼる こぐま社
- 『ネコのもらったおくりもの』 作・ニック バターワース 訳まつかわまゆみ 評論社
- 『おはなしこねずみロミュアルド』 作・アンヌ ジョナス 訳・なかいたまこ フレーベル館
- 『むぎばたけ』 作・アリソン・アトリー 訳・矢川澄子 絵・片山健 福音館書店
- 『サーカスへ行ったねずみくん』 文・なかえ よしを、絵・上野 紀子 ポプラ社
- 『ブンダバー』 作・くぼしまりお ポプラ社
- 『ネコのタクシー』 作・南部和也 福音館書店
- 『黒ねこサンゴロウ1 旅のはじまり』 作・竹下文子 偕成社
- 『ねずみの騎士デスペローの物語』 作・ケイト ディカミロ 訳・子安亜弥 ポプラ社
- 『魔女のこねこゴブリーノ 』 作・アーシュラ・ウィリアムズ 訳・中川千尋 福音館書店
三人が探した本の一覧
表に整理することで、一見ばらばらの内容をグループにわけ、それぞれのグループの特徴について考えることができます。こうした取り組みは、作品を分析的に読むための第一歩です。分析的に読むことは、登場人物や場面の役割や、作者の意図、作品の主題などを理解するためには必要不可欠な読解の力になります。
生徒たちの書いた作文
Yさん・小4
わたしたちは、六月二八日と、七月五日に、物語に出てくるネコとネズミをひかくしました。
まず、ネコとネズミの出てくる物語のネコは、たいしてゆうかんではなく、悪やくとして出てくる事が多いです。ネズミを食べようとするけれど、ネズミにだまされてしまう事が多いです。
ネズミの方は、ネコに食べられそうになり、ネコにやり返す事が多いです。ネズミは頭が良いので、最終てきには、ネコに勝ちます。
次に、ネコだけが出てくる物語です。ネコは、気ままでのんびりしている事が多く、ネズミではなく魚を食べるので、悪いイメージはありません。おしゃべりだったり、思いやりがあったり、クールだったりします。
最後に、ネズミだけが出てくる物語です。ネズミは、知りたがりやだったり、耳がとても大きかったり、特徴があります。元気で頭がいいところは、ネコもネズミも出てくる物語と変わりません。
このように、ネコは、ネズミといっしょだと、悪やくで、ネズミ好きで、少しダサイけれど、ネコだけだと、やさしく、気ままで、全ぜん悪気がなく、思いやりがあるのだと思います。ネズミの場合は、ネコといっしょだと、ネコにつきまとわれて、仕返しとしてネコをだますけれど、ネズミだけだとネコにつきまとわれないので、仲間を助けたり、夏の夜風にふかれるムギの様子を見に行ったりできるのだと思います。
Iさん・小4
今日は、物語に出てくるねこと、ねずみをひかくしました。
まず、ねことねずみが両方出てくるお話です。ねこは、ねずみをおいかけまわしていじわるで、いばっていて、だまされやすいです。しつこくねずみにちょっかいを出しています。ねずみは、ねこにおいかけまわされて、かくれたりします。けれども、最後はねこにしかえしをして、食べられないでねずみがかちます。
次は、ねこだけが出てくるお話です。ねこはねずみをつかまえない、やさしいねこになります。そして、思いやりがあって、クールです。または、おしゃべりになります。ねずみも出てくる話だと、ねずみをねべているけれど、ねこだけだと、魚を食べています。
さいごは、ねずみだけが出てくるお話です。ねずみは、なかまをたすけている場面もあります。ねこが出てこないと、とくに、逃げる場面はありませんでした。
ねずみは、ねずみだけでも、ねずみだけでなくても、あたまがいいことは、いっしょです。しかし、ねこの場合は、ねこだけだと、やさしくておもいやりがあるけれど、ねずみとねこが出てくると、ねこは、ねずみをつかまえるいじわるなねこになります。
Rさん・小5
今日は、物語に出てくるねことねずみの比かくをしました。
まず、ねことねずみが両方出てくる物語です。ねこは、いじわるで、いばっています。一方ねずみは、あたまがよくて、我慢強く、ねこにいじめられています。
次に、ねこだけ出てくる物語です。思いやりがあり、クールで、ねずみをつかまえて食べようとはしません。のんびり気ままにすごしています。
そして、ねずみだけ出てくる物語です。じょうきげんで、知えがあり、好奇心おうせいです。ねこにおいかけられたり、つかまえられないので、自由気ままにすごしています。
最後にまとめです。ねこは、ねずみといっしょだと、ねずみにいやなことをして、いじわるですが、ねこだけだと、のんびり気ままにすごしています。ねずみは、ねこがいっしょでも、いっしょではなくても、元気で知恵があります。ねこといっしょだとちょっかいを出されています。このように、ねこだけが出てくる物語と、ねずみだけが出てくる物語、ねことねずみが出てくる物語によってそれぞれの性格がちがってくるのです。
物語の型を知ることで、作者・作品と対話する視点を育む
こうした取り組みを経ることで、子どもたちは、物語の型を知ります。新しい物語に出会うとき、「ネコやネズミの出てくる物語って、こんな物語が多いんだよな」と作品の内容を予想しながら読めるようになるのです。すると「やっぱり予想通りの展開だ」と納得しながら読んだり、「あれ、予想と違うな」と意外に思ったりと、読書の楽しみ方が広がります。つまり、それまでの本文をそのまま理解する読み方だけでなく、「囲碁や将棋などで先の手を予測するような読み方」が身につくのです。それは、作品・作者と対話する視点を育むことにつながっていきます。