【2016年読書感想文特集】『タスキメシ』額賀澪(高校生向け課題図書)

タスキメシ

内容の紹介

膝に怪我(剥離骨折)を負ってから、陸上で長距離走を続けるかどうか、煮え切らない日々を送っていた眞家早馬。彼は、料理研究部の井坂都から、料理を習い始めます。次第に料理に熱中していく早馬でしたが、同じく長距離選手の弟・春馬は、そんな兄を受け入れることができません。陸上から遠ざかろうとする早馬を中心に、陸上部キャプテン・助川亮介や、ライバル校の藤宮藤一郎など、さまざまな人物の思いが交錯していきます。

読む前の下ごしらえ

考えてほしいこと

読む前に、次のことを考えてみましょう。

  • 心が満たされた食事の経験はありますか。
  • あなたには、何かを諦めた経験や、諦めようとした経験はありますか。

読む

読む時は、印象に残った場面や不思議に思った場面など、「心が動いたところ」にふせんを貼りながら読みましょう。書く時の材料になります。
また、できれば、家族や友だちと、同じ本を読んでみましょう。自分と違う感想や考え方を知ると、感想文の内容がより深いものになります。

準備する

気持ち

本を読んで感じた気持ちをことばにするのは、なかなか難しいものです。読み終わったら、次の「気持ちについて考えよう」シートを印刷して、感じた気持ちに丸をつけてみましょう。対話や作文の際のヒントになります。

体験

読書感想文では、本の内容と自分の体験を結びつけることが大切です。自分の体験が思いつかない場合は、このページの「考えるヒント」を参考にして、本のテーマについて誰かに聞いたり、調べたり、新しく何かをしてみたりするとよいでしょう。

考えるヒント

料理について

この本では、料理が大切なテーマとなっています。

2005年に制定された「食育基本法」(PDFファイル)では「子どもたちが豊かな人間性をはぐくみ、生きる力を身に付けていくためには、何よりも「食」が重要である」としています。これは、食・食生活・食文化が、身体だけでなく、人格や人間性といったところにまで影響を及ぼすという考え方が前提になっています。
しかし、内閣府がまとめた調査では、20歳代~30歳代を中心とした若い世代で「健全な食生活を心掛けている人が少ない上、食に関する意識がその他の世代よりも低く、食品の選択や調理についての知識がないと思う人が多いことがうかがえた」としています(「平成27年版食育白書 第2章内閣府)。

  • あなたは、生きる上で「食」は大切だと思いますか。
  • あなたの食事について教えて下さい。
    • 食事は誰が作っていますか。
    • 十分な栄養はとれていますか。
    • 食事を誰ととっていますか。
  • 「寂しい食事」または「心が満たされた食事」の経験を書いてみましょう。
    • この二つの間には、どんな違いがあるのでしょう。
  • 食について、今後チャレンジしたいことや、心がけたいことはありますか。
早馬と都にとっての料理

早馬と都にとって、料理には特別な意味があります。

  • 早馬は、なぜ陸上から離れようとしたのですか。
    • タイムを伸ばす弟・春馬に対する思いは、どのようなものでしたか。
  • 早馬にとって、都と料理をして過ごす時間はどんな意味を持つものでしたか。
  • 早馬にとって、春馬のために料理を作ることはどんな意味がありましたか。
  • 仲の悪い父母の元で育った都にとって、料理はどんな意味を持つものですか。
    • 都の家にたびたび食材を差し入れにくる助川は、都にとってどんな存在でしたか。
  • 人からの施しなどなくても生きていくと誓った都にとって、早馬と料理をした時間には、どんな意味がありますか。
「ちゃんと走る」ことについて

作中には「ちゃんと走る」というせりふが何度も出てきます。

  • 何かに熱中した経験はありますか。
  • 諦めることは、悪いことだと思いますか。
    • 諦めてよかったことはありますか。
    • 諦めて後悔したことはありますか。
  • 自分の限界を思い知りながらも続けたことはありますか。
  • 覚悟を決めて諦めたことはありますか。
  • 何かを決める時、しっかりと自分の本心に向き合うことができた経験はありますか。
  • あなたは、「ちゃんと走って」いますか。

読書感想文を通して考えてほしいテーマ

  • 「みんな」と「じぶん」
  • 人とのつながり
  • 仲間
  • 勇気
  • 友情
  • 夢をあきらめない
  • 家族
  • 情熱
  • 生き方
  • 料理
  • スポーツ

