内容の紹介
アナウンスの経験もほとんどない本庄みさとと、機材ばかりいじくっている古場和人。二人しかいない放送部に、新しい顧問の先生と、新しいメンバーが加わります。アナウンスの実力がありながら、頑なにマイクの前に座ろうとしない転校生・葉月の指導の元、放送コンクールに向け、本格的な練習と作品づくりがはじまりますが……。
読む前の下ごしらえ
考えてほしいこと
読む前に、次のことを考えてみましょう。
- あなたには、自分の思いがうまく伝わらなかった経験はありますか。
読む
読む時は、印象に残った場面や不思議に思った場面など、「心が動いたところ」にふせんを貼りながら読みましょう。書く時の材料になります。
また、できれば、家族や友だちと、同じ本を読んでみましょう。自分と違う感想や考え方を知ると、感想文の内容がより深いものになります。
準備する
気持ち
本を読んで感じた気持ちをことばにするのは、なかなか難しいものです。読み終わったら、次の「気持ちについて考えよう」シートを印刷して、感じた気持ちに丸をつけてみましょう。対話や作文の際のヒントになります。
体験
読書感想文では、本の内容と自分の体験を結びつけることが大切です。自分の体験が思いつかない場合は、このページの「考えるヒント」を参考にして、本のテーマについて誰かに聞いたり、調べたり、新しく何かをしてみたりするとよいでしょう。
考えるヒント
- 次のせりふを参考に、二人に何があったのか、また、二人に起こった出来事の共通点は何か、考えてみましょう。
- 「ある日を境に、理由もわからないままチームメイトたちにいっせいに背を向けられた。急に言葉が通じなくなってしまったみたいだった。」(226ページ)
- 「あの作品は、ちっとも彼女のほうを向いていなかった。」(217ページ)
- 「わたしはなんにも見えていなかった、と葉月はうつむいた。」(218ページ)
- あなたには、似たような経験はありますか。
■「――声は、伝えるためにある。だれかを黙らせるためじゃない」「そんな人には、片手の鳴る音は聞こえない――でしょ?」と葉月は言います(193ページ)。
- あなたは、新納の言う「大声出して人を黙らそうとする人間」に会ったことがありますか。
- 「片手の鳴る音は聞こえない」とは、どんなことでしょうか。
■新納は、「やな言葉」を人にぶつける理由として「自分に自信なくて、怖いからさ。だから言われる前にだれかにぶつけて、それで安心するんだよ」と言います(209ページ)。
- あなたには、そんな経験はありませんか。
- 私たちは、何が怖いのでしょうか。
■最後の放送を終えた部員たちは、ハイタッチをします。
- 「忘れられない音」は、何を意味しているのだと思いますか。
- あなたは、同じように、「忘れられない音」を聞いたことがありますか。
- 人と分かり合うためには、どのようなことが必要なのだと思いますか。
■私たちが書くのは、時間や場所を超えて、誰かに何かを伝えるためです。
- この本について読書感想文を書くなら、誰に伝えるために書きますか。
保護者の方へ
上記の「考えるヒント」を参考に、対話をしながらアイデアを拡げてください。アイデアのメモをたくさん作り、並べ替えながら、感想文の構成を練りましょう。
読書感想文を通して考えてほしいテーマ
- 「みんな」と「じぶん」
- 人とのつながり
- 仲間
- 友情
- 生き方
この本について
中学校の放送部を舞台に、人と向き合うことの難しさと素晴らしさが描かれます。
みさとも、葉月も、友人との関係が断ち切られてしまったという苦い過去を持っています。私たちは人とつながり合うことで生きていますが、人と向き合うことは、自分をさらけ出すことでもあります。怖いと感じることもありますし、面倒だと思うこともあるでしょう。本音で語らず、目立たないよう調子を合わせることも、できなくはありません。しかし、自分を押し隠すむなしさは、ストレスや疲れにつながっていきます。
みさとと葉月は、放送コンクールに向けた練習や作品作りに打ち込む中、何度もぶつかり合いながら、心を通わせていきます。放送は、ことばによって、誰かに、何かを伝えること。届くかどうか、受け取ってもらえるかどうかもわからないけれど、懸命に思いを伝えようとする努力は、やがて、二人の内面を変えていきます。
メールやSNSなど、自分の気持ちを表現する手段は、多くあります。しかし、本当の意味で、相手の気持ちを受け止めたり、自分の気持を誠実に表現したりするのは、難しいものです。この本を通し、自分はしっかりと相手に向き合っているか、自分自身の言葉を語ることができているのか、考えてみてもよいでしょう。それは、自分の生き方に関わることでもあるはずです。
なお、隻手の声(隻手音声)は、江戸中期の禅僧・白隠が創案した禅の代表的な公案(修行者が悟りを開くための課題として与えられる問題)です。「両手を打ち合わせると音がする。では片手ではどんな音がしたのか」というものです。公案は、考え続ける過程の中で、私達の先入観や認識そのものを超越していくことを目指しているため、224ページで古権沢先生が言ったような「解釈」や「元の意味」というものはありません。どちらかと言えば、相手をありのままに見て、ありのままの自分で向き合おうとする、放送部のメッセージのほうが、その意図に沿っていると考えることもできます。
構成について
構成にルールはありませんが、どう書いたらいいかわからない時は、次のことを参考にしてください。「誰に、何を伝えたいか」
- ことばは、他者に思いを伝えるためのものです。考えたことやメモを元に、書き始める前に、「誰に、何を伝えたいか」を考えましょう。「伝えたいこと」は、できるだけ一つにしぼりましょう。
- 誰に……例)家族、友人、先生
- 何を伝えたいか……例)本の面白さ、感動したところ、自分の想い
- 「伝えたいこと」をしぼることで、構成を立てやすくなります。
文章の構成
- 文章は、三つのパートに分かれることが多いようです(※三段落で書かなければならないという意味ではありません)。
- 【はじめ】
- この文章で「伝えたいこと」や、あらすじを、簡単に書きます。なお、あらすじの有無を学校から指定されることもあります。
- 【なか】
- 本に貼った付せんや、考えたこと、メモを元に、「伝えたいこと」をより詳しく書いていきます。
- 物語の内容と自分の体験を交えると、「伝えたいこと」の説得力が増し、生き生きとした作品に仕上がります。
- 物語で印象に残った場面や人物について書きましょう。また、それに対しどう感じたかを書きましょう。
- 関連する自分の体験を書きましょう。「いつ、どこで、誰が、どうした」から書き始めるとよいでしょう。
- 体験は、過去の思い出だけでなく、本を読んだ後に人に聞いたことや、調べたことでもよいでしょう。
- 体験の最後には、その体験を通して学んだこと・感じたことを、物語の内容と絡めながら書きましょう。
- 学んだことを実行するのはなぜ難しいのか、そのためにはどうすればよいのかといった、より現実に根ざした内容の段落を追加すると、深みが増します。
- 【おわり】
- 「伝えたいこと」をもう一度強調し、未来につながる決意や前向きなことばで締めます。