多読する ― 小学校中学年の読書

小学校中学年(3、4年生)の時期に確かな読書習慣を身につけ、数多くの読書経験を積むことが、その後の学びの支えとなります。今回は、小学校中学年の読書についてご紹介します。

書き言葉を読み慣れる環境としての「多読」

reading

小学校の音楽の時間に楽譜を読むときのことを思い出してください。音符をひとつひとつ丁寧にたどりながら、ピアノやリコーダーの実際の音程と照らし合わせていった経験はだれにもあるのではないでしょうか。ましてや楽譜を読むだけで、その楽曲を頭でありありと再現することは、音楽について専門的に学ばなければなかなか難しいことでしょう。

実は文章を読むということも、同じような側面があります。文章を文節や語句などに区切って把握すること。それらを文としてまとまったものとして理解すること。そして、文と文との関係を理解すること。さらに、文章(段落)と文章(段落)との意味のつながりについて理解するといったことは、量的にも質的にも読むことに浸り、慣れるための取り組みが必要なのです。

どのような環境が望ましいか

現在は子どもたちにとって様々なエンターテイメントの選択肢があります。テレビやゲームといった刺激に満ちた魅力的なエンターテイメントは、本と比べて、楽しみ方が容易であるため、強く子どもたちを引きつける力があります。

そのため、本を手に取るようになる環境というのは、大人が意識的に用意しなければ作ることが難しいものになってきました。ではどのような環境作りをすればよいのでしょうか。

読書環境の足し算と引き算をする

読書習慣を作るためには、まず読書環境を見直すことが大切です。そのために、読書環境の「足し算(=子どもが本に触れる機会を増やすこと)」と「引き算(=子どもが本と疎遠になる要因を減らすこと)」をしてみましょう。

〈読書環境の足し算〉

  • 部屋に本棚をつくる
  • 書店や図書館へ行く習慣づくりをする
  • 図書館での過ごし方や本の貸出と返却の方法を教える
  • 親の本を読む姿を見せる
  • 子どもの読んだ本について話し合う時間を作る
  • 慣れるまでは読書の時間を意識的に作る(勉強の二の次にしない)

〈読書環境の引き算〉

  • テレビやゲームは時間を決めて楽しむ
  • 読書習慣ができるより前に塾などの読解問題をやらせすぎない

中でも重要なのは、親が本を読む姿を見せるという点です。子どもにとっての環境は、大人にとっての環境でもあるため、親に読書習慣があることによって自然と子どもの読書環境も整うのです。

また、本に向かうことが子どもにとって楽しい時間、安らぎの時間、落ち着いて過ごせる時間であるということを感じられるようにすることも重要です。本を読むようにあまり強く勧め過ぎると、子どもにとって読書は強制される嫌な体験として印象づけられてしまい、かえって子どもを本嫌いにしてしまう可能性さえあります。また、読書習慣ができる前に、塾などの読解問題をさせすぎてしまうと、「読書」の持つ意味が変容し、点数を取るための手段になってしまいます。そうしたことが原因で、拾い読みや飛ばし読みといった本質を損なう読み方の癖をつけてしまう場合があります。

本のある環境が、子どもにとって「秘密の基地」であるようにしましょう。家のどこかに、子どもの隠れ家になるような場所を作ってあげてください。そこには、小さくても構わないので本棚を置いておきます。子どもがリラックスできるところに自然に本があるようにするのです。

あるいは、本が新しい交流を生む媒介となる、コミュニケーションを豊かにするものであることが感じられるようにしましょう。同じ本を読んだ経験を共有し、その楽しさを確認し合いましょう。あるいは、お子さんの読み方をしっかりと受け止めつつ、大人としての別の読み方を提案しましょう。他にも、あとがきや作者紹介などから付随する本にまつわる情報を教えてあげましょう。たとえば、作者の出身国や時代について話し合うことで物語のストーリー追うだけではないメタ的な読み方ができるようになるかもしれません。

読書指導のコツ

さて、では実際に子どもに本をすすめるときにはどのようなことを心がけるとよいのでしょうか。ここでは読書指導のコツを紹介します。

必ず子どもの読む力=理解できる力にあった本選びをする

特に一人読みの初期段階で子どもの読む力に合ったものを選ぶことは、非常に重要です。それによって子どもは、本とはその内容を理解し、想像を膨らませることによって楽しむものであることを知るのです。

