【生徒作品】『ミステリーサークルと先入観』(中1・K君)

K君は、今回のプロジェクトを「発表会」で発表しました。

K君は、今回のプロジェクトを「発表会」で発表しました。

不思議なことが大好きな中1・K君は、物理学や超常現象に興味があります。教室のプロジェクトの題材は、基本的に本人の興味のある分野が選ばれます。今回、K君が選んだのは「ミステリーサークル」でした。

当初、ミステリーサークルの不思議な模様を紹介するだけの予定でしたが、図書館で借りた資料を調べるうち、サークルを人為的に作ったという告白者の存在を知ることになりました。当時、UFOが作ったという説や、特殊な自然現象が原因であるという説が唱えられましたが、なぜ「いたずら」という単純な可能性を突き詰めて調べる動きがなかったのでしょうか。この問題意識が、K君が取り組む内容をさらに深めていくことになりました。

神秘的な現象に惹かれる気持ちは、大切にしたいものです。しかし一方で、だからこそ健全に疑い、自分の頭で考えようとする態度が必要です。今回のプロジェクトで、K君の未知のものへの向き合い方がより確かなものになることを願っています。

作品紹介

序論

私たちの世界には多くの謎があるが、私たちはそれらに振り回されないようにしたい。今回は、多くの人を振り回したミステリーサークルのことを中心に、先入観について考えてみたい。

ミステリーサークルとは

1987年、ベックハンプトンで発見された五つ目のサークル(1991, ラルフ・ノイズ編『ミステリーサークルの真実』集英社)

1987年、ベックハンプトンで発見された五つ目のサークル(1991, ラルフ・ノイズ編『ミステリーサークルの真実』)

ミステリーサークルとは、小麦などの穀物が、茎が千切れてしまうことなく、渦を巻くようになぎ倒されたものである。通常は、円形で、ときどき入り組んだ幾何学模様の複雑な形も見られる。多くは10メートル以上の直径があり、ほとんどが夜間に作られ、日中に発見される。1980年にイギリスのウィルトシャーにある畑で見つかり、その後しだいに注目を集めていった。ミステリーサークルはイギリスの他にも、アメリカやカナダ、日本やドイツ、オーストラリアで見つかっている。

報告されているミステリーサークルの類型(1991, ラルフ・ノイズ編『ミステリーサークルの真実』)

報告されているミステリーサークルの類型(1991, ラルフ・ノイズ編『ミステリーサークルの真実』)

ミステリーサークルは、1980年から現れはじめ、その後、数的にも図形的にも急激に発展している。最初にミステリーサークルが現れたとき、ミステリーサークルの形はただの円が殆どだった。しかし、1981年から、いくつかの円を並ばせたミステリーサークルが発生し、今では直線や幾何学模様を複雑に合わせたミステリーサークルも多くある。

本論

ミステリーサークルの原因として、様々な説があった。しかし、1991年、二人の老人が、自分たちがミステリーサークルを作ったことを公表した。なぜ、長年にわたって、イタズラという真実が見逃されてきたのか。それは、私たちが先入観を持つために、正しい判断ができなかっためである。

人類以外の知性や自然現象が原因としている人々の見方

様々な形があるミステリーサークルを、人々はどのようなものが作ったと考えたのだろうか。ミステリーサークルが発見された当時、その要因として、宇宙人など人類以外の知性が関わったという説、プラズマや竜巻・磁力などの自然現象が原因とする説が一般的だった。

<人類以外の知性が関わったという説>

人類以外の知性が関わったという説を支持する人たちは、この図形はUFOが関わったと考えている。1988年マールポローで、女性がエイブベリー近くの空でUFOがミステリーサークルを作っているところを目撃し、その後、そこに五つ目型のミステリーサークルが二組現れたという報告がされている。他にも、ミステリーサークルが出現した畑の上空に光る物体が飛んでいたなどの目撃例が多く寄せられている。この説を支持する人々は、1980年代に増え始めたミステリーサークルの複雑なデザインも、何らかのメッセージだと考えていた。

<自然現象説>

自然現象説とは、主にプラズマや竜巻、磁力など、科学的に説明できるエネルギーでミステリーサークルが作られたとする説である。有名な研究者は気象学のテレンス・ミーデン、日本では物理学者の大槻義彦などがいる。1981年3月、ミーデン博士は雑誌『気象学ジャーナル』にミステリーサークルの見解を発表した。彼の説によれば、ミステリーサークルの原因は、一定の場所に留まった一種の竜巻ではないかというものだった。また、ミーデン博士は渦を巻いたプラズマが地上へ落下して、落ちた場所の作物を倒すことでミステリーサークルができるという説も発表している。この『プラズマ渦巻説』は、日本人の大槻義彦も提唱していた。

