ことばと能力の関係 ~ことばに関わる4つの場面~

ことばに関わる4つの場面

これまで、ごくおおざっぱに「ことばは考えるための道具である」と書かせていただきましたが、ことばの力は「読む・書く・考える・対話する」という4つの場面で発揮されます。

4つの力

「読む」

読む

「読む」は、「理解する」と言い換えることができます。

本の内容だけではなく、人の感情、起こっていることの本質、目の前の物、それらを把握して理解する力です。

日本では虹は七色で表されますが、国や地域によっては、五色だったり三色だったりします。では、人の感情はいくつに分けられるでしょうか? 答えはありませんが、感情を表すことばをより多く持っている人の方が、きめ細やかにその色(=感情)を理解することができるでしょう。

若い方の多くが使うことばに「うざったい」というものがあり、不快な感情はすべてその一色に入れられてしまう傾向があるようですが、実はその感情の中にある多種多様な彩りに、解決のいとぐちや成長のヒントがあることが多いのです。これはもちろん、国語の心情読解問題でも同様です。

読書指導

言語技術教育において、読書指導は最も重要です。子どもたちは読書を通して「書きことば」に触れ、ことばの世界を広げていきます。教室では絵本やファンタジーの名作、科学の読み物など読書指導のプロがこだわりをもってそろえた3,000冊以上の本を用意しています。

読書には、いくつかの段階があります。その子の段階に応じて、最適なレベルの本を勧めていくこと、また、「社会的な読書」のための枠組みをつくることが、読書指導には欠かせません。本を仲立ちとして他者とコミュニケーションをとり、より深い理解や新たな視点を得たり、自分を客観的に見直して実際の行動を決めたりといった、読書の持つ社会的な側面を無視しては、特に小学校高学年以降の読書レベル(「分析的な読み」・「能動的・多角的な読み」)を実現するのは難しいと言えます。読書は好きなのに、テストではイマイチ……というお子様の場合、読書レベルを上げる取り組みが必要なのです。

「書く」

書く

「書く」は、「表現する」と言い換えることができます。

いくらいいアイデアや強い感情が自分のうちにあったとしても、それを現実に力あるものとするためには、他者に向けて表現しなければなりません。
そして、そのためには正しい「表現のしかた」を学ぶ必要があります。

最も重要なのは、第三者に伝えるための「書き言葉」の習得です。ご両親や、仲のよい友人に伝えるためではなく、より広い世界に向かって自分の考えを書き表せなければなりません。どの順序で書くのがよいか、どの接続詞を用いるのがよいか、どのように書けば人に伝わりやすいのか、どのような論理構成にするか。これらに習熟することで、自分の考えにある曖昧さや矛盾についても気づけるようになります。

書き言葉を学ぶ環境

日常的に触れている「話し言葉」とは違い、こうした「書き言葉」を学ぶ環境は、意図的に用意しなければなりません。しかし、現在の教育現場では、そうした環境が十分に整っているとは言えない現実があります。「書き言葉」を自然に学ぶためには、子どもたちが思わず書きたくなる・読みたくなる環境や、状況に応じた適切な指導ができる環境を作ることが重要です。

リテラでは、子どもたちが自らの内面に意識を向け、楽しみながらひたすら書き、書き慣れるためのカリキュラムが組まれています。そうして得られる記述力・要約力は、受験においても必須の能力です。

「考える」

考える

「考える」は、「論理の筋道を立てる」と言い換えることができます。

ことばと思考は密接に関わっています。しかし、ことばだけでは論理的思考は育ちません。むしろ、論理的な思考が、ことばの発達をもたらすという側面もあります。

論理的思考を支えるものは「概念」ですが、それはことばを覚えただけでは、本当に理解したことにはなりません。目の前のものを実際に観察・操作してことばにしたり、比較・分類を通してさらに大きな概念を認識したり、さまざまな具体例を通して概念を明確にしたりといった「概念の学習」をしっかりと積むことが、言語技術の向上には欠かせません。

小学校では、4年生くらいから、体積・密度・分数の割り算など、直接目で見て確かめにくいものが考える対象になり、それを苦手だと感じる子も多いようです。体積と重さと密度の関係、速度と時間と距離の関係、そうした概念同士を、頭の中で足したり割ったりするのですから、無理はありません。そして、こうした操作になじめるかどうかで、成績が大きく左右されます。

抽象的な思考力を育てるためには、その道具であることばをより多く吸収し、親しんでおくことが重要なのは言うまでもありません。それに加え、ことば(=概念)を単純な知識で終わらせないために、普段の生活の中で活用することが大切です。「ことばを使って考える」くせをつけるのです。考えるための「思考の型/論理の型」を習得したり、ある問題について継続的に話し合ったり書き表したりする機会を持つことは、その助けになります。

どう考えるか?