ですから、本をファッションのように持ち歩くだけでは不十分です。あるいは、読み飛ばしているのに、それをさも読んだかのように振舞わせてはいけません。そうすると、「読む」という行為自体を誤解したまま本と関わる習慣がついてしまう場合があります。幼児期にそうした大人のしている「振る舞いをまねる」時期があってもよいですが、就学期になってもそのような癖があると、その後きちんとした読書経験を重ねることができなくなってしまうのです。

シリーズもの、同じ作家の作品に夢中になる

自分の力でしっかりと読める本を出会い、それを楽しむことができたら、それを大いに褒めてあげてください。できれば、一緒にその本について話し合い、その楽しさを共有しましょう。

もし、その本に続編があったり、同じ作者で同じくらいのボリュームの本があるなら、それを引き続き読むようにすすめてみましょう。こうしたシリーズや作者に夢中になる経験は、きちんと読書を楽しめたという成功体験を強化する効果があります。また、作者を意識することによって、その作者の出身国・出身地域・時代・書き方の特徴などメタ的な読み方にもつながります。

読書の幅を広げる・ステップアップさせる

ある程度、同じくらいの読書レベルの本に読み慣れたところで、読書の幅を広げたり、読書の段階を上げるための選書をすることが大切です。

出版年の古さ、使われる漢字、語句や言い回しの難しさ、作品と読み手の文化的な差異の程度、字数(ページ数)など様々な要素を考慮に入れて、あるレベルのものにおおよそ読み慣れたら、より読みごたえのあるものに挑戦すること、あるいはそれまでとは異なるジャンルの作品に挑戦してみることが、読み手の幅を広げます。

逆に、ある段階の本ばかり読み、他の本に手を伸ばさなくなってしまうと、読書傾向が偏ってしまいます。すると、図鑑ばかり読んでいて物語に馴染みにくくなってしまったり、現代の作品やライトノベルのようなものしか読めず、古典的な作品や翻訳物を読むことができなくなってしまったりします。

食育を考えたとき、偏食せずに、いろいろなものの味わいを知ることは、子どもの成長に必要な様々な栄養を摂取する機会を増やし、子どもの健やかな成長を助けます。同じように、読書についても、より幅広く、より深くその世界を味わい理解できるようになることが、子どもたちの知見を広げ、豊かな心を育むことにつながるのです。

読書の効能

この時期の読書の仕方で重要なのことは、没入して読むこと=その本の世界にどっぷりと浸る体験をするということです。

その世界の登場人物と同化して、冒険をしたり、冷や汗をかいたり、悲しみを受け止めたり、知恵をこらしたりすることです。自分と異なる立場にある人物に起こる出来事を、自分の体験のように感じるということは、異なる文脈を引き受けるという体験でもあります。つまり、同化するとは、その文脈に浸るということだといえます。

たとえば、「希望」という言葉の意味を考えたとき、辞書を引いて知ることができます。すると、「1.こいねがうこと。実現することを待ち望むこと。また、その気持ち。のぞみ。願望。2.将来への明るい見通し。可能性。見込み。(現代国語例解辞典/小学館)」という意味であることを知ることができます。しかし、辞書に記された言葉の語義は文脈を伴わないものです。これで本当に希望を持つということがどういうことかわかったことになるでしょうか。

もっと具体的な事物の特性を表す言葉、たとえば色を表す「赤」ならば、実際にトマトやイチゴの色や怪我をして流れた血の色を見た視覚体験と結びついて赤という言葉の意味=概念を形成します。それと同じように、「希望を持つ」という言葉を知ろうとしたとき、将来に明るい展望を抱くことというような言いかえをするだけではなく、やはり、希望を持つにいたるまでの具体的な体験=文脈を伴うものでなければ、本当にその言葉を意味を実感を伴って理解したとは言えないでしょう。

読書、特に物語を読むことは、そうした抽象度の高い言葉について、様々な文脈を伴いながら理解していくこと、文脈に浸り、様々な文脈を獲得するということに大きな価値があります。

10歳ごろから、子どもたちは抽象的な思考ができるようになっていきます。自由や価値といった抽象的な言葉の理解や、速さと距離と時間の相関関係、塩分濃度など目に見えない関係性を理解しはじめるようになります。ですから、物語だけなく科学的な読み物についても、それまでの世界を押し広げ、ものとものの関係性の世界を知る意味でとても重要な読書体験です。

こうした抽象的な思考=言葉の概念形成や科学的な思考は、それまでの生活体験や多くの読書体験と結びつきお互いの理解を深め合う関係にあるのです。

次回は、書き言葉を習得するための中学年の授業の様子について紹介します。

この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

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カテゴリー: 教育コラム

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