【生徒作品】日本のすべての動物園を廃止すべきある。是か非か。(中2・Y君)

今まで、『落語紹介新聞』や、『限りある資源を長く利用するために』などの作品を書いてきた中2のY君。今回は、「日本のすべての動物園を廃止すべきある。是か非か。」という政策論題について否定側の立論に挑戦しました。

論題の解説については、同じ論題について取り組んだ高2・Mさんの肯定側立論をご覧ください。

中学生段階では、三角ロジックを意識し、具体的な資料やデータにもとづいて、主張することを目標として政策ディベートの立論に取り組みます。各視点の妥当性や、根拠となる資料との関連付けなど、まだ課題はのこりますが、Y君のこれからの成長が楽しみです。

作品

※作品を読む前に

競技ディベートでは、個人の意見や価値観とは関わりなく、試合の場で初めて肯定側か否定側かが決定されます。今回のレポートも、動物園の是非について、生徒の個人的な意見を書くのではなく、「肯定側(あるいは否定側)に立った場合に最も効果的で説得力のある立論をすること」を目的に取り組んでいます。

『日本はすべての動物園を廃止すべきである。是か非か。(否定側)』
中2・Y君

動物園の定義と目的

動物園とは動物を収集し広く一般に公開展示する施設のことをいう。この場合、動物園には、爬虫類、鳥類、昆虫を飼育しているところも含める。

主張

動物園は廃止するべきではない。

デメリットの提示――動物園の抱える問題

動物園を廃止することには、四つのデメリットがある。一つ目は、レクリエーションの場の消滅だ。一般市民が楽しいと思える場所が、なくなってしまう。二つ目は、社会教育・環境教育の場の消滅である。動物や自然環境、希少動物の保護の必要性についての人々の関心が薄くなってしまう。三つ目は、調査・研究の場の消滅だ。野生動物の生理・生態に関する調査・研究が、行えなくなってしまう。四つ目は、野生動物や、希少動物の保護の場の消滅である。種の保存や、希少動物の野生復帰が行えなくなる。

一点目、「レクリエーションとしての場」について、旭山動物園では、次のように説明している。

「レクリエーションとは、リ・クリエーション(Re-creation)すなわち再-創造ということで、人間性を回復するという意味です。動物たちと一緒の楽しい時間を過ごし、美しい動物たちのすばらしい能力に感動し、生きていることのすばらしさを実感できる場所、それが動物園です。」(注1)

平成二十五年度のよこはま動物園の来場目的をみると、「動物を見る」が88.7%、「散歩・ウォーキング」が30.2%と多い。つまり、動物への愛情や、人生の喜び、楽しみを得ることが、人々の人間性の回復につながっているといえる。(注2)

二点目の「環境教育・社会教育としての場」について、旭山動物園では、次のように説明している。

「動物園では,貴重な野生動物を飼育・展示していますが,生きている動物ゆえに感じられる「生命」を通して,来園者は自然環境の多様性を実感を持って知ることができます。また,動物園ガイドや動物教室,野外観察会などを通して,野生動物の現状を知り,私たちの暮らしと野生動物との深い関わりを学ぶことができます。」(注1)

よこはま動物園や、野毛山動物園、円山動物園、このほか、ほぼすべての動物園で、社会教育、環境教育の場の提供をしている。

三点目の、「調査・研究の場」については、旭山動物園では次のように説明している。

「動物園には,野生動物を飼育していることから,比較解剖学,生理学,栄養学,繁殖学上の様々なデータが集まっていました。今では,大学などの研究機関と共に,これらを集大成し,野生動物医学へと発展させています。また,遺伝学的研究や小個体群管理学が,絶滅を心配される個体群の維持に役立っており,動物園の研究とフィールドの研究が一体となって野生動物の保護へ実効を上げています。そればかりではなく最近では,人獣共通感染症の研究も進められ,人と動物との安全な暮らしへの貢献しているのです。」(注1)

例えば、上野動物園では、日大と協力して鳥マラリアの研究をしている。(注3)

「鳥マラリア症は、Plasmodium(マラリア原虫)と呼ばれる原虫が血液中に侵入し、赤血球や肝細胞などに寄生して貧血や元気消失、体重減少など様々な症状を呈する疾患」である。(注4)

先程述べたように、こうした研究のおかげで、動物の健康が守られ、さらには、人間も安心して暮らせるのである。

四点目の、野生動物や、希少動物の保護の場、また、五点目の、種の保存について、旭山動物園では、次のように説明している。

「絶滅が心配されている動物たちを計画的に繁殖させ,維持することによって、動物種を保存することができます。また,絶滅してしまった地域に,動物園で増やした動物を放して,再び野生の状態を回復させることもできます。」(注1)

