書き言葉に慣れる ― Rさん(小4)・Y君(小5)の授業の様子から

今回は、教室に通う4年生のRさんと5年生のY君の授業の様子を紹介します。この日は、「スリッパと靴を比べよう」というテーマで授業をしました。

楽しみながら書き慣れる

楽しみながら書き慣れるために効果的な仕掛けとして、中高学年であっても低学年と同様「実体験から言葉を立ち上げる」という視点が有効です。具体的な対象が目の前にあり、それを観察したり操作を加えることによって思考が始まります。言葉が立ち現れるその瞬間をとらえることで、言葉はいきいきとした力を得ます。

しかし、低学年段階のように単に五感を使ってその対象をとらえるだけではありません。靴やスリッパといった私たちの身近にある「道具」を考える対象とするとき、忘れてはならないのが、それが私たちとどのように関わっているのかという視点です。つまり、その物の持つ意味や意図、役割を理解するということが重要になります。

今回は、教室においてあるスリッパと自分のはいていた靴を用意して、実際にそれぞれを手にとって観察しながら取り組むことにしました。

シートを使ってメモを作る

観察の際にはサポート・シートに書き込んで、メモを作ります。 慣れてきたら、サポート・シートを使わずに自分で視点を決めてメモを作ります。

スリッパとくつの比較

作文する

メモができたら原稿ノートに作文します。その際、書く構成を考えてから書きます。文章の一番大事なポイントや順序の定型句を使うことなどを意識することが大切です。

スリッパとくつの比較

Rさん(4年)の作文
「スリッパとくつの比較」

これからスリッパとくつの比較をします。

まず、二つの同じところをしょうかいします。二つともはいて歩くための物です。けれども、ちがうところがいくつかあります。

一つ目は、素材です。スリッパは布、糸、川、ボール紙で作られています。それに対してくつは、マジックテープ、ゴムで作られています。

二つ目は、はき心地です。わたしは、走ったときのはき心地を比較しました。スリッパは、今にもぬげそうで、とても走りづらかったです。でもくつは、しっかり足にくっついてぬげなかったので、とても走りやすかったです。

三つ目は、形です。スリッパはつまさきだけ布でおおわれていて、後はどこもおおわれていません。それに対してくつは、つま先からかかとまでおおわれているけれど、足首を入れるあながあいていました。

最後に中じきを比較しました。スリッパはしいてあるけれど、下とくっついてとれないようにしたりました。一方、くつもしいてあるけれど、下とくっついていませんでした。

このようにスリッパは、家の中で、くつした、足をよごしたくないときにはくので、ぬぎやすいように作られています。くつは、外で走ったり、歩いたりする時にはくので、足にフィットしやすいように作られています。

Y君(5年)の作文
「スリッパとくつの比較」

これからスリッパとくつの比較をする。

まずこの二つは、はいて使うことと、はいて歩くための物であることが同じだ。でも、スリッパは家ではくに対して、くつは外に出るときにはくことが違う。

一番のちがいは、かかとのあたりだと思った。くつは、かかとの部分をおおっているが、スリッパはかかとの部分は何もおおっていない。そのため、使っている素材の量もスリッパの方が少ない。

スリッパのくつ底の素材は、しっかり歩けるように平らにしてある。それにくつ底がかたいスポンジなので、歩きやすい。それに対してくつは、走るときに力を入れてダッシュができるようにおうとつのあるゴムになっている。

くつ底は、スリッパは糸が通っていたが、くつには通っていない。それにスリッパはふつうのさいほう用の糸を使っていたが、くつはかんじょうで切れにくい糸を使っていた。そのために、スリッパに比べてくつの方がこわれにくい。

最後にくつ底について、スリッパにはくつとちがって明らかにちがうところがあった。それは、中じきがはいっているかいないかだ。くつには中じきがはいっていて、くつ底もスリッパよりも高い。

このようなことから、スリッパは家の中で、ゆかをよごしたくない時などに使い、くつは外で、運動するのに適した形になっていることがわかった。

発表する・話し合う

作文が書けたら、発表します。聞き手に伝わるように、はっきりと声に出して読み上げます。

実は発表するときは、話し手よりも聞き手の方が重要です。 聞き手は、発表の間に次のようなことを考え、発表後に話し合います。

話し手の伝える内容を理解する 自分と相手の違いを見つける 相手の良いところを見つける こうするともっとよくなる、というところを見つける

こうすることによって、発表がただ書き上げたものを読み上げるだけの作業ではなく、その場の参加者同士の新たなコミュニケーションのきっかけとして機能するのです。教室に通う仲間や、取り組みを見守る先生とこうした交流を持ちながら学習することには、ひとりでの学びでは味わえない新しい発見の喜びや楽しさがあります。そして、そうした協同での話し合いの中で、さまざまな視点が共有され、「考える」ことへの基本的な態度を育んでいきます。

二人の作文を見てみると、Rさんは、「一つ目は」「二つ目は」といった順序を示す定型句が正しく使えています。実際にそれぞれをはいて走ってみることで、それぞれの特徴をよくとらえることができています。 それに対してY君は「一番違うと思ったところは」というように、自分の一番伝えたいことをはっきり示すことができています。特に靴底に注目してさまざまな視点から比較することができています。

発表することによって、それぞれの作文の特徴の違いを知ることができます。そして、そうした違いの中にある異なる視点や優れたものを自分のものとする機会を得ることができるのです。

この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

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カテゴリー: 授業報告, 生徒作品

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