ミステリーサークルの正体

こうして様々な説が入り乱れ、ミステリーサークルへの注目が高まっていた1991年、イギリスのダグ・バウアーとデイブ・チョーリーが、ミステリーサークル制作者として始めて、ミステリーサークルを自分たちが作っていることを公言した。二人は、ロープや板、杭などを使って、簡単にミステリーサークルが作れることを明らかにした。

制作者のデイブは、ミステリーサークルを作っている時の気持ちとして、こう述べている。

「何度も話したかもしれないが、昼間よりも夜に外にいるほうが好きなんだ。麦の上を風が吹き、周りには誰もいない。麦畑の真ん中にいる。美しい夜で、星も空に出ている。まったく素晴らしい。その不思議さ、まるで一八五〇年に戻ったようなイングランドの神秘。このような光景を描いたイギリスの水彩画が好きでね。時々、昔のこういった絵を描いた画家と一緒にいるような気がしたね」(ジョン・マックニッシュ, 1997『ミステリーサークル黙示録』)。

二人は、何らかの報酬が目的なのではなく、楽しみとスリルのためにミステリーサークルを作成したのだった。

なぜ人はミステリーサークルを信じるのか

しかし、ミステリーサークルを研究していた人々は、それがいたずらであるということを、認めようとはしなかった。なぜ、ミステリーサークルがいたずらではないと信じなかったのだろうか。その理由は2つある。

1つめは、非日常を求める気持ちである。これは、いつもと違った世界を味わってみたいという気持ちである。旅行やテレビ、ゲームや本などで、いつもとは違う世界を楽しむことなどが例として挙げられる。ミステリーサークルを人類以外の知性が関わっていると考えた人々は、それを通して、宇宙人などの非日常的な存在を夢見ていた。

2つめは、自分の住んでいる世界についてもっとよく知りたいという好奇心である。人類の科学の探究などもこうした好奇心によって進められてきた。これらは、自分の住んでいる世界を広げていくために必要なものであり、ミステリーサークルを何らかの自然現象が原因だと考えていた人々は、それを通して、新しい発見が得られると考えていた。

こうした気持ちのために、研究者たちはミステリーサークルを単なるいたずらだとは信じたくなかったのである。

先入観を疑うことが大切

証言を元に描かれた『フラットウッズ・モンスター』(1952年)

証言を元に描かれた『フラットウッズ・モンスター』(1952年)

ミステリーサークル研究者たちは、自らの先入観を疑っていなかったため、ほとんどの人が人間の仕業だと考えていなかった。先入観が物事の認識を歪めた事例として、ミステリーサークル以外では、フラットウッズ・モンスターなどがある。この事件は、UFOが森に墜落したと信じた少年たちが、3メートルの宇宙人を見た事件である。しかし、彼らが見たものは、木にとまったフクロウであった。UFOが墜落したという先入観から、フクロウとその下にあった木の葉をフラットウッズ・モンスターと見間違えたと結論付けられている。また、実際には効果のない薬を本物であるかのうように装って与えると、実際に効果や副作用があるが(「プラシーボ効果」)、これも先入観を利用したものである。このように、先入観があると、私たちは自分の思った通りに物事を見たり、反応したりしてしまう。

先入観を疑う

物事を正しく判断するためには、先入観を疑うことが必要である。私たちは、何かを主張する時、自分の主張と一致する証拠だけを集め、不利な証拠を無視しがちである。これを、「確証バイアス」と呼ぶ。ミステリーサークル研究者は、自分に有利な目撃証言や証拠を集めることに努力していたが、それ以外の情報は取り上げなかった。その結果、自分の先入観の通りの結果しか導けなくなってしまった。一方、反証とは、自分の主張と一致しない証拠を探し、その一致しない証拠がない場合に自分の主張が正しいとする方法である。反証を使えば、自分の先入観に振り回される事無く正しい見方ができるようになる。例えば、ミステリーサークルの多くは月曜日に発見されることが多かったが、これはUFOの仕業であれ、自然現象であれ、理屈に合わないことである。実は、ミステリーサークルの制作者が、休日の土曜日と日曜日に作成することが多かったためであるが、自分の主張に関わらず、こうしたことに注目していれば、イタズラという可能性にもっと早く気づくことができたはずだ。

結論

人間は、私たちが思っているよりずっと、真実を見抜けない。私たちはいつも、自分の先入観を疑い、周りや事件に振り回されないようにしたいものである。

参考文献

  • ラルフ・ノイズ(1991)『ミステリーサークルの真実』中冨信夫訳, 集英社
  • チャールズ・M・ウィン, アーサー・W・ウィギンズ(2009)『疑似科学はなぜ科学ではないのか』奈良一彦, 海文堂
  • ジョン・マックニッシュ(1997)『ミステリーサークル黙示録』田中嘉津夫訳, 安斎育郎監修
  • 伊勢田哲治, 戸田山和久, 調麻佐志, 村上祐子(2013)『科学技術をよく考える』名古屋大学出版会
  • Wikipedia
  • UFO EVIDENCE
この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

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カテゴリー: 生徒作品

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