リテラでは、生徒一人ひとりの興味・関心に基づいた学びの成果を、様々な方と分かち合う場として、年に一度、『生徒作品発表会』を開催しています。
今回は、『なぜ絵や写真が立体的に見えるのか』(K・Kくん 新中1)を掲載致します。
マンガや絵を見ている時、紙は平面なのに、どうして奥行きを感じるのだろうと疑問に思ったK君。私達が奥行きを感じるしくみについて調べ、たくさんの画像とともに発表することができました。
作品について
本人の振り返り
- これはどのような作品ですか?
- なぜ平面の写真や絵が立体的に見えるのか、という疑問について調べたものです。
- どうしてこの作品をつくりたかったのですか?
- 自分のわからないことを知りたいと思ったからです。
- 作品づくりで楽しかったことは何ですか?
- 絵画的手がかりの中に、いろいろなものがあることに驚きました。
- 作品作りを通して学んだことは何ですか?
- 立体視の世界は奥が深いと感じました。
- 次に活かしたいことや、気をつけたいことはありますか?
- 次回は、もっと計画を立て、それに沿って研究を進めたいです。
- 来年、研究したいことはありますか?
- ミニ四駆や、その時自分が気になっていることについて研究したいです。
- この作品を読んでくれた人に一言
- みなさんも自分に不思議に思っていることを調べてみてください。
生徒作品
『なぜ絵や写真が立体的に見えるのか』(K・Kくん 新中1)
ぼくは、テレビで、世界の絵画を紹介している番組を観ることがあります。これは、その中で紹介されていた、ムンクの描いた『叫び』という絵です。この絵は、橋が、ずっと奥に続いているように見えます。この絵の他にも、マンガなどで、絵なのになぜ立体的に見えるのか、ぼくは、不思議でした。なぜ、写真や絵が立体的に見えるのでしょうか。
私達は、普段、両目で見ることで、ものを立体的に捉えています。左目で見えているものと、右目で見えているものは少し違います。しかし、脳の中でその像を合わせることで、立体的に見えるようになっているのです。
皆さんご覧ください。この写真は、右目と左目から見た街の様子をつなげたものです。立体的に見えるのではないでしょうか。これを、両眼立体視と言います。
しかし、私達は、片目で見ても、立体的にものを見ることができます。まずは、この写真を見てください。
右にいる人と、左にいる人の大きさが、違って見えるのではないでしょうか。右にいる人のほうが大きいと思う方、よろしければ、手を挙げてください。じつは、両方とも同じ大きさなのです。
私達は、背景から、奥行きを捉えることを自然に行っているため、背景との対比から、右の人の方が大きいと捉えてしまいます。このことからも、平面の写真でも、奥行きを捉えていることがわかります。これを、単眼奥行き立体視と言います。単眼奥行き立体視とは、片目の網膜に映っている像の中に、奥行きを作り出すための手がかりを見つけ、情景の奥行きを作り出すことです。
単眼奥行き立体視には、いくつかの手がかりがあります。今回は、その中の「絵画的手がかり」、つまり、止まっている絵から奥行きを感じる理由を調べていきたいと思います。
はじめに、大きさ遠近です。遠くのものは小さく、近くのものは大きく描くことで、奥行きを表現します。これは、葛飾北斎の『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』です。
手前の船や波は大きく描かれていますが、遠くにある富士山は、小さく描かれています。
次は、線遠近です。線遠近とは、視野の中に含まれる平行な直線が、消失点と呼ばれる一点に集中して見えることです。たとえば、この画像は、線遠近を利用して描かれたものです。
次に紹介するのは、大気遠近です。大気遠近とは、遠くのものが霞んで見えることです。この画像は、水墨画です。
遠くの山が霞んで描かれ、奥行きを表現しています。
次は、色彩遠近です。色彩遠近は、遠くのものが、大気のせいで、青みがかって見えることです。この絵では、遠くの山が青っぽく描かれ、重なりが表現されています。
大きさ遠近、線遠近、大気遠近、色彩遠近をまとめて、遠近法と言います。
他にも、単眼奥行き立体視の手がかりがあります。陰影遠近とは、へこんでいるいる所に影ができることを言います。写真をご覧ください。
壁から、丸い部分が出っ張っているように見える人は、よろしければ、手をあげてください。わたしたちは、太陽が上にあるため、光が上からくると思い込んでいます。しかし、この写真は、上下を逆転させたものです。実際の写真は、こちらです。
実際には、暗い方がへこんでいます。このように、光と影の関係から、私達は奥行きを捉えています。
次に、ハイライトです。ハイライトとは、一番明るいところで、光の反射を意味しています。この写真では、太陽の光が反射していることで、球体が膨らんで見えます。
次は、キャスト・シャドウです。キャスト・シャドウとは、影と地面との関係から、奥行きを感じることです。なお、影と地面との関係で、物が浮いているように見えることがあります。たとえば、この写真に写っている僕の足元に、黒い影を置きます。すると、空に飛んでいるように見えます。
次に、テクスチャー勾配です。繰り返されるもののパターンの変化から、奥行きを感じることができます。この写真は同じような形の石が、組み合わさっていることによって、奥行きが感じられるようになります。
次に、遮蔽です。遮蔽とは、絵の一部を隠すことによって、物が重なっているように見せることです。この絵は、描いた絵の一部を隠すことによって、立体的に見えるようになっています。
最後に、ボケです。写真や絵などの背景をぼかす事によって、奥行きが生まれます。
冒頭で皆さんにお見せしたムンクの『叫び』は、手前と奥の人物には「大きさ遠近」が、橋には「線遠近」が使われていることがわかりました。
まず、手前の人物は大きく、奥の二人は小さく描かれています。また、橋は奥に行くに従って、一点に集中していくように描かれています。これらの工夫で、立体的に見えるのです。
今回、立体視の世界は、いろいろな要素から成り立っているので、奥が深いと感じました。新しいことを知ることができ、自分の視野が広がりました。みなさんも、写真や絵を見た時に、何が奥行きを生み出しているのか、考えてみてください。
これで発表を終わります。聞いてくださって、ありがとうございました。
- 藤田一郎(2015). 脳がつくる3D世界 立体視のなぞとしくみ 化学同人
- ガリレオ工房(編)(2004). びっくりふしぎ 写真で科学3 動物の目、人間の目 大月書店
- OCHABI Institute(2018). 線一本からはじめる伝わる絵の描き方 ロジカルデッサンの技法 インプレス