この本について

才能ある弟への嫉妬や、自分の限界がわかることへの怖さから、怪我を言い訳にして陸上から離れようとした早馬。彼に関わるそれぞれの人物の、それぞれの過去と思いが描かれます。

この物語で中心となるのが、「料理」です。料理は、栄養をとるだけでなく、心を満たすものでもあります。都にとっては、一人の人間として生きていこうとする自分を支えてくれるものであり、早馬にとっては、行き場のない自分に居場所と役割を与えてくれるものでした。

近年、核家族化やライフスタイルの多様化により、家族ではなく、一人で食事をする「孤食」や、別々のものを食べる「個食」が増えています(「みんなの食育 「孤食」や「個食」が増えている」 農林水産省)。丁寧に調理し、誰かと一緒に食べることの意味を、本書を通してもう一度問い直してもよいでしょう。

早馬は好き嫌いの激しい弟の春馬の食事を作ることにやりがいを感じ始めますが、春馬は兄が陸上から離れることを受け入れることができません。助川や藤宮といった、早馬を高く評価している者達も割り切れない気持ちを抱き、早馬自身、本心と恐れとの間で揺れ動きます。一般論として「諦めることは悪いこと」であるとされることが多いのですが、この物語で描かれているのは、そうした単純な文脈で考えるべき事柄ではないように思います。諦めることも、続けることも、それ相応の勇気と覚悟が必要です。長い距離をたった独りで挑むランナーが「ちゃんと」走らなければならないのと同じように、自分の本心と向き合い、ちゃんと諦める/ちゃんと続ける覚悟を固めることが、早馬には必要だったと考えられます。

生きていくうちに、私たちは様々な限界を知り、バランスを取らなければならなくなります。純粋に何かを追い求められる人は、一握りです。しかしそれでも、自分の本心や限界と向き合い「ちゃんと」生きていかなければなりません。

合わせて読みたい

瀬尾まいこさんが綴る、家族をつなぐ「食」の物語です。


妻を亡くし、幼い女の子と二人暮らしの数学教師。教え子の飯田小鳥と一緒にごはんを作り、三人で食べることになります(※マンガです)。

構成について

構成にルールはありませんが、どう書いたらいいかわからない時は、次のことを参考にしてください。

「誰に、何を伝えたいか」

  • ことばは、他者に思いを伝えるためのものです。考えたことやメモを元に、書き始める前に、「誰に、何を伝えたいか」を考えましょう。「伝えたいこと」は、できるだけ一つにしぼりましょう。
    • 誰に……例)家族、友人、先生
    • 何を伝えたいか……例)本の面白さ、感動したところ、自分の想い
  • 「伝えたいこと」をしぼることで、構成を立てやすくなります。

文章の構成

  • 文章は、三つのパートに分かれることが多いようです(※三段落で書かなければならないという意味ではありません)。
  • 【はじめ】
    • この文章で「伝えたいこと」や、あらすじを、簡単に書きます。なお、あらすじの有無を学校から指定されることもあります。
  • 【なか】
    • 本に貼った付せんや、考えたこと、メモを元に、「伝えたいこと」をより詳しく書いていきます。
    • 物語の内容と自分の体験を交えると、「伝えたいこと」の説得力が増し、生き生きとした作品に仕上がります。
      • 物語で印象に残った場面や人物について書きましょう。また、それに対しどう感じたかを書きましょう。
      • 関連する自分の体験を書きましょう。「いつ、どこで、誰が、どうした」から書き始めるとよいでしょう。
      • 体験は、過去の思い出だけでなく、本を読んだ後に人に聞いたことや、調べたことでもよいでしょう。
      • 体験の最後には、その体験を通して学んだこと・感じたことを、物語の内容と絡めながら書きましょう。
    • 学んだことを実行するのはなぜ難しいのか、そのためにはどうすればよいのかといった、より現実に根ざした内容の段落を追加すると、深みが増します。
  • 【おわり】
    • 「伝えたいこと」をもう一度強調し、未来につながる決意や前向きなことばで締めます。
読書感想文の書き方・文例について、より詳しくは「テーマを考えてから書こう! ~読書感想文のコツ」をご覧ください。
この記事を書いた人: リテラ「考える」国語の教室

東京北千住の小さな作文教室です。「すべて子どもたちが、それぞれの人生の物語を生きていく力を身につけてほしい」と願いながら、「読む・書く・考える・対話する」力を育む独自の授業を、一人ひとりに合わせてデザインしています。

タグ:
カテゴリー: ブックレビュー

リテラ言語技術教室について

menu_litera