教室では、自分の感覚をことばにするところから始まり、「カテゴライズする」、「比較する」、「筋道をたどる」など、テーマを定めたレッスンを通して「思考の型」を学びます。また、中学生以降は、議論を前提としたトゥールミン・ロジックやパラグラフ・ライティング、立論の方法を学びことで、ロジカル・シンキングやクリティカル・シンキングを身につけます。

「考える」技術・姿勢は、その子が自分の人生を歩むためにはなくてはならないものです。

「対話する」

対話する

「対話する」は、「現実と向き合う」と言い換えてもいいかもしれません。

私たちは、多様な意見や考え方を持ったたくさんの人々の中で生きています。自分が正しいと思うことも、違う立場から見れば間違っているかもしれません。現実は、頭の中ほどうまくいきませんし、また、頭の中だけで考えられるほど、狭くもありません。複雑で広大な世界にどう向き合うか。どのように人とコミュニケーションをとり、意見を交わし、よりよい解決策やアイデアを生み出すか。この場面では、「読む」「書く」「考える」といったすべての力が試されます。

どれだけ知識があっても、それが活かせなければ、何も変えることはできません。どんなによいアイデアがあっても、人に伝えられず、賛同を得られなければ、意味がありません。失敗を恐れずに自分の意見を述べ、対話を重ねていく経験は、その子の見る世界を大きく広げていきます。

交流し、議論し、協力する

対話と議論を通し、異なる立場・意見があることを認めた上で課題や問題を共有し、その解決やよりよい明日を模索する力を養います。ディスカッションやディベート、一冊の本の読み合い、物語やレポート、研究発表などの学習を通して、他者へ向けてきちんと発信し、反応することを学びます。

「対話」では、発言内容の是非よりも、設定されたルールに従って自由に話し、その内容が共有されることを重視します。「議論」の段階では、あるテーマについてのディスカッションを実施しますが、そこには、データ集めや反論の予想などの準備も含まれます。相手を言い負かすことよりも、テーマとなっている問題をどれだけ理解しているか、どれだけ具体的・現実的な解決策を提示できるかが重視されます。こうした対話および議論の取り組みは、生徒の問題意識を喚起し、積極的な学習態度を養います。

成長の原動力

登山

こうした4つの領域に関することばの力は、それぞれが独立して伸びていくわけではありません。互いに影響し合いながら、高まっていきます。その子の成長に応じ、飛躍的に伸びる領域もあれば、しばらく停滞する領域もあります。しかし、一見足踏みをしているような時間でも、本質的な成長には欠かせない時間なのです。

ただし、適切な働きかけと環境があれば、成長のチャンスをよりよくつかむことができるでしょう。取り組んでいる問題や課題を山登りに例えてみましょう。その子をおぶって坂道を登るのは簡単です。しかし、それで本当にその子の力がつくのでしょうか。無理に暗記させたところで、その意味がわかっていないのであれば、何の成長にも結びつきません。自分の頭を働かせていないのですから。

山に登る場合、まず山の地図が必要になります。最適なルートや、登るペースも決めます。食料や道具を選ぶ際には、どんな危険があるのかを想定して行わなければなりません。体力づくりも必要です。迷子になった場合でも、自分の位置を計算できるような技術や装備があれば安心です。いきなり山に行く前にするべきことはたくさんあります。

ことばに関する力を鍛えることも、これに似ています。「読む・書く・考える・対話する」、これらの技術をしっかりと学び、実際の問題に自分の力で向き合っていきます。もちろん、教室では、それぞれの領域において成長に合わせた課題を用意します。停滞している領域があるのであれば、より簡単なところからスタートします。しかし、講師が生徒をおんぶして頂上に連れて行くことはしません。

自分の足で登って初めてわかる頂上からの景色の素晴らしさ、達成感が、次の課題、すなわち次の成長に向かう原動力になるからです。