実際に、野生復帰に成功している例がある。「国内で初めて多摩動物公園が二ホンコウノトリの繁殖に成功、(中略)個体数は、順調に増加し、国内18の飼育施設で200羽程度を維持しています。また、2005年、兵庫県ではじまったコウノトリの野生復帰は、10年目を迎え、野外での個体数が70羽を超えるなど順調に推移しています。」(注5)

動物園を廃止すると、このようなものがなくなってしまう。だから、動物園は廃止するべきではない。

予想される反論と、その解決

1.動物園の入場者数の減少と自治体の税収の減少に対する反論

確かに全体として動物園の入場者数は減少している。しかし、入場者数を増やしている動物園もある。たとえば、先ほどの旭山動物園や、横浜動物園ズーラシア、豊橋総合動植物園などがそうだ。これらの動物園は、動物園全体の中では少数だ。しかし、ほかの動物園が、これらの動物園の経営方針をまねすることで、動物園全体の入場者数を多くできる。そうすれば、税収で賄われている分のお金を、少なくすることができる。

2「.動物園は、動物の権利を侵害している」という考え方に対する反論

動物を飼うことが、動物の権利を侵害していると、果たしていえるのだろうか?動物の権利という言葉がある。1978年動物の権利の世界宣言( パリ ユネスコ本部 )によると、次のように述べられている。(注6)

「第一条 すべての動物は、生物学的均衡(equilibres biologiques)の枠内で、等しく生存の権利をもつ。この平等性は種ならびに個体の間の差異を覆い隠すものではない。」

「第三条 動物を殺すことが必要な場合には、即座に、苦痛なく、不安を生ぜしめないやり方で死にいたらしめなければならない。死んだ動物は品位(decence)をもって扱われなければならない。」

「第四条 野生動物は自然な環境のなかで自由に生き、その中で繁殖する権利をもつ。野生動物の自由を長期間奪うこと、娯楽のための狩猟と釣り、そして生命維持に不可欠でない目的での、あらゆる野生動物の利用は、この権利に反する。」

このように、動物の権利によると、動物は等しく生きる権利がある。そして、基本的に動物を殺してはならない。もし、動物を殺す事が必要なときは動物が苦しまない方法で殺さなければならない。第四条で生命維持に必要のない野生動物の利用を禁止する、と述べられている。動物園は果たしてこれに反していると言えるのだろうか?動物園では野生動物を「飼育する」という形で「保護」している。

動物をおりに閉じ込めるのは動物の権利に反するのではないか? と思う人もいるだろう。しかし、それは現在、動物園のおりの中にいる個体の問題である。将来的にみれば、動物園で飼っていた動物、あるいは、その子孫を野生に帰すことができる。つまり、動物を個々としてみれば、確かに動物の権利を侵害しているといえるが、種全体としてみれば動物を守っていることになる。

また、動物が絶滅することも自然の摂理であるから、動物は保護するべきではない。と言われるかもしれない。だが、人間が絶滅の危機に追い込んでいるのだから人間が保護するのはあたりまえではないだろうか? 動物の絶滅とはどこかで必ず人間が関わっているものだ。動物自体を狩りすぎる「乱獲」の他にも、地球温暖化のような人間の活動が間接的に環境を傷つけていることもある。その理由は、産業革命後から、人間が環境に与える影響が大きくなったためである。

ただし、動物園の劣悪な環境のせいで動物が死ぬというのはあってはならないことだ。たとえば、客による動物へのエサやりだ。そこで、劣悪な環境になっている動物園には、きちんとした環境のある動物園を真似して対策を立てるなどをしてもらえばいい。つまり、劣悪な環境を改善すれば、動物園は存続していいのだ。

結論

動物園を廃止すると、人々のレクリエーションの場が減ってしまう。また、環境教育・社会教育の場がなくなってしまう。すると、自然環境の多様性を、実感を持って知ることができなくなる。更に、種の保存の動物を野生に帰すことができなくなる。そして、調査・研究は、動物や人間についての研究が進まなくなる。

このように、動物園がなくなると、動物と人との関わりを通した学びや喜びが失われてしまう。

以上のことから、動物園は廃止するべきではないと主張する。

【参考資料】

注1 旭山動物園のホームページ〈http://www5.city.asahikawa.hokkaido.jp/asahiyamazoo/zoo/siryou/yakuwari.html〉
注2 横浜市環境創造局 平成二十五年度利用者調査実施概要
注3 cinii研究論文より「B37 動物園の特性を活かした鳥マラリアの感染生態調査(第62回日本衛生動物学会大会特集)」
注4 アミール動物病院
注5 東京ZOOネットより引用。一部省略。
注6 地球生物会議ALIVEより引用。一部省略。

この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

タグ:
カテゴリー: 生徒作品

リテラ言語技術教室について

menu_litera