こんな子におすすめ!
- 感情表現や心の痛みと向き合いたい子
- 戦争や平和について学びたい子
- 家族の絆や世代間のつながりを考えたい子
- 喪失を経験した、あるいはこれから向き合う子
- 心温まる日常の物語が好きな子
本の紹介
1957年、ロンドン郊外の町。11歳の少年ミックが森で見つけたケガをしたニシコクマルガラスのヒナ「ジャック」との心温まる実話をベースにした物語です。ミックの両親が営む駅前のパブでジャックは育てられ、様々な出来事を通じて町の人々に愛されるようになります。そんな中で元空軍兵士である父親の戦争体験にまつわる心の傷も描かれます。少年と動物の絆、家族愛、そして人生で初めての大切な存在との死別を通じた成長と癒しの物語です。
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本の解説
ニシコクマルガラスについて

Dion Art, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
ニシコクマルガラスはヨーロッパに生息するカラス科の鳥で、黒い体と灰色の頭部が特徴的です。高い知能と社会性を持ち、優れた問題解決能力を示します。体長約33cmと比較的小型で、明るい銀灰色の首と青みがかった白い目が特徴的です。ヨーロッパでは古くから親しまれている鳥で、民間伝承や文学作品にも多く登場します。
物語の舞台と時代背景
『森に帰らなかったカラス』は1957年のロンドン郊外が舞台です。第二次世界大戦後のイギリス社会が描かれており、主人公ミックの父親の戦争体験が物語の重要な要素となっています。戦後社会では多くの人々が戦争の記憶を心の中に閉じ込めていました。そんな社会背景の中で、戦争を知らない子どもたちが成長していく姿が繊細に描かれています。

Teddington railway station by Stephen Craven, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

カラスの象徴性
物語の中でジャックというカラスは、単なるペット以上の象徴的な存在として描かれています。空を飛ぶ鳥としてのジャックは、元空軍兵士である父親の過去と重なり合います。カラスは父親の心の傷や、語られない記憶の象徴とも読み解くことができるでしょう。

Maxwell Hamilton from Greater London, England United Kingdom, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
喪失と成長の物語
本作は、思春期の成長を繊細に描いています。ミックが親しい存在との死別を人生で初めて経験し、その喪失感を通じて自分や家族以外の人の死をいたわれるようになっていく過程は、読者の心に深く響きます。特に大切なのは、ジャックとの死別を通して家族で悲しみを共有することで、父親が長年語ることのなかった戦争体験を息子に話せるようになる転機です。表現することや感情を共有することの癒しの力が、世代を超えた理解と絆をもたらす様子が感動的に描かれています。
家族と地域社会の絆
ミックの家族が営むパブを中心とした地域コミュニティの描写も本作の魅力です。ジャックを通じて深まる家族や常連客たちとの絆は、日常の中で育まれる人と人とのつながりの大切さを教えてくれます。社会的な困難や悲しい出来事をみんなで分かち合うことの意義が、温かく描かれています。

