2025年読書感想文課題図書『ねえねえ、なに見てる?』リテラの先生の読書感想文

【講師コラム】大人も書いてみよう、読書感想文

こんにちは、リテラ「考える」国語の教室の講師、黒木里美です。

2025年青少年読書感想文コンクールの課題図書『ねえねえ、なに見てる?』(ビクター・ベルモント著)を読んで、わたし自身が感想文を書いてみました。

本を読んだときに湧き上がってきた思いを形にしたくて書いたものです。 これは決して子どもたちの「見本」になるようなものではありません。

むしろ、一人の大人として本と向き合い、自分自身の経験と重ね合わせて書いた素直な感想です。 でも、この感想文を読んでくださった方々が、「読書感想文ってこんな風に書いてもいいんだ」と感じていただけたら嬉しいです。大人の本音の感想が、子どもたちが自分の言葉で書くためのヒントになれば、という願いを込めています。

ぜひ、保護者の皆さん、読書感想文を指導される先生方も、一度子どもたちと同じ本を読んで感想文を書いてみませんか?子どもたちと一緒に「書く」体験をすることで、新たな発見があるかもしれません。 それでは、わたしの読書感想文をご覧ください。

見えていない世界と見えている世界

『ねえねえ、なに見てる?』の主人公トーマスは、色覚異常のある少年です。彼は赤と緑の区別がつきにくく、他の人とは異なる色彩世界を体験しています。彼が家族一人ひとりの視点を想像していく様子が、私自身の経験と重なり、深く考えさせられました。

蝶と人間では全く違う色の見え方をしていると知ったのは、私が大学生の頃でした。蝶の目は紫外線まで見えるため、人間には見えない色彩世界を認識しているそうです。でも、その実態はまだ完全には解明されていないと聞きました。それを知ってから、蝶を見るたびに「こんな色で世界を見ているのだろうか」と思うようになりました。トーマスが家族の見ている世界を想像するように、私も蝶の視点を想像してみるのです。

本書で特に印象に残ったのは、科学者のママが分子構造で世界を見る場面や、画家のマルタおばさんがキュービスト風に世界を捉える場面です。これは私たちの職業や経験、知識によって、同じものを見ても受け取り方が違うという現実を象徴しています。

「真実は、いつも一つとは限らない」—これは若い頃、会社で先輩から言われた言葉です。ある日、私は同僚の女性とトラブル対応の方法でけんかになってしまいました。私は「柔軟に対応すべき」と主張し、彼女は「イレギュラーを作るのは良くない」と言いました。双方の意見、どちらも大事な視点なのに、私たちはどちらも譲れませんでした。

そのとき、年配の先輩が私たちのどちらも責めることなく言ったのです。「トラブルの現場はあった。でも、それをどうとらえるかは、その場にいた一人ひとりによって違う。事実は一つでも、真実は人の数だけあるんだよ」と。ここでいう「事実」とは、実際に起きた出来事そのもの。一方「真実」とは、その出来事に対する各人の解釈や理解のことです。同じ出来事を見ても、それぞれの立場や経験、価値観によって捉え方が変わるのです。

「では、どうすればいいのですか?」と尋ねると、「答えは難しいし、会社として、みんなで知恵を集めるべきだ。時間をかけても損はない」と教えてくれました。

当時の私には、先輩の言うことがすぐには理解できませんでした。事実と真実の違いも、人によって解釈が違うことも分かりませんでした。ただ、この時に先輩が私たち二人を怒らなかったこと、不機嫌になることなく話を聞いてくれたこと、そして、理解できていない私を指摘せずに笑顔を向けてくれたこと。今ではとても感謝しています。

考えても考えても、人の心は完全には分かりません。何を見て、何を感じているのかも分かりません。でも、それは無駄なのでしょうか?私はそうは思いません。

フランスの哲学者メルロ=ポンティは「私たちは互いの世界を本当に共有することはできないが、それでも理解し合おうとする試みこそが私たちの人間性を形作る」と述べました。この思想は、人の視点を理解しようとする試みの重要性を説いています。

私の弟は舞台俳優でした。彼が役作りについて語るとき、とても生き生きとしていました。「台本のセリフの向こうにある、その人の人生を想像するんだ」と。ある日、なぜそこまで役に入り込むのかと尋ねたとき、彼はこう答えたのです。

「おれは、おれ一人の人生だけを生きるのはつまらない。いろんな人の人生を生きたみたい。」

その言葉に、トーマスの姿が重なりました。私たちは「なぜ自分はここにいるのか」「自分とは何者なのか」と悩むことがあります。その迷いや悩みを他の人も抱えているのだと思うだけで、少し楽になれることがあります。

誰かの気持ちを思うこと、その人の見えている世界を想像することは、自分を知ることになるのではないでしょうか。自分の世界を広げてくれるのではないでしょうか。私はそう感じています。

この絵本を読んで、トーマスが家族一人ひとりの「見え方」を想像したように、私たちも互いの視点を想像し合うことの大切さを改めて感じました。多様性を認め、共感することは、自分自身の成長にもつながるのです。同じ場所にいても、見ているもの、その見え方は全く違う—そんな当たり前のようで、忘れがちな真実を、この本は教えてくれます。

読書感想文を書こう!

対話をベースに、世界で一つの読書感想文を書き上げましょう!

書き上げるのが大変な読書感想文。でも、読書とは本来、楽しいもの。読書感想文を素敵な学びの機会に変えてみませんか?

対象学年:小学生・中学生・高校生

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この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

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カテゴリー: 授業と生徒作品

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