
序章:なぜ「選択肢はできるが記述はできない」のか?
国語の読解で、多くのお子さんがぶつかる最大の壁、それが記述問題です。
- 「やっと書き上げた答えに『内容不十分』の赤ペンが入る」
- 「本文の言葉をつなぎ合わせただけで、何を言いたいのかわからない文になる」
お子さんは記述問題を見ると、「何を書いてもいい自由な作文」だと誤解しがちです。しかし、これが混乱の始まりです。
記述問題は、一見自由に見えて、実際には採点基準という「見えないルール」に縛られた論理的な説明文です。 この連載は、そのルールを解き明かし、記述の解答作成を再現性の高い「5つの思考ステップ」へと体系化するためのものです。
このページは、全5回のシリーズを短くまとめたものです。各回のより詳しい内容は、それぞれのリンク先をご覧ください。
思考ステップ:合格答案を生む5つの手順
記述問題は、次の思考ステップで進みます。また、この連載も、このステップのそれぞれに対応しています。
【第1回・第2回】手が止まる前に「方向」を定める
設問とコミュニケーションを取る(第1回)
記述で点数が伸びない子の多くは、設問を正確に読んでいないことがあります。まずは設問をよく読むことが、すべての出発点となります。
➡️ 実践アドバイス: 設問に線を引く。
「どういうこと」「四〇字以内」「具体的に」といった条件に線を引かせ、問題が何を知りたがっているか(方向)を明確にしましょう。
「根」と「幹」から骨格を作る(第2回)
完全な文を一気に書こうとすると、考えがまとまらず、手が止ってしまいます。まずは解答の骨格を作りましょう。
- 根を定める: 設問の形式から、まず語尾(根)を決めます。
- 「なぜですか」→「〜から。」
- 「どういうことですか」→「〜ということ。」
- 幹を作る: 設問に対し、シンプルな一文(幹)を頭の中にイメージします(例:約束を破られたから)。

➡️ 思考習慣:「5秒ルール」
設問を読んだ後、本文や選択肢を見る前に5秒間、目を閉じて「幹」をイメージする時間を作りましょう。これにより、自分の答えの根拠を明確にし、情報に引きずられることを防ぎます。
【第3回・第4回】過不足を防ぐ「情報の取捨選択」
記述の採点は、必要な要素が入っているかで判断されます。情報が足りない(不足)ことも、情報が多すぎる(過多)ことも、減点の原因となります。
キーワードを「検索」する(第3回)
実際の記述問題の多くは、指示語や特定の語句の意味を書きます。文章全体を熟読せず、その指定語句の周辺を「検索する」ことで、解答の参照範囲を限定します。

➡️ 実践アドバイス:検索のスピードを上げる
検索のスピードを上げるため、物語文では感情の表出を、説明文ではトピックセンテンスとコンクルーディングセンテンス(段落の最初と最後の一文)を意識して読む「点検読み」を実践しましょう。
文章の「フレームワーク」で範囲を特定する(第3回)
より範囲の広い「包括的読解」力を問われる問題では、過不足を防ぐため、文章の展開のフレームを意識し、参照すべき範囲を特定します。
- 物語文の展開のフレーム 【状態 → 展開 → 結末】
気持ちの理由を問う問題などでは、「状態」を忘れないようにしましょう。

- 説明文の展開のフレーム 【背景 → 抽象的な意味づけ ↔ 具体的な事例】
抽象と具体を行き来しながら、論が展開されます。抽象的な内容と具体的な事例の対応を意識しましょう。

設問の条件で「抽象度(ズーム)」を調整する(第4回)
「何を答えるか」という方向が定まったら、「どのくらいの抽象度で答えるか(ズーム)」を調整します。
- ズームアウト(高い抽象度)
設問に「簡潔に」「まとめて」といった言葉があった場合。具体的な事例は極力省き、筆者の主張やテーマといった抽象度の高い言葉で要約します。 - ズームイン(低い抽象度)
設問に「具体的に」「詳しく」といった言葉があった場合。具体的な行動や事例など、本文の細部に焦点を当てます。
➡️ 実戦テクニック:解答欄からの逆算
解答欄が大きい場合は、フレームの複数の要素を含めます。解答欄が小さい場合は、最も重要な「幹」や「核となる一文」のみに絞り込みます。
幹の修正とキーワードの「客観性(ピント)」の調整をする(第4回)
採点者に伝わるように、心の中で作った「幹」を、本文の言葉や、その意味をまとめた抽象度の高い「キーワード」に置き換えて修正します。キーワードは本文に線を引いて明確にしておきましょう。
また、慣用句や比喩表現、情緒的・詩的な表現などは、本文を読んでいない「ポンコツロボ」にも伝わる説明的な言葉に置き換えます。
【第5回】論理的で伝わる文に仕上げる
いよいよ、「幹となる一文」に枝をつなげて、解答文を作っていきます。

6. 「ポンコツロボ」に通じる文章化の技術(第5回)
解答文を仕上げる際は、第2回で定義した「ポンコツロボ」の視点に戻り、論理的な文法と構成になっているかを確認します。
文をひっくり返す
「て」つなぎを多用すると、主語と述語が離れ、文の構造が不明瞭になります。こうした場合は、文の要素をひっくり返します。
NG:「太郎は、次郎がうそをついたことを許すことができなくて、次郎が白い花を見たという話をしているのを聞いて、本当かどうか確かめずにはいられなかったから」
→ OK:「次郎がうそをついたことを許せなかった太郎は、白い花を見たという次郎の話が本当かどうか、確かめずにはいられなかったから」
くり返しの省略
同じ言葉が何度も出てくると、文のまとまりが乱れてしまいます。意味が通じる範囲で、重複した言葉を省略しましょう。
NG:「AIがすぐに答えを与えてくれ、その答えだけで満足してしまい、その答え以上のことを知ろうとしなくなるから。」
→ OK:「AIがすぐに与えてくれる答えだけで満足してしまい、それ以上のことを知ろうとしなくなるから。」
接続語の活用
文をつなぐ接続語を活用することで、情報のつながりが自然になります。
NG:「先生が演奏をほめてくれるだろうと期待していた直子は、先生にほめられず演奏のミスを指摘され、もうピアノをやめたいという気持ちになった。」
→ OK:「先生が演奏をほめてくれるだろうと期待していた直子だったが、先生にほめられなかったばかりか演奏のミスを指摘されたため、もうピアノをやめたいという気持ちになった。 」
7. 記述指導の真のゴール:構造読解力(第5回)
記述問題に向き合うことは、単に国語の成績を上げるためだけではありません。
記述は、お子さんに本文の「論理的再構築」を要求します。どの要素(事実・意見・前提)を参照するかを意識する過程で、文章全体を一つのまとまりとして読み解く「構造読解力」と、思考を明確に言葉にする「論理的思考力」が劇的に鍛えられます。
記述の「見えないルール」を理解し、「記述の手順」を一つずつ追っていくことで、これまで止まっていたお子さんの手が、自信と納得感を持って再び動き出すことでしょう。
