『言葉と数』(新中1 M・Hさん)


リテラでは、生徒一人ひとりの興味・関心に基づいた学びの成果を、様々な方と分かち合う場として、年に一度、『生徒作品発表会』を開催しています。

今回は、『言葉と数』(新中1 M・Hさん)を掲載致します。

言葉と数。Mさんらしい、素晴らしい着眼点から、より大きなテーマの広がりを予感させる研究となりました。言葉と知識と、Mさんの素敵な情熱を携え、広い世界に踏み出していきましょう。

その他の発表動画は、「2022年 生徒作品発表」をご覧ください。

作品について

本人の振り返り

これはどのような作品ですか?
「アリになった数学者」という本から、「言葉」「数」さらには「世界」という存在について考えた作品です。
どうしてこの作品をつくりたかったのですか?
去年の研究によって、私は「科学」と「人生の物語」は切り離せないことを知りました。そのため、毎日学んでいる「言葉」と「数」の存在も切り離せないものなのではないかと思い、つくりました。
作品づくりで楽しかったことは何ですか?
「言葉」や「数」を「物」とはせずに別の言葉であらわそうと頑張って考えたこと。
参考資料を読んで、研究ノートに知ったことや次に繋がりそうなことを書き留めたこと。
研究の行き先を先生と話し合ったこと。
等々です。
作品づくりで難しかったことは何ですか?
原稿を実際に考えて、つくっているときが一番大変でした。
作品作りを通して学んだことは何ですか?
私たちが生きている世界は1つのことでは成り立たず、今も使っている「言葉」は自分について伝えるためのたった一つの「道具」であるということを学びました。
次に活かしたいことや、気をつけたいことはありますか?
「言葉」や「数」の存在と上手くつきあっていけるように努力し、今回の研究を活かしていきたいです。
来年、研究したいことはありますか?
「言葉の世界」、「数の世界」など、世界について今回の研究から発展させていきたいです。
この作品を読んでくれた人に一言
皆さんも身の回りで当たり前のように使っている道具について考えてみてください!
見てくれてありがとうございました!

生徒作品

『言葉と数』(新中1 M・Hさん)

私と『アリになった数学者』の出会いは、この本が発行された2017年のことです。私は小学校2年生でした。
リテラでおすすめの本を聞いたところ、紹介された本が森田真生さんの『アリになった数学者』だったのです。

『アリになった数学者』は、普通の数学者だった人がアリになって、アリの数学について考えるお話です。
主人公は、アリと、数について語り合いたいと願います。しかし、アリには、人間の数学はわからないし、人間には、アリの数学がわからないと悟ります。

初めて読んだときは、作者の森田さんは何が言いたいのだろうと、不思議に思いました。
その後、本のことは忘れていたのですが、小学校5年生の頃に本棚の前を通り過ぎた時、ふと目について手に取りました。
そして、アリと人間の数の違いというものに、強く興味を引かれたのです。
今回の研究で、数とはそもそも何なのかを考えてみることにしました。

数について考えるにあたり、まず真逆のイメージがある言葉について考えてみることにしました。
言葉とは、人が書いたり、口に出したりして、物事について表現したものです。

私達の身の回りの世界は、その時々によって、少なからず変わってしまいます。
しかし、私達は、物事に共通するイメージを言葉にして表現し、お互いに通じ合うことができるのです。

たとえば、灰色に白が混ざった猫もいれば、茶色一色の猫もいます。それらは別々の生き物ですが、「ねこ」という言葉で表すことができます。
もし、その時々の違いによって言葉が変わってしまったら、私たちは、お互いの言っている物事がわからないため、意思疎通が出来なくなってしまいます。

ただし、私達が言葉からつくるイメージは、自分の主観的な見方によって、個人差が生まれてしまいます。そして、個人差、つまり意味のずれがある言葉では、科学的な思考ができません。
科学は、この世界の現象を、変化することのない記号や数式などの言語によって表現しようとする学問のことであり、発見されたことを、誰もが理解できるようにする必要があります。

そこで、意味のずれをできる限りなくした世界共通の記号や数字という言葉を用いて表しているのです。
例えば、中世でも、現在でも、日本でも、外国でも、「1+1=2」であり、意味がずれることはありません。

数字という言葉を使って現象を表しているのが、数学における『数式』です。
例えば、重力という現象について、重力の加速度は約9.8メートル(毎秒毎秒)であり、自由落下の落下距離は、最初の1秒間では約4.9メートル、2秒間では約19.6メートルとなります。

これは、りんごが落ちる時も、さるが落ちる時も、条件が同じであれば変わりません。
数式を使えば、自然界の変化する現象を、変化しない言葉で表すことができるのです。

このように、言葉を極限まで抽象化したものが、数であると言えます。
そして、言葉も数も、根源にあるのは、私達人間のこの世界の捉え方なのです。

それでは、生きている世界が違う相手に何かを伝えようとするには、どうすれば良いでしょうか。
例えば、『アリと数学者』では、人間の世界に生きている「ぼく」と、数というものが必要のない世界で生きてきたアリとのやりとりが描かれています。

ある場面で、主人公は、アスパラの実の数をアリに教えようとします。しかし、アリは、数を、実の名前だとしか理解することができません。
そして、筆者はこのやりとりから、「人間だから通用している言葉」へのこだわりについて問いかけています。

主人公は、人の知る数を理解してもらうことはできませんでしたが、無数の露の数を数えていた女王アリと出会い、生きた数の世界を知ります。
アリにとって、数には色や輝きや動きがあり、刻々と変化し続けているのです。

主人公は、アリにはアリの数学が、人には人の数学があり、それぞれが広い世界を持っているのだと考えるようになりました。

もしかすると、私達も、言葉や数でも表せない世界を、持っているのかもしれません。
私は、私たちの知る「ことばの世界」の奥に、象徴・イメージ・気持ちや体で成り立っている、言葉や数で説明することができない世界があると思っています。
もしかしたら、言葉や数で表現できない世界を伝える手段、たとえば、絵や音楽といった「芸術」という手段であれば、何もかもが違う相手にも、自分の世界を伝える方法があるかもしれませんね。

今回、私は、正反対の意味を持つと思っていた「言葉」と「数」は、私たちなりにこの世界を理解するために、必要不可欠な道具なのだと知ることができました。
また、「言葉」や、「言葉で表せない領域」について、もっと理解したいと思いました。

私は将来、「人々に研究を伝えられる科学者」になりたいと思っています。
この研究を通して、たくさんの人に科学のことを伝える時、ただ理解してもらうだけでなく、心から感動してもらいたいと思うようになりました。
そのために、科学の「魅力」や「美しさ」など、簡単に「言葉で表せない領域」のことも、発信できるようになりたいです。

これで私の発表を終わります。
聞いてくださって、ありがとうございました。

参考文献— (書籍へのリンクはAmazonのアフィリエイトリンクです)

  • 森田真生(2017). たくさんのふしぎ アリになった数学者 福音館書店
  • 山本貴光・吉川浩満(2016). 脳がわかれば心がわかるか 脳科学リテラシー養成講座 太田出版
  • 吉田武(2000). 虚数の情緒 中学生からの全方位独学法 東海大学出版部
  • 加賀野井秀一(2006). ことば 新しい教科書3 プチグラパブリッシング
  • 山下勲(2001). 世界と人間 晃洋書房
この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

カテゴリー: 生徒作品

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