User:Victuallers, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
実話をベースにした物語
本作はロンドン動物園の元主任飼育員の少年時代の実話をもとにしており、等身大の日常が描かれています。実際にあった出来事をベースにしているからこそ、読者の心に響く感動があります。
読書感想文のヒント
読む前に考えてみよう
- 大切なものを失う経験は、人をどう成長させるのでしょうか?
- 戦争体験のような辛い記憶を抱えた人が、それを語ることにはどのような意味があるでしょうか?
- 感情を表現することと、心の傷の癒しには、どのような関係があるでしょうか?
考えを深めるための質問
- この作品の英語での原題は『Jacko』ですが、日本語版では『森に帰らなかったカラス』と訳されています。どのような意図があってこのような意味の変更が伴う訳題がつけられたのでしょうか?
- ジャックがパブの人々や町の人たちに受け入れられていった日常の変化に注目してみましょう。何が彼らの心を変えていったのでしょうか?
- ミックの父が息子に戦争体験を語ったことは、父子関係にどのような変化をもたらしたでしょうか? また、この変化はミックの成長にどのような意味を持つと思いますか?
- 物語の中で、個人的な喪失の悲しみ(ジャックの死)と社会的な喪失の悲しみ(戦争での体験)が重なり合っています。悲しみを共有することが癒しにつながる体験について考えてみましょう。
- ミックにとって、ジャックはどのような存在だったのでしょうか? 単なるペット以上の意味を持っていたと思われる理由を考えてみましょう。
- 戦争体験者たちが「自分の中に閉じ込めていた記憶」を言葉にして分かち合うことについて、この物語から何を学ぶことができるでしょうか?
考えてほしいテーマ
- 家族の絆
- 戦争の記憶と日常
- コミュニティのつながり
- 成長と責任
- トラウマと癒し
- 喪失と受容
- 感情表現の大切さ
理解を深めるために
- ニシコクマルガラスについて調べてみましょう。どのような特徴を持つ鳥なのでしょうか?
- 1950年代のイギリスの日常生活や、第二次世界大戦後の人々の暮らしについて知ることで、物語の背景をより深く理解できるでしょう。
- 動物との共生について、現代の視点からも考えてみましょう。
- イギリスのパブ文化について調べてみると、物語の舞台背景理解が深まります。
- 戦争トラウマとPTSD(心的外傷後ストレス障害)について調べてみましょう。現代では、これらの問題に対する理解や対応はどのように変わってきているでしょうか?
合わせて知りたい
- イギリスの伝統的なパブと地域社会
- 第二次世界大戦後のイギリスの日常
- 野生動物との暮らしの実例
- 戦争体験者の心理と回復プロセス
合わせて読みたい
『ブラッカムの爆撃機』ロバート・ウェストール/著、金原瑞人/訳
第二次世界大戦中のイギリス、デボン州の村を舞台に、墜落した爆撃機の搭乗員だった老人と、その話に耳を傾ける少年デイビッドの交流を描いた物語。戦争で起きた悲劇と秘密が、半世紀を経て明らかになっていきます。
おすすめ理由: 『森に帰らなかったカラス』と同様に、戦争体験者が長年心に秘めてきた記憶を若い世代に語り継ぐプロセスが描かれています。罪悪感や後悔といった感情と向き合い、癒されていく様子が感動的に描かれており、戦争の記憶と平和の大切さを考えるきっかけになります。
『ザ・ギバー 記憶を注ぐ者』ロイス・ローリー/著、島津やよい/訳
感情や色彩、記憶が管理された「完璧な社会」で暮らす12歳の少年ジョナスが、共同体の記憶の保管者「ギバー」の後継者に選ばれる物語。ギバーはそれまで一人で人類の喜びも苦しみも、戦争や飢餓といった辛い記憶をすべて背負ってきました。ジョナスはその重荷に苦しむギバーを助けるため、自ら記憶を受け取り、肩代わりしていきます。
おすすめ理由: 『森に帰らなかったカラス』の父親が長年一人で抱え込んでいた戦争の記憶を、最終的に息子と共有することで救われていくプロセスと重なります。辛い記憶を一人で背負うのではなく分かち合うことの重要性、そして若い世代が過去の痛みを理解し受け継ぐことの意義を教えてくれます。また、他者の痛みに共感し、自分のことのように感じられるようになる思春期の成長も描かれており、ミックの成長とも通じるものがあります。
合わせて観たい
映画『紅の豚』宮崎駿監督
第一次世界大戦後のアドリア海を舞台に、かつては伝説の空軍パイロットだったが何らかの理由で豚の姿になったポルコ・ロッソ(マルコ)の活躍を描く物語。空賊と戦い、かつての恋人と再会し、アメリカ人パイロットとの一騎打ちに挑むなか、マルコの過去が明らかになっていきます。
おすすめ理由: 『森に帰らなかったカラス』の父親と同様に、戦争のトラウマを抱えた元パイロットが主人公です。戦争で仲間を失った罪悪感から自らを豚の姿に変えた主人公が、過去と向き合い生きる姿は、心の傷からの回復というテーマで共通しています。また「飛ぶこと」の自由と象徴性が『森に帰らなかったカラス』のジャックと重なります。
構成について
構成にルールはありませんが、どう書いたらいいかわからない時は、次のことを参考にしてください。「誰に、何を伝えたいか」
- ことばは、他者に思いを伝えるためのものです。考えたことやメモを元に、書き始める前に、「誰に、何を伝えたいか」を考えましょう。「伝えたいこと」は、できるだけ一つにしぼりましょう。
- 誰に……例)家族、友人、先生
- 何を伝えたいか……例)本の面白さ、感動したところ、自分の想い
- 「伝えたいこと」をしぼることで、構成を立てやすくなります。
文章の構成
- 文章は、三つのパートに分かれることが多いようです(※三段落で書かなければならないという意味ではありません)。
- 【はじめ】
- この文章で「伝えたいこと」や、あらすじを、簡単に書きます。なお、あらすじの有無を学校から指定されることもあります。
- 【なか】
- 本に貼った付せんや、考えたこと、メモを元に、「伝えたいこと」をより詳しく書いていきます。
- 物語の内容と自分の体験を交えると、「伝えたいこと」の説得力が増し、生き生きとした作品に仕上がります。
- 物語で印象に残った場面や人物について書きましょう。また、それに対しどう感じたかを書きましょう。
- 関連する自分の体験を書きましょう。「いつ、どこで、誰が、どうした」から書き始めるとよいでしょう。
- 体験は、過去の思い出だけでなく、本を読んだ後に人に聞いたことや、調べたことでもよいでしょう。
- 体験の最後には、その体験を通して学んだこと・感じたことを、物語の内容と絡めながら書きましょう。
- 学んだことを実行するのはなぜ難しいのか、そのためにはどうすればよいのかといった、より現実に根ざした内容の段落を追加すると、深みが増します。
- 【おわり】
- 「伝えたいこと」をもう一度強調し、未来につながる決意や前向きなことばで締めます。
2025年 読書感想文課題図書のページ
随時更新していきます。
大人も書いてみよう、読書感想文!
2025年青少年読書感想文コンクールの課題図書『森に帰らなかったカラス』(ジーン・ウィリス作)を読んで、講師自身が感想文を書いてみました。
読書感想文を書こう!
対話をベースに、世界で一つの読書感想文を書き上げましょう!